難しい年頃

 あちこち、じろじろ見られる事が多くなってきた。拓海君との事が言われているらしい。
「タクは人気あるからなあ」とミコちゃんが笑った。
「結局、タクになっちゃったね」
「だって、山ちゃんよりしっくり来るよ。合っていないよ。クールなキャラだから、ちゃん付けは合っていない」とミコちゃんが笑った。確かに違和感があった。
「そろそろ、ミコちゃんの本命を教えて」と言ったら、笑っていて、
「教えてくれてもいいのに。そう言えば楢節先輩の彼女って人妻かなあそれとも先生かな」と言ったら、
「なにそれ?」と驚いていた。
「だって、人に言えない相手ってそれぐらいしか思いつかないから。ミコちゃんのバレー部顧問の先生と同じ」と言ったら、睨んでいて、
「なんだ、ばれてるじゃない」と笑っていた。
「じゃあ、さあ、そろそろ教えなよ。タクと付き合ってるんでしょう?」付き合ってるというのかなあ? その前となんら変わらないなあ。唯、一緒に帰ってるだけでね。おじいさんのところで会ってたときと、全然変わっていないしねえ。
「デートはしたの?」
「デート?」
「近所で目撃されてたんでしょう? どこに行ったの?」
「ああ、あれね。小さい頃の記憶がないからね。それで昔ここに何があってとか説明してくれたの」
「思い出せた?」
「全然」
「そうなんだ。しょうがないよね。ばたばたしてたらしいからね。お母さんから聞いたよ。お父さんと離婚したときもその後引っ越したときも慌しかったってね。だから、みんな大丈夫なのかな? と思ってたらしいよ。それに、タクぐらいしか付き合っていないからみんな知らなかったんだって。お母さん忙しい人だったらしくて、そのときの付き合いは彼のお母さんぐらいしかしていなかったらしいよ。送り迎えはしてなくて、幼稚園バスでタクの家で降りて一緒に遊んでいたらしいよ。お母さんは出かける事が多かったらしいからね。それでタクのお母さん覚えてたんだろうね。私のお母さんとは話していなかったんだって。タクのお母さんは坂下のお母さんと話してたの。だから、私とは幼稚園の時に遊んだぐらいで親は覚えてなくて」
「そうなんだ?」
「タクがあの幼稚園に通ってたと聞いてから思い出してね。こっちは覚えてたのに、向こうは覚えていなかった。子分は一通り覚えてたのに」
「子分?」
「いたよ、いっぱい」さすがミコちゃんだ。
「でも、タクは言う事を聞かなくて、生意気だった。あの頃からね」向こうもそう言っていそうだな。
「しかし、幼馴染で恋愛に発展するものなんだね。わたしはありえないな」
「年上の方がいいんでしょ? 同じ年じゃミコちゃんに負ける」
「言い切らないでよ」とミコちゃんが笑っていた。

 教室に行っても、あちこち時々からかわれる。「付き合ってるの?」とあかりちゃんが何度も聞いてきて、その度に笑ってごまかしていた。
「教えてくれてもいいのに。あ、タク」と拓海君の方へ寄っていった。
「お前はその呼び名禁止って言ったろ」と怒っていて、
「けち」とやりあっていて、蔵前君がからかっていた。
「蔵前ってあかりとどうなんだ?」と聞かれていて、
「俺、一年生の子が気になって」と言ったため、みんながびっくりしていて、あかりちゃんが黙っていた。
「お、やはり、あかりの方はそうみたいだぞ」と言われていた。
 碧子さんと廊下で話をしていて、
「とてもじゃないけれど、私は言えないわ」と言ったため、
「そうなんだね」と聞いていた。「先輩に告白したら」と何度か言ったけれど、いつも同じ答えだった。これだけ綺麗なのに。
「ねえ」と誰かに話しかけられて見たら、武本さんだった。そばに友達なのか、2人いた。
「なに?」と聞いたら、一緒にいた子が怖い顔をしていた。
「タクと付き合ってるって、本当?」と聞かれて、どう答えようかなと考えていた。
「どういうつもりよ。幼馴染か知らないけれどね、横入りして」とそばの子達に言われてしまった。
「真実はずっと仲が良かったのよ。付き合うのも時間の問題と言われていてね。でも、彼はバスケ優先とか言っててね。それなのに」と言われてしまい、とても本当のことは言えなかった。
「どうなの?」と聞かれて、
「えっと、友達というか」と言ったら、
「そんなことじゃなくて」と睨まれて、
「タクがあなたみたいな子を相手にするとは思えなくて」
「お前ら、やめろ」と教室から拓海君が出てきて言った。
「だって……」とその子たちが不満そうだった。
「一階に戻れよ。詩織に何の関係があるんだよ」と睨んでいた。彼はあの後から堂々と詩織と呼んでいる。本当はやめてくれと頼んだけれど、堂々としていた方がいいと言われて、渋々だった。相手が途端に気に入らなさそうにしていて、
「何が、詩織よ。ずっと真実と仲良くしてたのに、どうしてこんな子に心変わりするのよ」
「していないよ。大体、お前らはタクと呼ぶな。許していないぞ。一部のヤツらだけだ。二度とタクと呼ぶなよ」と睨んでいて、相手が困った顔をしていた。
「こいつらが何を言っても相手にするなよ。まともに相手したって無駄だ」と彼が言った為、
「どういう意味よ」と怒っていた。そこまで言わなくても、
「俺が知らないと思ってるのか? バスケ部だ、バレー部だの、俺に告白してきた子やラブレター渡した子に嫌味を言ってたらしいじゃないか。呆れるよ。何でそんなことまでする権利があるんだよ」
「あるわよ。真実はあなたと彼女も同然で」
「勝手に決めるな。それは先輩が茶化して言っただけだ。あの先輩、武本のことが好きだったから様子を見ようとしてわざと言っただけ、真に受けるな」と言ったため、みんなが驚いていた。
「だったら、どう思ってたのよ?」と聞いていて、
「思ってない。ただの同じ部活のつながりだけだよ。友達というか。誤解されても困る。さっさと戻れ。詩織は二度と相手にするなよ」と私にも言われてしまい、困ってしまった。彼女達は渋々戻って行った。
「あいつら呆れるよ。先輩の冗談を真に受けて。俺も否定すればよかったけれど、先輩の手前、言い出せなくてね。はっきり言っておけば良かったよ。友達としてしか見ていないってね」
「苦手だと言ってたね」と小声で言ったら、
「言うなよ。お前にしか言っていないんだから」
「分かってるけれど」と言ったら、碧子さんが心配そうに見ていた。

 昼休みに弘通君のそばで勉強をしていて、
「しかし、弘通がいるだけで助かるよなあ」と光本君が笑っていた。そばにいた、佐々木君も見ていて、
「テストで良い点数を取って、誰にも怒られないって方法はないか?」と聞いていた。
「しかし、親って何であんなに怒るんだろう? 『勉強しなさい。宿題はやったの』って言うけれど、親のテストが見つかってから、大騒ぎだよ」と光本君が言ったので、
「どうして?」とみんなが聞いた。
「だって、あまり良くなかったからな」なるほど、それは問題かも。
「それ以来、父親が肩身が狭い。でも、お袋も聞いたら逃げるんだ。あれは何かあるな」そういうのもあるんだ。
「弱みを握ったんだね」と夕実ちゃんがおかしそうに笑った。
「俺も何か握ろう」と佐々木君が言って、
「悪趣味だよ」と笑っていた。
「いや、そういうのもあるだろう。お小遣いとか値上げに使える」
「俺、もうもらった」と光本君が言ったので、なんだかすごいなあと聞いていた。
「佐倉、廊下に面会人」と言われて、外を見た。知らない子だと思ったけれど、外に出た。
「あの、山崎先輩と付き合ってるんですか?」とまた聞かれて、今度はどう答えようと考えていた。
「もし良かったら、諦めてくれませんか?」と言ったので唖然とした。
「そんなに好きじゃないと聞いてます。それぐらいなら譲ってください。先輩を思う気持ちは誰にも負けません」と言い切ったので、すごい……とまじまじ見てしまった。
「私は先輩のことをずっと好きだったんです。転校してきてからずっと見てきて好きでした。先輩は同じクラスになって横入りしてずるいです」と言ったため、唖然とした。すごい事を言うなあ……。
「だから」
「横入りとか、言いたい放題言うヤツが多いよな。この頃言ってくる理由は、やっぱりあれか、クリスマスが近いとか言う、俗な考えか」と聞こえたので見たら、楢節先輩が近づいてきた。
「当たり前です。クリスマスを彼氏と過ごし、仲良くなって、バレンタインでファーストキスをして、それから、春休みに一緒に旅行に」とすごい事を言い出したので、びっくりした。
「勝手な計画はいいけれど、相手の気持ちは考えもしないんだな。相手に聞いてからにしろ。それから、佐倉に言うのはお門違い。やめておけよ。山崎はこういうことをするヤツが一番嫌いだろう。俺からの忠告」と先輩が笑っていて、頭を抱えた。確かにそうだよね。その子たちが戻って行った。
「先輩、何か用ですか?」
「道具室に来ただけ。お前らも納得してもらえないのが悪いな。公認カップルへの道は険しそうだな」
「先輩の場合はあちこちありすぎて無理だったくせに」
「お前とはそうだった」
「えー、付き合ってもいないのに」
「いや、俺達は付き合っていたんだ。そう思われていた」
「お互い、好きでも何でもないのに?」と聞いたら、
「そうか、そこの部分が抜けていたなあ」と笑いながら奥の教室に行ってしまった。道具室が奥にあるからだ。二階建ての木造校舎で一階には物置があって、一番北にある校舎のため、寒くて不評だった。3年生だけ鉄筋で、プレハブの校舎も建設中で、あちこちうるさくて、移動も大変で、古い学校だけれど大変だった。今は近隣の中学よりはるかに人数が多いらしい。校舎は木造が多いし、設備は古いし、みんながぼやいていた。

 部活の方では中々上手くは行っていなかった。まず、一之瀬さんは焦りもあって小平さんとの仲も上手くいっておらず、でも、ロザリーが急にやる気を出していて、彼女が教えだしたため、変化があった。それから、湯島さんのペアは相楽さんとはあまり上手くいっていない事がわかってきた。相良さんは少しずるい性格らしく、時々裏で困っているとぼやいていたらしい。菅原さんのペアは元川さんに合わせすぎてなんだか大変そうで、私達もしっくりいっていなかった。百井さんは練習熱心だったけれどマイペースで、それで周りと上手くいってなくて、バランスの取れた性格の人が少ないと感じていた。緑ちゃんといつも一緒にいる、背の低い前園さんが一番曲者≪くせもの≫で、裏で加茂さんと仲良くしていたらしく、そちらからも悪口が流れていた事が判明した。さっぱりした美鈴ちゃん、しっかり者の千紗ちゃん、それ以外の子も本当は試合に出たいと言い出したらしく、困っていた。確かに、今のメンバーのちぐはぐ具合を見たら、「自分でも出られそう」と思われても仕方ないかもしれないなと思った。
「それは難しいよな。ペアって性格が合ってればいいってものでもないんだしね。でも、そういうのでも合わせていかないと勝ていないしなあ。ここの学校の場合は後衛が強いほうがいけるからね。前衛はいまいちでも、レシーブさえ出来ればそれで何とかなるからなあ」と拓海君に言われて考えていた。あまり前衛が飛び出すと、百井さんとか一之瀬さんとかは気に入らないらしい。自分が打ちたかったのにって顔を露骨している。そのために遠慮が出てきたりするしなあ。
「上手くいかないね」
「前園さんと加茂さんって、また話すようになってるようだけれどね」
「でも、知らなかった。裏で繋がってたなんて」
「その辺はあるよ。いくらでもね。悪口を言う人同士は集まりやすい。コンプレックスを持っていて、それをそこで解消する。そういう人同士が集まるのは多いさ」
「困っちゃうなあ」
「前園さんにしてみれば面白くないさ」
「どうして?」
「勉強ができると聞いている。運動神経は知らないけれど、背が低いからどうしても選手としては不利だと思ってるんだろうな。本人が」
「あれ? だって、バスケもバレーもそんなことお構いなしでがんばってる人がいるんでしょう?」
「自分で駄目だと諦めて壁を作ってるだけなのだけれど、『周りもどうせそう見てるんでしょう』と思い込んでいてね、被害妄想というか、そういう意識があるらしいからね。だから、お前がのんびりしていて、大して運動神経も良くないのに選手に選ばれて気に入らない。追い出してやれってことで意見が一致したんだろうね」
「そんなことで口を聞いてくれなくなるの?」
「そういうことはあるよ。本当ならテニスが上手になって見返すとか、別のことで楽しみを見つけるとか、いい方向に向ければいいけれど、実際はその考えにとらわれて、そういう変な事をして晴らしてしまうらしいな。俺も良く分からないんだよな。爺さんにそう言われても。『根性が捻じ曲がっていないか』と嫌悪観を抱いておしまいだから」一番、嫌いなタイプだからだろうな。
「勉強ができるのにだめなのかなあ? それだけでもすごいと思うけれど」
「お前はそう考えるタイプだけれど、そうやって変なコンプレックスにとらわれている人は意外と多いぞ。というか、そこにこだわりすぎてて、加茂さんの場合はああなっちゃったんだよ。山ちゃんが付いていてくれるから何とか考え方を変えてほしいけれどね」
「考え方か」
「難しい年頃なんだと爺さんが言っていた。中途半端な年だから、しかも受験という淘汰される通過点が控えていて、そのせいで不安もあるしって」
「淘汰?」
「成績順で高校に受かるってことだよ。そこで人生の岐路に立たされるんだよ。その後ずっと続く、大学受験、就職、結婚。それでその後の人生が変わってくるからってね」
「重要なの?」
「お前はのんびりしているよ。当たり前だろう? 勉強ができる人の方がその後の人生の選択肢が多いのはしょうがないさ。医者になりたくても勉強できないと無理だろう?」確かにね。
「それ以外にもあるさ。弁護士やら、色々ね。試験に受からないと無理なんだからな。だから、みんな必死になってくるらしいぞ。勉強が出来ても、それ以外も大事だと思うけれどなあ」
「それ以外って?」
「いっぱいあるさ。人間関係が一番大事だと思うよ。要領がいい人の方がいい場合もあるらしいけれど、俺はどうも嫌いだしなあ」
「取り入ったりってこと? よく分からないなあ」
「のんびりさんだよ。少しぐらい言い返せ。『私の拓海にちょっかい出さないで』とかね」
「ああ、あれねえ。なんだか、よく分からないね。すごいシナリオ作ってたね。あんなに上手くいくの?」拓海君はあの後、しっかり女の子からその話を聞いて、確認してきたので説明してあった。
「行くわけないだろう? 最初が肝心だ。まずお互いが好きにならないとね。俺はないけれど」
「どうして?」
「どっちも苦手だ」なるほどね。
「拓海君って、どうしてそうなんだろうね。意外と許容範囲が狭いみたいだね」
「男子は思っていても口には出さない。協調性を考えて好き嫌いは言い出せないんだよ。後が怖いからなあ」言えてるな。女の子ははっきり好き嫌いを言っている気がする。
「それも中学までだと聞いたけれどな。そういうのって変わってくるらしい。少しずつ人間関係のあり方を覚えていくから、表立って喧嘩するのはなくなるらしいぞ。だから、もう少しの辛抱だな」
「そうなのかなあ?」
「新聞に載ってただろう? いじめが多いのも、校内暴力が多いのも中学生らしいな。それだけ不安定なんだよ。精神的にね。あの先輩みたいに世の中を一度渡ってしまったような事が言える人は少ない」確かにねえ。
「あの人の場合は本もいっぱい読んでいるし、PTAの本音もしっかり聞いていて知ってるし、お母さんとお父さんに会話もそういう類の困った人たちの心理とかの分析を家で語り合うんだって。だから、ああいう達観した意見が言えるのかもね。私にはありえないなあ。親子の会話が少ない」
「その辺は一緒にいたって少ないさ。うちだって母親はピアノ教えてるからあまり会話がないぞ。爺ちゃんとの方がよほど多いんだよな。避難場所だから」
「なるほど。そう言えば、弟がいるんでしょう? かわいいの?」
「俺に似て、モテるらしいぞ。かわいいしな。生意気」
「会ってみたかったなあ」
「そのうちね」と彼が笑っていた。

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