告白

 次の日、日曜日だったけれど部活があったので山崎君がしっかり迎えに来ていて、ミコちゃんとの待ち合わせ場所に一緒に行った。
「しかし、許せないなあ。生徒会のほうでも問題にしてたの。ああいう問題は放置したらいけないからって、でも磯辺は弱腰」磯部君は生徒会長さんの名前だ。
「会長さんって、大変そうだね」
「先生と親の言うなりで、駄目よ。色々提案しても『多数決で』とか言い出して逃げる。あれは内申書のために立候補したんだろうね」
「そんなこと関係あるんだ?」
「これから、色々有利なんだってね。就職その他でね。だからって事なかれ主義なままじゃ許さない」ミコちゃんも大変なんだな。
「しかし、観野の迫力の半分でいいからお前も身につけろよ」と山崎君に言われて、
「そう言われても」と困ってしまった。
「少しは自信をだせ。観野の十分の一でいい」と言ったため、ミコちゃんが山崎君を叩いていた。
「強暴だよな。一応、幼馴染に向かってやるな」
「覚えていなかったくせに」とやりあっていて、
「そうなの?」と聞いたら、
「聞いてよ。山ちゃんったら、詩織のほうは覚えてたくせに、こっちのことは一つも覚えてなくて、『幼稚園で一緒だった観野でーす』と挨拶したら、『知らん』と一言、言って終わりなんだよ」と言ったため、笑ってしまった。
「しょうがないだろう、覚えていないんだから、そう言えば乱暴な子がいたような気がする」
「失礼なやつ」とミコちゃんが言って、
「そう言えば、ミコちゃんって私の後にあの幼稚園に入ったんだってね」と聞いたら、
「みたいだねえ。この間、お母さんに聞いた。それにお母さんの話も驚いてたよ。近所では死んだ事になっていたから」近所でもそう言ったのか。
「それが綺麗になって現れたから色々言われてるらしいよ。お母さん素敵だったね」
「派手だったよな。昔もそうではあった気もするけれど、良く覚えていないよ」と山崎君が言って、
「友達の親までは覚えていないよね」と言ったら、
「その前に思い出せ。少しはな」と彼がぼやいていた。
「てっきり、元彼女のことだと思った。そういう噂が流れてたよね。自分の良さを忘れて別の男に走ったと言われていて」
「別の変態会長に走ったヤツはいたけれどな」と山崎君が睨んでいて、
「ははは……」と笑ってごまかした。
「そう言えば、あれって一緒に帰ってただけだったんだよね。いくら注意してもやめないから変だとは思ったんだよね。あの人じゃないんでしょ、片思いの相手」
「え、それは……」
「後姿を見てた相手、教えてくれなかったよね」と言われてうつむいた。ミコちゃんは私がぼんやりしながら彼を見ていたとき、「何見てるの?」といきなり声を掛けられたことがある。でも、今言わないでほしいなとちょっとだけ山崎君を見ていたら、
「ふふーん」とミコちゃんが意味深に笑った。
「なら、付き合えばいいじゃない」とミコちゃんがいきなり言って、むせてしまった。
「あら? 駄目なの? いいと思うなあ。お似合いだって」
「どこもつりあっていないよ」と言ったら、
「そういうのは本人達が決めることだ。気にするなと言ってるのに」と言われてしまい、うな垂れた。
「なんだ、そんなこと心配しているんだ。どうせ好きなんでしょう? ここで言いなさいよ。『付き合ってください』とでも、『ずっと好きでした』とでも」とミコちゃんに言われてしまい、困ってうつむいた。ばれちゃっている……。
「真っ赤な顔してねえ。うぶで困るなあ。ごめんね、山ちゃん。まだ時間が掛かりそうだ。遠くから見つめるだけじゃ駄目だって、前から言ってるというのに」とミコちゃんが言った為、彼が驚いてこっちを見ていた。
「せっかく遠くの人だと思った山ちゃんとこうして一緒に登校できるようになったんだから、ちゃんと自分の口から告白しなさいよ。そんなんだから漬け込まれる」と言われてしまい、益々顔が赤くなってしまい、山崎君がうれしそうに私の顔を見つめていた。

 部活ではごく普通にしていた。そのほうがいいからとミコちゃんと山崎君に言われていた。
「しかし、困っちゃったよね。先生を呼びに行くしか出来なくてごめんね」とみんなが謝ってくれて、
「足がすくんじゃった。とっさに庇えないよね。怖かった」
「あのパイプみたいなものはなんだろうね、怖いね」と言っていたので、よく見てるなあとびっくりした。
「どうしようか?  加茂さんの問題ってテニス部の問題でもあるよ」と話し合っていて、木下君と掛布君がそばにやってきた。
「聞いたよ。大変だったな。前もあったんだ」と説明をしていた。
「楢節さんたちが相手だったんだ?」とみんなが驚いていた。
「あの人は一年生から試合に出てたんだよ。それでよけい面白くなくてね。しかし、そっちも逆恨みもいいところだよな。どうする?」と聞かれて、
「説明するしかないと思う」と答えた。
「えー、無理だよ。だって、言いがかりもいいところじゃない。テニスで負けました。それで出て来れられなくなったのは自分のせいですって彼女が言うわけはないね」と緑ちゃんが言い出して、その通りだなあと思った。
「真実は語っていないかもな。捻じ曲がって教えていて、恨みつらみだけ言ってたら、きっと誤解されているかもしれない。問題はそれをどうやって証明するかだよな」と掛布君が言った。
「加茂さんやあのグループと仲がいい子はいないの?」と聞いていて、
「無理。こっちはいないよ」「こっちもだね」と言い合っていた。
「おーい、男子何かアイデアないか?」と聞いているときに、一之瀬さんがやってきて、みんながシーンとなっていた。でも、彼女はロザリーのほうへ行ってしまった。
「しばらくは山ちゃんに送り迎えしてもらえ、それしかないな」と木下君が言った為、
「いいなあ」と後ろで後輩がうらやましそうにしていた。
「しかし、逆恨みって怖いよな。もうかなり時間が経ってるのに、今頃」と別の男子が言い出して、
「それはあるなあ。何があったんだろうね」とみんなも考えていた。

 練習は普通にやっていて昼から先生がいなくなったときに、誰かが見てる気がした。ボールを捜しにみんなと外れたところに行った時に、例のグループが校舎の奥にいるのに気づいてびっくりした。怖くなって逃げようとしたら、追ってきた。
「捕まえてよ」と誰かが言っていて、みんなの方に逃げた。
「やばいぞ、そっちだと見つかる」と言っている声が聞こえたけれど、追いつかれて校舎の奥に連れて行かれてしまい、
「昨日は邪魔が入ったからな。しかも、家には誰もいなくてねえ」と言われてしまい、やはりそうだったんだなと思った。
「しかし、今日という今日は逃がさない。今は先生も臨時で何か話しあいしているのか、いないからチャンスだな」と言って、
「奥に連れて行こうぜ」と言われてしまい、
「やめて」と言ったら、せせら笑っていた。
「加茂さんがどう説明を受けたのか知らないけれど、逆恨みもいいところよ」と言ったら、にらまれてしまった。
「いいから、のしちゃってよ」と加茂さんが慌てて言った。
「テニス部に来れなくなった経緯は逆恨みもいいところ。練習をしていなかった加茂さんが、少しずつやっていた私達に負けたのは当然だと思う」
「何よ、あなたなんて私の足元にも及ばないわ」と加茂さんが言い出して、
「一之瀬さんが言ったことを信じたから、私に嫌がらせしてたんでしょう? 私のラケット隠して、制服をどぶに捨てて、デマを流して村八分にして、そうやってまだ、こんな事をして何が面白いのよ」と言ったら、手を持っていた男子が驚いて手を離していた。
「え?」とびっくりしていて、
「全部聞いたよ。説明してくれた人がいた。私は何も言っていないのに一之瀬さんが嘘を教えたんだってね。先輩にも言っていて、後輩もみんな半信半疑だったけれど、様子を見ていて、あなたは完全に誤解して、ああいうことをして、まだ謝ってもいない。反省もしていない」
「黙りなさいよ」と加茂さんが慌てていて、
「アパートに住んでようが、県営に住んでようが、そんなことはどっちでもいいじゃない。そんなことで」
「やっぱりバカにしているじゃない。私のことを馬鹿にしてたんだわ。一戸建てに住んでいて親が外車乗ってて、生意気なのよ」と加茂さんが言って、
「だよな」とそばの男子が言いだして、
「そんなことは関係ない。大体、あの人に会ったのは2年生になってからだし、それまでは生きてる事さえ知らなくて」と言ったら、みんなが驚いていた。
「え? なによそれ」と言われて、
「母親は死んだと聞かされてたもの。それに」
「やめろ」と後ろから山崎君がやってきて、
「何しているんだ」と私の前に回った。後ろにテニス部の子達が離れて立っていた。
「こんなことしてなんになるんだ? そいつが何を言ったのか知らないけれどな、詩織には関係ないだろう」と山崎君が言って、
「なーにが詩織だ」と相手がせせら笑っていたけれど、
「お前、本当か?」とそばの男子が聞いてきた。
「なにが?」と山崎君が怒っていて、
「さっきの話だよ。俺が聞いていたのと逆だぞ」と言い出したのでびっくりした。
「そういやあ、そうだよな。制服隠されたとかラケットを隠したのはこの女だと聞いてたから、変だと思って」と相手が言い出したので驚いた。
「そうそう、テニスで負けたからって腹いせに隠されて、先輩を味方につけてやらせの試合で勝って追い出そうとしてきてって」
「すごい嘘」「真逆だ」「そこまで話をすり替えてたの?」と後ろからテニス部の人たちがが言った為、みんなが一斉に加茂さんを見ていた。
「嘘なのか?」とすごい剣幕で、そばにいた男子が言っていて、
「そんなのは出鱈目よ。私が言ってるほうが本当で」と、加茂さんが慌てて言ったけれど、
「一之瀬」と拓海君が一之瀬さんを睨んでいたので、彼女が口惜しそうな顔をしてから、
「違うわ」と、言った。
「その子の言ったほうが本当よ。恵が言ったのは全て出鱈目」と言い出したため、みんなが驚いてしまい、周りがひそひそやりだした。
「まだあるだろう?」と拓海君に言われて、渋々口を開いて、
「全部、そっちが本当よ。佐倉さんはアパートの話は言っていない。私が言い出した嘘なんだから」と言った為、加茂さんがすごい顔をして見ていた。
「昨日、山崎君から電話をもらってね。こうなってるけれど、お前どう責任取るんだと言われちゃったからね。だから、本当のことを言うしかなさそうね」と言ったため、驚いて彼を見た。
「どうやら、本当みたいだな」と言った奥の人を見て、山崎君が首をかしげていた。
「あれ、あんた」と言ったので、相手も彼を見ていて、
「あれ、どこかで見たな」と言い合っていた。うーん、知り合いなんだろうか。
「山ちゃん」と山崎君が相手を見て言ったのでみんなが唖然としていた。
「タクだ。そうだよ、拓海でタクだったよな。お、懐かしいなあ」と言い合っていて、
「お取り込み中すみませんが、山ちゃんってどっちが?」と緑ちゃんが気になったのか聞いていた。
「ああ、俺、山川っていうんだ。山川宏。それで山ちゃん。団地だとさあ、名前やあだ名が重なるから、色々つけててねえ。こいつが山崎で俺の方が先にいたから、名前から取ってね。俺のほうもヒロシが別にいたからそうなっていって、……そんなことはどうでもいいんだ。さっきの話は本当か?」と聞いていて、
「ああ、そういうことだ。そこにいる。加茂とつるんでいた一之瀬が色々面白くない事が重なってデマを流した。嘘をね。こいつの事が気に入らなかったらしくて、追い出すためにそういうことをしてね。加茂が真に受けてしまったのが真相だ。それで面白くなかったため、選手に選ばれたのがこっちだったから、問題が起きたんだ。真相は選手候補を選びなおしてくれと頼んで試合をして、正当なちゃんとした試合だったが負けてしまった事が認められず嫌がらせを続けていた。ラケット隠すように後輩に頼み、靴を隠すように別の部活の後輩に命令して、制服をどぶに捨てたり、こいつと口をきかないように、デマを流したりして追い出そうと画策した。しかし、こいつはそれに耐えていて黙ってやっていた。最後は試合をして完全に負けたにもかかわらず認められずに、そのままテニス部に出てこなくなったというわけだ。みんなも知っている」と後ろを見た。後輩たちがうなずいていて、
「そんなこと頼んでいたの?」と緑ちゃんが犯人探しをしていて、
「やめろ、済んだことだ。そっちはいいよ。とにかく、そっちはどうしてこいつを付け狙ったか説明してくれ」と山崎君が言ったため、
「嘘を教えられたんだよ。全部嘘だったようだな。やられたのは恵のほうだと聞いた。でも、見ていて分かったな。嘘だって」と相手が言ったため、どういう意味なんだろうなと思った。
「恵の話が嘘臭かったから、俺は真相を知りたくてね。昨日の話を聞いてやってきたんだ。まさか、そういうことだとはね。ああ、言い訳みたいになると困るけれど、俺は別に危害は加える気はなかったぜ。恵が辛そうだからな。それで本当のことだけを知りたくて説明を聞きたかっただけだ」と山川さんが言って、加茂さん達が驚いていた。
「悪いが、これ以上は問題を大きくしたくない。部外者は席を外してくれ」と山川さんが言った為、みんなが顔を見合わせて、山崎君がうなずいて渋々戻って行った。
「奥に行こうぜ。見つかると困る。どっちにしてもちゃんと話し合わないとな。お互いのためだ」と山川さんが言って、
「大丈夫だよ。山ちゃんは嘘つくような人じゃないから任せよう」と山崎君が言ったのでうなずいた。

 焼却炉のそばの机が置いてあるところまで行って、適当に椅子に座っていた。大体の説明をお互いにしていて、
「真相は分かった。おい、恵。それはお前が全部悪いな」と山川さんが言ったため、みんながうなずいていて、加茂さんだけが納得していなくて口を結ぶようにしていて、怖い顔をして下を向いていた。
「しかし、嘘だったのかよ。やばくないか? 昨日のこともさあ。怪我人出てたらやばかったぞ」とそばの男子が言っていて、
「あいつは反省させないとな」と山川さんが言った。
「悪かったな、知らなくてね。知ってたら止めてたんだが。的内に相談を受けて、それで聞きだしてね。真相を確かめてからにしたかったんで、今日来たんだよ。家に押しかけるのも困るからな。それにテニス部の人にも話を聞きたくて、内密にしたかったというのに、騒ぐから」と男の子達を山川さんが睨んでいた。
「だったら、言って下さいよ。てっきりさあ」とぼやいていた。
「的内君が相談したんだ?」と聞いたら、山川さんがうなずいていて、
「怖くなったらしいぞ。さすがにクラスメイトを襲うのは性に合わなかったらしい。あいつはけんかする事よりつるんで遊んでいたいタイプだから、参加はしなかったらしいが、止める事も出来なくて悩んで相談してきた。よかったよ、怪我がなくてね。恵、ほら、ちゃんと謝れ」と山川さんに言われて、渋々頭を下げていた。
「親がいないもの同士、あぶれ者同士で、集まりやすくてなあ。俺も母親と二人暮しでみんなとつるみたくてね。ここにいるヤツはそういうやつばかりだ」
「それで引っ越しちゃったんだな?」と山崎君が聞いていた。
「親か……」と上を向いた。
「悪かったな。あんたの親の車とか見て、うらやましかったんだろうな」
「どうせ馬鹿にしてたんでしょう? 貧乏人って」と加茂さんがすごい剣幕で言い出して、
「やめろ」と山川さんがたしなめていた。
「馬鹿にしていないよ。こいつはそういう意識はないな。それに、親の事も自慢しないよ。何しろ幽霊だから」と山崎君が言って、睨んでしまった。みんながびっくりして、
「そう言えば、母親が死んだと聞かされたってすごい話だな」とそばの男子が驚いていて、説明した。
「なるほどなあ。親が生きてると知らなかったのか。そう考えるとお前も同類だなあ」と言われてしまい、
「そうだね。うちも両親と暮らしていなかったから」と言ったためみんなが驚いていた。
「幼稚園の時に離婚したんだって。その後、父親と暮らしていくにはさすがに無理だったから、おじいちゃん達と暮らしたの。父は仕事に行くのに通勤で1時間半もかかるから、そのうち会社の寮みたいなところに入って別々に暮らしていて、だから、一緒に暮らしだしたのは小学校の5年生からだね」と言ったため、みんなが驚いていた。
「なんだよ、俺のところと同じだ。俺も爺ちゃんに預けられて」と言い出して、色々あるなあと思った。加茂さんがすごく驚いていた。
「でも、寂しくはなかったよ。おじいちゃんもおばあちゃんもいてくれて、近所男の子達も最初のほうはめそめそ泣いてばかりいたからいじめられてたけれど、そのうち色々面倒見てくれてね。川に行って遊んで、畑で野菜を食べてたりしたなあ。私はトマト食べられないし、きゅうりばかり食べてた」
「田舎だな」と言われてしまい、
「そうやって暮らしてた。部活に入って鼓笛隊やりたかったのに、ガキ大将の太郎が私と遊べなくなったとか言って腹いせに太鼓を壊して、太鼓に『太郎が壊しました』とマジックで誰かが書いて」と言ったため、みんなが一斉に笑っていた。
「いたよな、そういうやつ」「俺もやった」と言ったため、どこでもあるんだなあと笑ってしまった。
「そういう暮らししていて楽しかったから。こっちに戻ったら、クラスではいじめられるし、嫌がらせしても誰も助けもしなくて、やっぱり泣いてばかりいたなあ」
「お前、弱いなあ。殴り返せよ」とそばの男子が物騒な事を言って、
「俺達そういう経験は一通りしているからな。親がいないとか言われるし、あそこの子と遊んじゃいけないとか、仲間はずれにされたり」
「俺もあるな。山ちゃんと会うまでは誰も話も聞いてもらえなくて」
「俺も同じだぞ。先生に頭ごなしで怒られて、いつも俺のせいにされてよ」と山川さんが言い出した。
「みんな同じだよ。恵、お前は被害妄想が強いんだよ」と山川さんに言われて、
「聞いてみないと分からないもんだよな。あんた恵まれているように見えた」とそばの男子に言われたため、
「そう?」と山崎君に聞いたら、
「のんびりして見えるからだよ。お前は寂しくても、そう見えないからね」と言われてしまい、そう見えるのか……と考えてしまった。
「被害妄想が強いのは直したほうがいいかもな」と山崎君が加茂さんを見て言った。
「でもよお。センコーがうるさいぞ。『タバコ吸ってただろう?』とかすぐ聞いてくるし、勉強しろとか、バイク乗るなとか」
「それが商売だから当たり前」と山川さんが言って、
「何か問題が起きるとすぐ俺達のせいにしやがる。うっとうしい」と言ったので、そういうことを裏で思ってたんだな……と聞いていた。
「先生は事なかれが多いから期待すると裏切られるかもな。とにかく、加茂さんは少しは考え直したほうがいいよ。少なくとも一之瀬の言う事を真に受ける事だけはやめておいたほうがいい、半分は嘘だから」と山崎君に言われて、加茂さんが考えていた。
「だよな。友達は選べ」と山川さんに言われて、
「そうだよなあ。俺達がいるからいいじゃん」と声をかけていて、みんな、どこかで寂しいのかもと思いながら聞いていた。
「しかし、あのタクに彼女がいるとはねえ」と山川さんが言っていて、
「違います」と否定したら、
「一応、今のところ幼馴染のままなんだよ。いくら言っても駄目でね。山ちゃん、何とかしてくれよ」と山崎君が言ったため、みんなが笑っていた。
「こいつ、団地でもモテてたよな。途中からさあ。それまではジャイのせいで俺達肩身が狭くて」
「ジャイ?」
「ああ、いじめっこがいたんだよ。それでジャイってあだ名」
「そのままじゃん」とみんなが笑っていた。

 部活に2人で戻ってから、テニス部の子達が心配そうに見てきた。
「大丈夫だった?」と聞かれて、
「一応、話は付いたよ。もう、大丈夫だから」と山崎君が説明してくれた。
「先生は来ていないからばれていないと思う。後輩にも口止めしてあるから」と千紗ちゃんが言ってくれて、うなずいた。
「それにしても加茂さんもどうしてあんな嘘つくんだろうね」と緑ちゃんが言ったため、
「緑ちゃんも人のことは言えないよ」とつっこまれていたため、みんなが笑っていた。
 帰るときになって、
「詩織って呼び捨てはすごいね」と言われてしまい、そう言えば、そう呼んでいたかもと思い出した。
「うらやましい。庇ってくれる幼馴染でカッコいい人募集中」
「それは募集できないだろう?」とそばにいた掛布君が笑っていた。
「カッコいいヤツばかりに行くなよな」とそばの男子がぼやいていて、
「だってさあ、こっちの幼馴染って駄目だよ。弱っちい」
「私のほうがあごでこき使ってたなあ」「喧嘩すると負けるかも」と言い出して、すごいかもと思った。
「山崎と佐倉の幼馴染はいいコンビだよなあ。助けてもらえて、お前良かったよな」と言われてしまい、うな垂れた。困ったなあ、また迷惑掛けちゃった。
「しかし、加茂はあの化粧は取ったほうがいいよ。怖い」
「化粧はしないほうがいいなあ。中学生としては違和感が」と男子が言っていて、
「かわいい化粧ならやってみたい」と女の子が言い出して、
「そう言えば、あの人も山ちゃんだったんだね。どうしてこっちではタクじゃなくて山ちゃんなんだろう?」と緑ちゃんが聞いてきて、
「さあ、そう言えば知らない」と言ったら、
「頼りにならない幼馴染だよな」とみんなに笑われてしまった。
 校門の前にいったら、
「幼馴染の山ちゃんがお待ちだよ。いいねえ」と言われてしまい、見たらしっかり山崎君が立っていて、
「遅い」と笑っていた。みんなと別れて一緒に帰ることにした。
「一応、解決したけれど、しばらく一緒に帰ろうぜ」と言われて、
「でも」と困ってしまった。
「加茂が納得してくれてるなら安心だけれど、あの顔はまだね」
「どうして、この時期なんだろうね?」
「車だよ。あの車を見て、そう思ったんだろう? お前は知らなかったようだが一部の生徒の間では噂になっていた。車好きなら値段を知ってるからね」
「値段?」
「いいよ、その辺はお前は気にするな。とにかく、そういう関係ない理由で逆恨みはされることもあるよ。本人がしっかりしていないとな。ということでしばらくは一緒に帰って鍛えてあげよう。最もずっとでもいいけれど」と言われて、うつむいてしまった。
「そう言えば、どうして山ちゃんってあだ名なの? って聞かれたよ」
「ああ、あれね。どうやって呼べばいいかって話をしたときに、前は何て呼ばれてたか聞かれてね。とっさに『山ちゃん』と答えたんだよ」
「だって、それはあの人の」
「そう、あの人から取ったんだよ。『タク』とは呼んでもらいたくなくてね」
「どうして?」
「そう呼んでほしい人は別にいるから」と言われてしまい、意味深に見ていたので、うーん……と困ってしまった。
「昔は『拓海君』とか、『拓海』とか呼んでくれたというのに。そろそろ呼んでくれよ」と言われて、顔が赤くなりそうだった。
「うぶだよなあ。朝言ってたこと本当か? お前、遠くから見つめてた話はどういうことだ?」と聞かれてしまい、
「だから、それはその通りの意味で」
「声も掛けられず、遠くから姿を見てというのは、いじらしいと言うより、ふがいないぞ。少しは声をかける努力をしろ」
「できないよ」
「気づかないだろう。せっかく遠くから見ててくれても、こっちが気づかなければ意味はない」
「だって、気づかれて昔からかわれたから、できるだけ男子がいない所で、相手が後ろを向いていたり、こっちに気づかれない距離のときに見る癖が付いていて」
「呆れる。それじゃあ、分からないよ。お前は全然こっちを見ないから、てっきり完全に忘れてると思うだろう?」
「それは、そう言えば思い出せないね」
「呆れるよ。まったくね、そろそろちゃんとしようぜ。いいだろう?」と聞かれてしまい、困ってしまった。
「あの、それは困る」
「なんで? 両思いならいいだろう」両思いと言われても……、
「違うのか? まさかあいつのほうがいいとか言うなよ」
「あいつって先輩は違うから」
「そうじゃなくて」
「でも、ちょっと待って、えっとね。言わないといけない事があって、それをクリアしないと、卒業できなくて」
「だったら言えよ。あの人に早くね」
「違う」
「なんだよ、それ」と怒っていて、
「あの、えっと、ここではちょっと」
「まだるっこしいなあ。どこなら言えるんだ?」とにらまれてしまった。

「早くしろ」と睨んだので困ってしまった。
「あの、とりあえずジュースを飲んでください」
「早く用件を言え。そっちが先だ」と言ったので、うーんと考えてしまった。二人で私の家の居間でジュースを置いて、席に座ったけれど、でも、改めてこういう感じで言うのも変だなあと考えてしまった。
「言いなさい。でないと何のことか分からないからな。告白したい事があるんだろう? 何を隠しているんだよ、もう今更何が出てきても驚かないから、言えよ。聞いてやるから。あの先輩と何かあったのか?」
「あの先輩と?……別にないけれど」
「何か言われたんだろう? あの発言ってなんだよ?」
「ああ、それ。それは……」じっと見られてしまい恥ずかしくなった。
「言いづらい」
「言えよ。気になる」
「言ってもいいけれど、あの先輩の変態伝説が更に増えそうだ」
「なんだよ、それ」
「あの、その前に言わないと」
「言えよ」と睨まれて、
「そういう顔をされると言いにくいので」
「目をつぶっててやるから言え」と言われて、
「立って」と言ったら驚いていた。
「向こう向いて立っててくれないかな。そのほうがありがたい」
「面倒くさいヤツ」と言いながら、渋々移動して立ってくれて、向こうを向いていた。
「あのね、その、いっぱい色々あったじゃない。それで、その」
「あったな」
「それでいっぱいあるたびに助けてくれて、それでとても感謝しているの。助けてくれてありがとう」
「そうだな、世話が焼ける」
「昔のこととか、私は全然覚えていないし、でも、がんばって思い出すつもり」
「ああ、そうしてくれ」
「それに、迷惑を掛けてきて少しでも迷惑を掛けないようにしていきたいと思う」
「手伝ってやるよ」
「ごめんね」
「そんなことはいいよ。昔からそうだからね」
「腐れ縁だからだね」
「そんなことを言うために後ろ向かされたのか?」と少し怒っていて、
「拓海君……」と呼んだら、黙っていた。
「今までいっぱい世話になってしまって、まさか、幼馴染とは知らなくて、助けてくれてありがとう。感謝してます。私、ずっと遠くから見てたの。懐かしくて優しい気持ちになれて、見てるだけで幸せだったの」と言ったら、黙って聞いてくれていた。
「あの人気投票の前からずっと、ずっと……好きだったの」と言ったら、こっちを振り向いてきて、恥ずかしくてうつむいてしまった。
「好き……です」と言ったら、寄ってきて、
「どうして言ってくれなかったんだよ?」と聞いてきた。
「だって、恥ずかしくて。それに絶対相手にしてもらえないと思ってたから、だから、言えなくて、でも、好きだから」と言ったら、彼が更にそばに寄ってきて抱きしめてきた。「え!」と、びっくりしたけれど、そのままにしていた。
「なんだよ、心配になるだろう? まったく、何かと思ったじゃないか。余程言えないような何かがあるんだなと心配していて」
「先輩に言われたの」
「何を?」
「自分の口からちゃんと告白したら別れてやるって」
「なんだよ、それ?」
「それが卒業試験だと言われた」
「呆れる人だよな」
「ああ見えて優しい人なの。私が拓海君のことを好きだってことはずっと知ってたんだって」
「ふーん」と考えながら髪をなでていてくれた。
「だから、鍛えてやるって最初に言われたの」
「なんだよ、それ?」
「変な噂になってからかわれて困ってるって相談したら、しばらく一緒に帰れば消えるから、そうしろって言われたの、ついでに鍛えてやるって。恋愛も人間関係も今のままじゃ、まともに出来ないから、俺と一緒に帰れば少しは良くなると言われて」
「それで、そうしたのか?」と聞かれてうなずいた。
「呆れるよ。どうせそんな事だろうと思った。心配して損した」
「心配してくれていたの?」
「当たり前だろう? お前は引っ込み思案のままだったし、心配ばかりしてたよ。俺も遠くからしか見てられなかったけれど、それでも心配だった。2年で同じクラスになれたとき、うれしかった。でも、お前は全然気づいてくれないし、でも心配だしね。あいつとも仲良さそうにしていて」
「あいつって?」
「弘通だよ。最近だって、そっちのグループで楽しそうに話していてね。気になって」
「知らなかった」
「あいつらオタクって感じなヤツが多いからな。帰宅部ばかりだし、大丈夫かなって見てたら、戸狩がからかうし、そのせいで桃にばれた。観野と仙道も知ってるんだよな」
「そうだったの?」
「ああ、蔵前とあかりはおしゃべりだから内緒にはしてたけれど、どうせあちこちバレバレらしいぞ。何度も聞かれて、面倒だったから『そのうちそうなる』と言っておいた」
「そう……」
「なんだよ、心配して損した。あの先輩に弱みを握られてるとか、変なことをされたんじゃないかとか、吹き込んでくるヤツらがいて、大丈夫かなと思ってたのに、そんな真相かよ」
「ごめんね、言い出せなくて」
「そういうことは早く言ってくれよ。待ってたのに。返事をくれないから、てっきり、あの先輩に脅されて付き合えないのかとか、それとも心変わりしたのかとか変なことばかり考えちゃったよ」
「だって、言いにくいじゃない。相手にもしてもらえないだろうと思ってたし」
「お前は自分に自信がなさ過ぎる」
「でも、実際、私たちってあまり似合っていないし」
「そんなことは俺達が決めることだ。他のヤツはほっておけ」
「そう言われても」
「バツだ。もう一度言え」
「何を?」と彼の顔を見たら、すごく顔がそばにあったのでうつむいてしまった。
「恥ずかしがりやさんだよな」と言いながら、手で頬を持ってきて、顔を近づけてきたので、どきっとした。
「目をつぶれよ。こういうときは目をつぶるんだ」と言われて、「えー!」と思って下を向こうとしたら、
「目をつぶれ」と言われて、渋々目をつぶった……。

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