ペア交代

 記憶がないのはしょうがないのかも……と考え始めていた。父が帰ってきてから母に言うべきかどうかで悩んでいた。
「言ったらうるさそうだよね」と思わず言ってしまった。
「それに尽きるよな。あいつは自分の事を棚に上げて言いたい放題言うから手に負えなくて、喧嘩ばかりしていたよ。お前に取ってもいい母親とは言えなかったしなぁ。このままにしておくか」と父が言い出して、よほど色々言われたなと思った。
「自然にしようよ。そのほうが良さそうだよ。それにきっとさぁ、もし、記憶があったとしたら、かなり辛かったのかもと思ったよ。だって田舎でしょう? 確か出戻りの幸子さんが大変で」
「ああ、ことあるごとに『出戻りだから』と言われて、本人は気にしないようにしていたようだけれどな、裏でも表でも言われると困るからな。お前のためにはそれで良かったと今でも思ってるよ。こっちだって、色々裏で言われていそうだからな。死別だと『可哀想に』とか言われても、離別だと、『色々あったんじゃないか』と、言われそうだぞ」
「でも、だって」
「そういうのはどこの土地に行ったって白い目で見る人はいるからな。お前が大きくなっているとはいっても、就職だって、結婚だって不利だぞ」
「そうなの?」
「言われるよ。面接があれば言われる場合もある。ちなみに俺も仕事先で言われ続けた。だからこそ、お前にはそういう思いはさせたくないからなぁ」
「お母さんとどうして結婚したの?」と言ったら苦い顔をしていた。
「どうしてそういう顔をするのよ」
「昔は良かったんだ。あれでもモテていて、綺麗で」
「今でも、十分そうだと思うけれど」
「気が強くなってパワーが10倍に上がってるからなぁ」なるほどね。
「でも、このままでいいと思うけれど。お母さんは所詮すぐにアメリカに帰っちゃうんだろうし、私たちに取って家族という意識は低いと思う」
「それはあるな。あっちは別の家庭があるしな。そういうことにしておこう。どうせ、半年もいないと思うからな」母は、今は日本での仕事を任されていて期間限定でこっちに来ているけれど、それが終わればきっと帰ってしまうだろうと言う話だった。

 拓海君と一緒に帰るようになってから、しばらく経ったため、さすがにあれこれ言われなくなってきた。反対に、クリスマスが近いからその話をしていて、弘通君に告白したいという子が何人かいるようで驚いた。
「詩織ちゃんが決まったも同然だからねえ、だから、この機会にって事だろうね。受験前に彼氏がほしい」と桃子ちゃんに言われて、
「この辺りも告白する子はいるの?」と夕実ちゃんが聞いていた。
「夕実ちゃんみたいに上手く行くのは難しいよ」と朋美ちゃんが恥ずかしそうにしていて、
「そうだよ」と知夏ちゃんが落ち込んでいた。弘通君に告白したけれど、まだ諦めきれないようで、それは紀久ちゃんも同じようだった。何度か話しかけていて、弘通君はそれとなくしていた。光本君も言わなくなってきて、須貝君は一生懸命がんばって女の子の絵を描いていて、それを周りが見ている間に、桃子ちゃんが何度か話しかけていたけれど、須貝君は苦手らしくて、そのうちまた戸狩君のほうに行くようになった。
「恋愛って難しいかも」と碧子さんと話をしていた。
「告白はしていないの?」と聞いたら、
「あら、お聞きになっていないの?」と言われて、
「何のこと?」と聞いてしまった。
「長年、思い続けている方がいらっしゃると聞いたわ。そう言って断られた人が何人かいるらしくて」
「そうなんだ。うーん、碧子さんでもだめかなぁ?」
「そう言われても」
「碧子さんなら、よりどりみどりなのに」と言ったら、そばの男子が聞こえたらしくて、
「ラブレターまたもらったんだろう? そろそろ、他の男子も考えてくれても」と言っていて、そうなんだ……と見ていた。
「そんなこと」と少し恥ずかしそうだった。
「それより、佐倉。お前さぁ、そろそろ、本当のことを言えよ」と言われてしまい、何の事?……と考えていた。
「山崎だよ。女がまだ群がってるからなぁ。お前との事がハッキリすれば少しはこっちにも」と言ったので、
「他力本願だなぁ」とそばの女の子にからかわれていた。
「恋愛は行動あるのみ」とそばにいた、行動派の振られてばかりいる稗田さんが笑った。
「稗田の恋は無理なところばかり狙ってるからなぁ」
「しかし、山崎、佐倉の例もあるぞ」と言われてしまい、完全にそう思われてるんだろうかと考えていた。

 部活の方はペアの組み換えを行っての総当り戦で、ロザリーがめきめきと上達していた。一之瀬さんと組む人は嫌がっている人もいて、色々大変ではあった。
「一応、みんな組んでもらって、誰との相性が良かったとか希望を取るから、紙に書いて提出してください」と小平さんに言われてしまい、困ったなぁと考えていた。感触としては、それなりに良かった人悪かった人の差は少なかった。ただ、性格が合わない一之瀬さんと一年生は書きたくなかった。
「何人書くの?」と千紗ちゃんが聞いていて、
「第3希望までね。それから、先生の方にも相談しますが、実際の組み合わせは変更はこれからも行う予定ですから」と言われて、そう言われてもなぁと迷っていた。
 帰るときに、拓海君が、
「クリスマスのデートって中学生はこの辺だとどこに行くんだ?」と聞かれて、
「知らない」と答えたら、笑っていた。
「高校生だとバスに乗って行くだろうしなぁ。お前は門限は?」
「一応あるけれど、それより、夕食を作らないと」
「そういうのもあったな」
「お爺さんはどうするの?」
「おい、さすがにその日は別行動にした方が」と言われて、
「寂しくないかな?」と聞いたら困っていた。
「確かに、お前の言うとおり寂しそうだったんだよな。俺達が引っ越してから祖母ちゃんが亡くなって、めっきり出かけなくなってね。仲が良かったからよけいだろうな。こっちに戻ってから、俺がちょくちょく顔を見せてるけれど、母さん達はあまり寄り付かないからね。マイペースな人だから、ご飯を一緒に食べたりとかもあまりしないし。俺は爺ちゃん子だったから、よく行くけれど、弟はあまりかわいがってもらっていなかったらしくて、あまり話さないしね。向こうの爺さんは気難しい所もあるから、祖母ちゃんとばかり話しているし、だから、俺ぐらいしかね。だから、お前に会えて喜んでいるんだよな。写真を見て色々楽しそうに祖母ちゃんの話もしててね」
「だったら、やっぱりね」
「そういうのならしょうがないけれどなぁ」
「別の機会にどこかに行こうよ。今度はやっぱり一緒にケーキとかご馳走とか作ってみんなで楽しもうよ」
「お前は意外とそういうタイプなのか?」
「違うの。おばあちゃんがそういうことをしてくれる人だった。きっと、私が寂しい思いしていると思ってね。田舎なのにケーキ作ってくれたり色々だったよ。近所の人も色々優しくしてくれたの。太郎の所の誕生日には必ず呼んでくれたしね。そういう環境で育ったから、こっちに来てからやってなくて」
「そうか、なら、そうしよう」と言ってくれた。

 部活の希望はもめていたらしい。前衛と後衛との意見がバラバラだったらしい。人気があると思われた、一之瀬さんは意外にも元川さん以外は希望しなかったらしい。でも、一之瀬さんが小平さんを希望していて、相良さんが第二希望で、それ以外は名前を書いていなかったようで、お互いに組んでもいいよといった希望があったのが、私と菅原さんと百井さん、小平さんと湯島さんだった。私もその3人を書いていて、それでもめているようだった。先生と湯島さんと小平さんで考えていたようで、
「しかし、選手以外は選手と組みたがってるよな」と先生が言ったときに、ちょうど職員室に入ったときで、聞こえてしまい、それはそうだろうなと思いながら、日誌を担任に渡した。
「佐倉、お前どれがいい?」と直接聞かれて、
「そういうことはお任せします」と言って逃げてきた。そう言われても、しこりが残りそうだなと考えていた。
「佐倉と組ませるのはどれがいいんだろうな? 湯島も相楽と相性が悪かったんだな。第3希望だぞ。小平を第一希望にしているのが湯島と一之瀬と、百井かあ。しかし、選手以外の後衛も多いなぁ」と先生が困っていた。
「菅原さんと佐倉さんは第一希望どうしだから、そのほうが」と湯島さんが言い出して、
「いえ、それより、百井さんとの方が相性が良さそうですから、そっちにしておいた方がいいと思います。菅原さんもどこか遠慮するタイプですから、強気の人と組ませたほうがいいと思うので、相良さん、もしくは元川さんの方が良さそうな気がします。一之瀬さんは私とはやめたほうがいいと思うので、相良さんにしておいたほうがいいですね」と小平さんが言い出したため、先生がびっくりしていた。
「どうしてだ?」
「相性が良くありません。彼女の場合はきつい性格の人のほうが合うと思いますので、それから、湯島さんは私とお願いします」と言ったので、先生がびっくりしていて、でも湯島さんはうれしそうだった。
「そのほうがいいか。一之瀬、相楽、湯島とお前と、菅原が元川だな、そうなると、百井と佐倉。それで、補欠は今のところ保留。あと一組補欠がいるな。加藤は?」
「千沙ちゃんと組めそうなのは美鈴ちゃんぐらいだよね」と湯島さんが小平さんに聞いていた。
「あとは戦力としてはちょっと弱そうだよな」と先生が困った顔をして見ていた。2年生は今は十数人いる。加茂さんと幹谷さんはやめていた。幹谷さんは先輩がいたから在籍していただけだったようだ。
「緑ちゃんと室根さんのペアも組ませないとね」
「弱そうだよな」と先生が言って、
「緑ちゃんは背がねえ」と湯島さんが言い出した。
「実は、残りのメンバーに一年生を入れたいのですが」と小平さんが言い出して、湯島さんが困った顔で見ていた。

「えー、発表する」と先生が言い出して、メンバーを発表していた。
「以上が一応決まったメンバーだ。それから、補欠ももう一組増やそうという話になって、矢上と加藤のペアになった」と先生が言ったため、みんながざわついていた。矢上さんはうれしそうだった。
「それ以外のメンバーも決めてある。まず、近藤と杉浦、それから」と一年生がいっぱい呼ばれていた。室根さんと緑ちゃんと組ませずに、一年生と組ませていた。
「一応、そうなったので、しばらくそのメンバーでやる事にする。試合形式を時間を取るようにする。来年になったら練習試合の日程を組んでおくので、しっかり練習するように」と言われて、その後練習に入った。でも、あちこちうるさかった。私と百井さんはどちらも希望どうりだったので、あまり何も言わずにやり始めていて、でも、ロザリーと一之瀬さんがまだ色々言っていた。
「どういうことなのよ」「そうです。私、小平と組みたいです」と2人が言ったため唖然とした。ロザリーは凄すぎる。みんなも笑っていて、
「何がおかしいですか。目指すなら最高のパートナーで勝たないと意味ありません」
「私もだわ。どうして、相良さんなんですか? 希望では小平さんを」と一之瀬さんが怒っていて、
「お前の第二希望だろう? しかし、小平は希望していなかった。湯島と菅原、百井の順だったからな」と先生がよけいな事を言ってしまったため、一之瀬さんが睨んでいた。怖いなあ。
「私は一年生と組みたくない」とロザリーがぼやいていたけれど、誰も聞いていなかった。
 着替えるときに、なんだか空気がおかしかった。一之瀬さんのせいでみんなが話ができない感じだった。着替えて外に出たら、
「どうして、私を書かないのよ」一之瀬さんがとうとう怒り出した。小平さんは無視していて、鍵をかけていた。
「だから、聞いているでしょう?」と言っていて、
「理由は2つある。でも、今は言わない」と小平さんが言ったため、みんながびっくりしていた。
「二つって?」と睨んでいて、
「自分で考えて。私は自分のテニスをしたいの。そのために必要だと思える人を書いただけ」と小平さんが淡々と答えたため、すごい顔をして睨んでから、一之瀬さんが行ってしまい、
「おー、はっきり言ったのはいいと思いますが、それでも理由言わないと」とロザリーがびっくりしていた。
「言って聞いてもらそうにないから、言わないの。そう言っておいて」と言って、解散になった。バスケ部の前で待っていて、
「誰と組むんだ?」と拓海君がやってきた。
「私は変わっていないよ。前2人がペア入れ替え」
「小平さんのところか?」と聞かれてうなずいた。
「そうか、そう言い出すだろうと思ってたよ」と言ったので、びっくりしたけれど、聞かなかった。着替えるまで本を読んでいたら、
「どういうつもり?」と武本さんとその友達が来ていた。
「なにが?」と聞いたら、
「どういうつもりで山崎君と付き合ってるの?」と聞かれてびっくりした。
「あの」
「彼に迷惑掛けておいて、それに甘えていて、恥ずかしくないの。あなたのせいで試合に出られなかったし」
「やめようよ」と武本さんが止めていた。
「それにねえ、真実がずっと仲良くしていたのに、横入りして恥ずかしくないの?」と言われて、そうか、これがあるから苦手だったのかも……と考えていた。
「聞いてるの?」とすごい剣幕≪けんまく≫で言ってきたけれど、
「好きなんだ?」と聞いたら、驚いていた。
「た、山崎君のことを好きなんでしょう?」と武本さんではなく、隣にいたすごい剣幕で怒鳴った人に言ったら、
「別に」と横を向いていた。
「だから、そう言ってたんだね。別の人たちにも。彼に告白できなかったのか、したのかは知らないけれど、そのやり方は、武本さんも困るんじゃないの?」と聞いたら、困った顔をしていて、
「何言ってるのよ。私は別に山崎君のことなんか」
「違うでしょう? 武本さんが納得していないから、代わりに言っているんじゃないよね。あなた自身が納得していないから、そうやってすり替えて言ってる気がするなぁ。そうじゃないと、告白した子とかに嫌がらせしないと思う。武本さんはこの間も困っていたから。今もそう。言ってほしいわけじゃないでしょう?」と武本さんに聞いたら、図星だったらしくて困っていた。
「な、なによ……」と途端に、その子が動揺していて、
「そこで、ストップ。お前も屈折しているよなぁ。戸狩が言ってたけれど、当たりだったのかよ。変なやつ」と拓海君がいつのまにか寄って来て、
「だったら、二度と言うなよ。武本には確かに申し込まれてたけれど、俺はその気はなかったよ。悪いけれどな。それに、こいつはそういうのは困るだろう? 自分で言うタイプだし、お前に言ってほしいと思ってなさそうだぞ。お前さぁ、いい加減友達なら気づけよ」と言ったため、彼女が困っていて、
「詩織に八つ当たりするのはみっともないからやめろ。言うなら、俺に直接言えよ。こいつ、気にするからな」と言ったため、その女の子がすごい顔で睨んでいた。
「何よ、詩織って。どこがいいのよ、こんなおとなしいだけの子なんて、テニスだって上手じゃないし勉強だって、どうせ下のほうでしょう?」と言い切られて、
「宮内タイプ、もう一人発見。ああ、あかりも同類だったな。勉強できないやつに限って言うんだよな。お前の数学はひどいものだって男子が言ってたけれど、あれはデマか?」と拓海君が言ったため、途端に困った顔をしていた。
「もう、やめようよ」と止めたら、
「詩織は黙ってろ。こいつらは俺に言わないといけないんだよ。お前に当たるのは間違ってる。お前がどう判断しようと関係ないよ。自分が納得できないからって、詩織に言いたい放題言ってね。呆れるよ」と拓海君が言ったら、武本さんが困っていて、
「行こう」と隣の子が嫌そうな顔をして逃げようとしていて、
「待て、まだ残ってるだろう? 謝れよ。言っていい事と悪い事があるよ」
「いいよ、それは」と止めたけれど、拓海君が睨んでいて、
「ごめんなさい」と武本さんの方が言い出した。拓海君が睨んでいたけれど、もう一人の子はさっさと行ってしまった。
「呆れる性格、屈折しているよなぁ」
「どうして、好きだと言わないのかな?」
「言っても無理かもという気持ちと、友達のこととすり替えてる気持ちがあるらしいぞ。戸狩の受け売り」
「なるほど」
「屈折しているよな。言っても無駄だとしても、友達のことにすり替えるなんてありえないよな」
「気持ちか……」
「お前でも、分かるんだから、どうせ武本も知ってたな。言えばいいものを」
「言い出しにくくないかな? 両方あったとしたらね」
「両方って?」
「友達と上手くいってほしい気持ちと、自分が好きだって気持ちと両方」
「しかしなぁ、あの場合は間違ってるから指摘してやらないとね。もちろん、面倒だから俺はほっといたけれど」なるほど、知っていたから苦手だと言ったんだな。
「それにしてもすごいね。きっと上手なんだろうね、バスケ。自信満々でうらやましい」
「まだまだ甘いよなぁ。あいつは強気なだけだ。背は高いが、バスケはあまり上手ではない。武本は上手だけれど、身長が足りない。上手くいかないよな」なるほど、
「それから、補足すると、あいつの成績は良くないと言う噂だ。何しろ、クラスでは下のほうだと言われていて、なぜ分かったかというと、あいつと同じクラスであいつより下と思われていた男子が、散々バカにされた腹いせに勝手にあいつの成績表を覗き込み、全てが判明した。ま、自業自得ってやつだな」と言ったので、頭を抱えた。だったら、言わなければいいのに。
「こだわってるから言ってしまうということらしいぞ。爺さんの受け売り」
「聞く人がいていいなぁ」
「俺に聞け。あの先輩に聞くなよ。弘通にも」
「えー、聞きたい」
「お前なぁ、俺というものがありながら」
「だって、やっぱり聞きたいよ。あの先輩、恋愛関係以外は意外と達観していていい意見を言ってくれるの。弘通君は話すだけでほっとするし」
「呆れたやつ。じゃあ、俺は?」と聞かれて、
「怒られてばかりいるから」と言ったら、叩かれた。
「拓海君、優しくしてよ」
「お前が悪い」
「えー、なんだか、向こうに行ってから更に気安くなってきたなぁ」とぼやいたら、うれしそうに笑っていた。
 その後、一之瀬さんのことを相談してみた。
「ああ、それね。俺でもやだね」言うと思った。
「どうしてかな? 彼女と組んだら一番手で勝てるのに」
「違う。現時点で一番手。もちろん、やる気になれば違うだろうけれど、今のところ元々ある運動能力の差だけで一番とか二番とか決まっている気がするぞ。器用さと飲み込みの早さはあるようだけれど、そんなのは今の時点の話だ。他のやつらががんばればすぐに入れ替わるね。バスケはそういうのが多い。小学校のときに背が高くて上手と言われていたやつが、遊びほうけてやらないと遅れを取って入れ替えになってた。でも、真面目に練習していても、方向性やポイントがずれてるとやはり練習量が劣っていても器用なやつに負けたりするんだよな。もっとも、こっちは人数が多くて、それだけでは中々選手にしてもらえないんだよ。テニスって割と少なくなるからその辺は楽でいいなと言われているから」なるほどね。
「器用さか。わたしは不器用だから」
「その代わり、他の人が持っていないものを持ってるからね」
「背の高さ?」
「それもあるし、後は目だな」
「目?」
「そう、色々な方向から見られる目だよ。一之瀬と逆」どういう意味だろう? 
「お前の場合は自分に自信がつけば、きっと上手になるな。今だってそういうところがあるから、補欠と差があるんだよ。運動能力だけしか考えられなかった加茂には一生分からないかもね」
「どういう意味?」
「一之瀬も同じだ。物差しが一つしかないんだ。運動能力だけしかね。器用さもあるかもしれないが、テニスもバスケもそっちより実はお前の方が重要だったりするんだよな。そのうち分かると思うけれど」
「なんだろうね? 前に言われたの。先輩に同じことをね」
「侮れないよな。中学生レベルだと、全部揃ってなくたって十分やれるよ。体力も運動能力も負けん気も一之瀬や元川には負けても、お前のやり方でやればね」意味不明だ。
「よーく、考えてみようね。詩織ちゃん」
「やだなぁ、自分だけ分かって。面白くない」
「色々見つめて自分で見つけないとね。そういう時期だよ。学生ってね」そうやって考えた事もないなぁ……とため息をついた。

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