勝手に言われて

 クラスの女の子があちこち、そわそわしていて、テスト勉強のためにあちこち騒いでいた。男子は色々やっている人もいて、やっていない人も多かった。弘通君のそばにみんなが聞いていて、私は碧子さんと一緒に問題を出し合っていて、
「そばでいちゃつく。気が散る」夕実ちゃんたちが一緒にやっていたので、やっかまれていた。
「一緒にやってよ」と拓海君が言われていて、
「他を当たって」と断っていた。一緒にやろうと約束はしていたけれど、部活もあるしと考えていた。一之瀬さんの方も納得していないから、どうせ色々もめそうだなと思っていた。
 放課後に、少しだけ碧子さんと一緒にやっていて、弘通君達が寄って来て教えてくれていた。
「しかし、弘通には参るよな。お前の余裕を俺にくれ」と佐々木君が笑っていた。
「それより、いいのか?」と光本君が、さっさと帰っていく遠藤君を見ていた。
「余裕が無くなっていないか?」と小声で聞いていて、そうなのかなと見ていたら、
「そうだよな、でも」と須貝君も困っていた。
「最近、変だよ。話しかけてもあまり応えなくて」と光本君が困っていた。
「別の鉄道オタクと話しているとか?」と佐々木君が聞いて、
「いや、それはないみたいだけれど」と弘通君も困っていた。
 部活に行っても、部室の中の空気が怖かった。一之瀬さんが外に出たら、みんながため息をついていて、
「困るなあ。ハッキリしてもらった方が」と緑ちゃんが言い出して、そうは言ってもねえと考えていた。
「緑ちゃん、小平さんに聞いてよ」と周りが言い出して、
「教えてくれなかったよ。廊下で会って聞いたら、今はその時期じゃないって」
「前に指摘されたことじゃないのかな、自分の意見を曲げないとかそういうこと」と私が言ったら、みんなが見ていた。
「それだけじゃ、納得しないって」とみんなが口々に言い出して、そう言われてもねえと考えていた。
 コートに行っても、なんだか様子が変でロザリーは張り切って男子とやっていた。みんなとやりだして、そのうち試合形式に変わってから、一之瀬さんの態度が怖かった。相良さんは「怖ー」と小声で言っていて、小平さんに敵意むき出しの一之瀬さんを周りが恐々見ていて、それで、ずっと観察していた。
「やるよ」と百井さんに言われて、私たちもやりだした。元川さんは負けん気で私にばかり玉を集めてきていた。コントロールが良くないので、振り回されていたけれど、拓海君の言ったことを考えながら練習していた。

 テスト週間が終わって、机でため息をついた。今日からまた部活だ……と考えて、疲れそうだなと思った。何しろ、一之瀬さんはまだ機嫌が悪いからだ。
「お前、へばってるよな」と拓海君に話しかけられた。
「少しはがんばったけれど、まだまだだよね。あの人がまた待ち伏せしそうだ」
「俺も一緒に行ってやるよ」
「いいよ、疲れそう」
「なんだよ、困ったヤツ」と前に座っていた。
「なんだか、カップルが増えてきた。いちゃつき禁止」と桃子ちゃんが仙道さん達と教室に戻ってきた。
「揉め事は収まったか?」と拓海君が聞いていて、
「無理だよ。一之瀬さんといい、内藤さんといい、どうして揉め事起こすんだろうね」と一番最後に戻ってきたミコちゃんがぼやいた。そうか、色々ありそうだね。
「松永さんに任せろよ」と拓海君が言った。
「麻里ちゃん、手を焼いて大変だよ。あそこの男子の学級委員は弱腰」とミコちゃんがぼやいていた。麻里ちゃんというのは松永さんのことだ。松永さんは人望もあって、弘通君と小学校のときに何度か学級委員をやっていたらしい。それでよく話しているのを見かける。仲がいいなとは思っていたけれど、みんなは2人の仲を勘ぐっていた。
「それでもやらせないとな。こっちもまた色々あるぞ。あちこちあるよなあ」と拓海君が言った。私はその手の話は疎くてほとんど知らない。噂話好きのあかりちゃんと仲がいいから、知ってるのかもしれない。
「テニス部のことはテニス部で処理させよう。詩織、少しは話してくれても良かったのに」とミコちゃんに言われて、
「話すのも難しい感じだよ。空気が放電するんだからね。バチバチと。部室内でも、コート内でも」と言ったら、みんなが笑っていた。笑い事じゃないぞ。
「理由を言ってやれよ。お前だって分かってるんだろう?」と拓海君に言われて、
「えー、それはちょっと」と困ってしまった。
「言いにくいよ」と仙道さんも言い出した。
「だったら、俺から言ってやるよ。しょうがないなあ」と拓海君が立ち上がって行ってしまった。
「つくづく過保護だね。詩織に甘い」とミコちゃんがそれを見て笑った。
「過保護?」と聞いたら、みんなが笑って、
「タクって優しいけれど、そこまで世話焼きじゃないからね。詩織だけ特別だし。ほっとけないタイプではあるけれど、詩織にだけは絶対甘い」とミコちゃんが力説していた。そうかなあ……? 
「気づいていないよ」と桃子ちゃんが笑っていた。

 部活に行ってから、なんだか様子が変だった。拓海君が言ったことを考えてるのか、一之瀬さんは小平さんを時々見ていて、休憩中に聞いてきた。
「私と組みたくない理由って、自分中心的だからって本当?」と言い出して、みんなが顔を見合わせた。小平さんは淡々としていた。
「山崎君がそう言っていたの。だから、誰も組みたがらないって」と言ったため、それはあるなあ……というのがみんなの顔に浮かんでいて、緑ちゃんが苦笑していた。
「おー、それは大事です。自分の意見は大事」とロザリーが言い出したら、
「黙ってて。とにかく、そういう理由なのかどうかだけでも聞かせてよ」と詰め寄っていて、小平さんが仕方ないわねという顔でうなずいていた。それはそうだろうね。
「もう一つの理由は?」とみんなが聞いていて、
「相性が良くないからだよね」とわたしが言い出したら、みんなが驚いていた。
「自己中心的というだけじゃなくて、タイミングとかその他、やりたいプレイスタイルが違うのかも」と言ったら、小平さんが、
「私は力任せのプレーはしたくないの。早く決着が着くかもしれないけれど、それより、自分のやりたいようにさせてもらいたいからね。だから、それが出来るし、フォローもしてくれる湯島さんと組みたいのよ」と言ったため、みんながうなずいていた。
「どういう意味?」と一之瀬さんがすごい顔をして睨んでいて、
「あなたとは目指す方向が違うの」と言ったため、かなり睨んでいて、
「一之瀬さんは自分に合わせなさいってタイプだもの。それに合わせてやれるタイプもいるけれど、それだとストレスが溜まっちゃうからでしょう? 相良さんとの方が合ってるようには思えるよ。相良さんはその辺は後衛に合わせるし」と言ったら、
「へえ、そうなんだ」と緑ちゃんが言い出して、美鈴ちゃんに軽く叩かれていた。
「同じ意見だなあ。いいと思うけれど、今のままでね」と千紗ちゃんに言われて、みんながうなずいていた。
「だって、相良さんとじゃ勝ていないわ」と一之瀬さんが言い出したため、相良さんが面白くなさそうだった。
「そうかなあ? このままでも」と美鈴ちゃんが言い出して、
「だから、私は反対よ。この人と組んだって」と一之瀬さんが言ったため、みんなが顔を見合わせた。
「でもさあ、湯島さんと小平さんはそのままでいいと思ってるなら、しょうがないよ」と美鈴ちゃんがなだめるように言っていて、その場はそのままで終わった。
 試合形式をやりだして、明らかに一之瀬さんは湯島さんに張り合うようにやっていて、小平さんを何度も見ていた。前途多難だな。こっちは反対に、
「どうして、そっちがまた勝つのよ」と元川さんが怒り出した。試合形式では最初に、菅原さんたちと試合をする事が多くて、最近はいつもこっちが勝つからだ。
「こんな事なら、百井さんと組めば良かったわ」と元川さんが言い出して、菅原さんが困った顔をしていた。
「いくら球を集めても、全然決まらない」とぼやいていて、
「それよりさあ、どこか注意点ある?」と百井さんが聞いてきて、色々教えあっていた。お互いに聞くようにしていて、その方が分かりやすいので話し合っていた。言いにくいことも言いやすくてさっぱりしていて、割と合ってるのかもと思っていた。
 帰るときに、拓海君にまた相談してしまった。
「それはあるぞ。目指すところが違うヤツと組んだって時間の無駄じゃないか。あいつって、どうして負けず嫌いで、一つの方向にばかりこだわるんだろうな。呆れるよ」
「こだわる?」
「自分が一番でいたいってことだよ。だから、一番上手な相手と組んで当然と思ってる。視野が狭い」確かにね。
「どうしたらいいのかな?」
「このままだと、湯島さんの方が伸びるね。2人の相性が悪くなければ、ドンドン変わるよ、お前のところみたいに」
「え、見てたの?」
「ああ、遠くから見てた。かなり勝てるようになってきたよな」
「動きの確認もその場で行ってるの。後は注意点もお互いに確認して、直してほしいところとか率直だから却って助かる」
「さっぱりした性格だからだろうな。一之瀬にその辺があればよかったが、あいつは負けん気が強すぎて困る性格だ」
「一番上手な相手と合わせてくれる相手と比べられないのかな」
「客観視できないタイプだと言ったろ。他の人がみんなそのままでいいのにと言っても、本人は分かっていないんだよ。あくまでそこの部分にだけこだわってね。もっと、大人にならないとなあ」
「なれるかな?」
「無理だ。俺が注意したときまだ言ってたぞ。『お前と付き合ってるのか』とか、呆れるよな。一目瞭然だろうに」
「そう?」
「この俺が、幼馴染というだけで一緒にいるわけはないというのに。俺、意外と好き嫌いが激しいぞ」そう言われてみればそうだった。
「幼馴染だと言うなら、観野と付き合ったっておかしくないだろうに。そういう対象として見たこともないからな」お互い様だろうね。
「彼女は今までいっぱい相手が変わってきてたよ」
「それは全部、あいつが厭きて変わってきてるという話だろ。戸狩とか桃に教えてもらったぞ」なるほど、そう言われてみると、
「俺には振られたからこだわってると言われたけれど、俺は困るからな」
「負けず嫌いから来るものなんだね」
「お前に負けたくないからだろうな。自分の方が優位だと思っていたのに、俺とお前が幼馴染で仲良くしていて、気に入らないんだろうし、その上一緒に帰りだしたから、その事が面白くないだろうって話だぞ。あの変態朝帰り会長の話ね」
「そういう言いかたしてねえ。困るなあ」
「ほっとけ。聞く耳持っていないから、しょうがないぞ」そう言わてもね。

 テストが何度か返ってきて、一度国語の点数がばれてしまった。男子に見られてしまい、
「え?」と言われたので、そんなにひどいのかと落ち込んでしまったら、
「お前に負けてたのか」と言われて、どういう意味だろう? と考えていた。かなりのテストが返された頃、
「あなたって、本当にあの点数なの?」と後ろから言われて振り向いたら、武本さんと一緒にいた女の子がいた。碧子さんがそばにいたので、2人で顔を見合わせた。
「聞いてるでしょう? あの点数って本当? 国語や英語の点数」と言われて、何の事だろう?……と考えていたら、
「あー、また絡んでいる」とミコちゃんがやってきて、睨んでいた。
「別に」と相手の女の子が面白くなさそうにしていて、
「タク、彼女が絡まれてるぞ」と戸狩君がゆっくりそばに来て言った。
「またかよ」と拓海君が走ってきた。
「あちこちあるよな。この時期はなんだよ。まったく、C組といい、うちのクラスといい、お前まで来るなよ」とぼやいていて、あちこちあるんだ……とため息をつきたくなった。私と碧子さんが訳が分からない顔をしていたら、
「ああ、Cは内藤絡み、先生に知られたくなかったと言うのに、ばれちゃったよ」と戸狩君が説明していて、なんだろう?……と考えていた。
「俺に直接言え」と拓海君が睨んでいて、
「別にこの子に聞きたい事があっただけよ」と相手の子が面白くなさそうで、
「本当か?」とこっちに聞かれて、どう答えようかなと考えていたら、
「宇野さんがテストの点数を聞いてきて」と碧子さんがおずおずと答えていた。
「なんだよ、それ?」と戸狩君が笑っていて、笑い事じゃないぞと思った。
「英語35、国語40の女に聞かれたくないだろう」と拓海君が言ったため、相手が怒った顔をして睨んでいて、
「もういいわよ」と言って、行ってしまった。
「なんだろうね?」と聞いたら、みんなが困った顔をしていた。
「お前の点数を遠藤がばらしたんだよ」と言ったため驚いた。
「お前の点数を見た男子がクラスでばらしちゃって、遠藤が他のクラスで話しちゃったからな。怒っておいたけれど」と拓海君が言って、
「どうして、そんなことをしたのかな?」と言ったら、
「あいつ、気にしすぎだ」と戸狩君が笑っていて、
「遠藤はテストの点数が落ちてきて、先生に怒られてたの。だからだよ」と言ったので、
「それと私の点数と何の関係が?」と聞いたら、困った顔をしていた。
「お前には関係ないよ。勝手にお前の方が下だと思いこんでいたんだよ。ところがお前の方が上だったから、面白くなくてぼやいたんだよ。他のクラスのヤツにね。それで相手が点数を聞いて、ばらしただけ」
「恥ずかしい」と思わずうつむいた。
「少しは上がったからいいだろう」と拓海君に言われて、
「でも、ちゃんとやればよかったね」とため息をついた。
「やっていなかったのか?」と戸狩君が言って、
「日頃はやってません」と落ち込んだら、みんなが笑っていた。
「そういうヤツも多いよな。男子も女子もね。いいじゃないか、平均点狙いの男子だっているし、まったくやらないヤツらもいるしなあ。個人の問題だ。しかし、宇野はやりすぎだよな」と戸狩君が言った。
「何かしたの?」
「いいんだ、別に」と拓海君が仏頂面でそれ以上は聞けなかった。

「詩織ちゃんって、意外とちゃんとした点数なんだね」と緑ちゃんに言われてびっくりした。
「なにそれ?」
「聞いたよ、点数」と言われて、落ち込んでしまった。
「あれ? どうかしたの?」と後から入ってきた美鈴ちゃんたちに聞かれて、
「だってさ、いいじゃない。あれぐらいでも、一之瀬さんも驚いてたなあ」と緑ちゃんが言って、
「なんだか、恥ずかしいなあ。差があって困る」とぼやいた。
「差?」とみんなが聞いてきて、
「なんでもない」と言いながら、着替えた。拓海君の100点が多いのと比べるとなあ……と落ち込んでしまった。
「記憶力に頼るからいけないのかなあ」と独り言を言っていたら、隣にいた美鈴ちゃんが笑っていた。
「記憶力って?」と言われたけれど、
「いいや、テストが駄目でも、テニスを少しでもがんばろう」と立ち上がったら、みんなが笑っていた。
 部活でも、試合形式でやっていて、私たちと湯島さんのペアがよく勝っていたため、元川さんが面白くなさそうで、先生に聞いていた。
「私達も勝ちたいので教えてください」と先生に聞いていて、
「そうだなあ、サーブも悪くなさそうだし、ミスが多いけれど、あとはなあ」と先生が考えていた。
「サーブはもっと入るようにならないと。それから、サイドばかりだから、コースを変化させたほうが。ストレートが少なすぎて単調だから読みやすい。ネットに引っ掛けるより、アウトになる方が圧倒的に多い」と言ったら、みんなが一斉に見ていた。なんだか、疲れたなあ。とうつむいていたら、
「なんで、そこまで見てるの?」と美鈴ちゃんが聞いてきて、
「千沙ちゃんは、ボレーが得意なんだからもっとやるといいと思うよ。一年生に遠慮するのやめたら、いいと思う。美鈴ちゃんは真面目すぎるから、もっと色々工夫した方が」と言って、うな垂れていた。
「おーい、様子が変だよ」と緑ちゃんが笑っていた。
「もういいよ、落ち込んじゃって駄目だ」と言ったら、みんなが笑っていた。
 帰るときに、
「詩織ちゃんの言った通りなのかな?」と美鈴ちゃんが聞いていて、
「菅原さんと近藤さんは基本に忠実だから」と小平さんが言っていて、
「それだけじゃあねえ」とみんなが悩んでいた。
「成績表が返って来たら、親がうるさいかも」と一年生が外で言っていて、またうな垂れた。
「詩織ちゃんが、やっぱり変だよ」とみんなが笑っていて、
「なんだか、疲れた」と言ったら、
「わたしも疲れた」と緑ちゃんが言い出して、
「確かにあれだけおしゃべりばかりしていればね」とみんなに言われていた。

「お前、落ち込んでないか?」と拓海君に聞かれて、
「恥ずかしいよ。点数が勝手に言われていて」
「お前、一緒にやったんだから、少しは良くなったんだろう?」
「でも、拓海君と比べると差が」
「気にしすぎ。お前はお前のペース。まったく……、一之瀬もかなり気にしてたらしいけれど、お前は気にするな。何を言われてもね。宇野はお前が自分より上だったから認められないからああ言っただけ。気にするなよ」
「宇野さんって、どうして私を気にするのかな?」
「勝気なんだろう。もっとも、その勝気さは練習をやるとか勉強をやるとかには向けられないけれど」よく分からないなあ。
「一之瀬の方はどうだ?」
「無理だよ。まだ気に入らないらしくて、相良さんと試合のときでさえ顔を合わせていないよ」
「なるほどな、そういうタイプかも。しばらくもめるな」
「人ごとだね」
「膿は出さないと、危ないぞ。前みたいになっても困る。不満があるなら、それを解消しないとな。それなりに妥協できるといいけれどなあ」
「出来るかな?」
「やってもらわないと困るぞ」そうだけど……。

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