冬休み

 冬休みにどこに行こうかとみんなが話していて、私は母から電話をもらっていて考えていた。
「詩織ちゃんは?」と朋美ちゃんに聞かれて、
「考え中」と答えた。
「あれ、山崎とどこかに行くんじゃないのか?」と聞かれたけれど、それより、困ったなあと考えていた。
「アメリカ人と話したことある?」と聞いたら、
「ないな」「無理だ、知り合いがいない」「英語ができない」とみんなが答えて、
「そうだよねえ」と考えていた。
「アメリカ人と冬休みに何の関係が? 」と聞かれて、
「英語をちゃんとやっておけばよかった」と頭を抱えていた。まさか、母に「知り合いの家に呼ばれているからね」と言われて、渋々うなずいて、それがアメリカ人とは知らなかった。困ったぞ。
「ハーイでごまかせ」と光本君が言ってみんなが笑った。
「名前ぐらいしか言えないよ。困ったなあ」
「名前ねえ。そう言えば、会話ってやっていないよな。『this is』ばっかりだ」だよね。
「日常会話の英語ってなに話すのかなあ? 」
「天気、最近どう?  ぐらいしか思い浮かばないなあ」と光本君が言って、
「そうだね、困った」と言ったら、
「特訓しろ」と言われて、それは密かにやっておこうと思った。母が「いつかアメリカに来るんだから今から準備しておきなさい」と言っていて、困ったなあと考えていた。

 部活の方は走るときの早さが「わざとやっていない?」と思えるほど、一年生が遅れようが私が遅れようがお構いなしになってきて、最後に意地悪く一之瀬さんが笑っていて、みんなもへとへとになっていた。なんだか、違う気がするなあと思ったけれど、誰も何も言わなかった。
「体力と運動能力よりも大事なものがあるな」と拓海君が帰るときに言ったので、
「どうして?」と聞いたら、
「一之瀬のは嫌がらせだな。腹いせというか、変なヤツだ。あれじゃあ、きっと負けるぞ。お前、大丈夫か?」と聞かれて、
「『こっぴどく負けなさい』と先輩のアドバイス」
「なるほど、そう言ったのか、ところでアメリカ人ってなんだ?」と聞かれて、仕方なく説明した。
「俺のチキンとご馳走は?」と聞かれて、
「その辺は日にちを調整しよう」
「あのお母さんも突っ走るタイプだよな。合わせるほうの身になれよな。せっかちだ」言えてる。
「あいさつって、はじめましてとお会いできてうれしいです。その次どうしよう?」
「そこまで考えるなよ。適当に合わせろ」
「苦手」
「外人かあ、俺も会話したことないな」と考えていた。

 クリスマスに母と一緒にアメリカ人の家に言ったけれど、呆気に取られた。
「おー、詩織ちゃん」と言って、日本語だったからだ。そうか、日本に住んでいるんだから、話せるね……と一応安心したけれど、時々英語だった。奥さんは苦手らしく英語を話していて、子供が日本語がぺらぺらで助かって、色々話をしていた。日本の学校には通っているらしい。
「アメリカンスクールって授業料が高いからね。日本人との交流も大事です」と言い切っていて、色々学校の話もしてくれた。こっちと違って、割と活気のある学校らしくて楽しいらしい。部活も問題なんてあまりないようで、
「うらやましい」とつい言ってしまった。
「学校は楽しいよ」と言われて、中学生になっても楽しいと言いそうだなと思った。それに引き換え、私は……。
 帰るときに、
「詩織は自己主張してもっと話してよ。英語なんて話せなくてもいいです。考えを知りたいです」と小学生に言われてしまった。しっかりしている。母が隣で笑っていた。
「どう? しっかりしているでしょう?  アメリカだと自分の考えは自分で主張しないとね。意見も合わないのが普通で、もめるわ。最後は決めたことに従うの。それが普通よ。こっちの陰湿さはないわね。でも、責任も重いからね、最後は自己責任。上手くやっていけるかしら」と言ったので、
「遊びに行く前に英語の勉強します」と言ったら、母がうれしそうに笑っていた。全然話せない。聞き取れない。英語って難しい……とつくづく思った。

「日本人には無理だよ。英語を聞き取れるほど、会話を耳にしない。先生のジャパニーズな英語とアメリカ人とじゃ差がある」と拓海君が料理を運びながら言った。
「簡単なもので悪いけれど」と言ったら、笑っていて、
「しかし、久しぶりだなあ」とおじいさんがうれしそうだった。みんなで話しながら一通り食べたあと、
「アメリカのクリスマスって違うんだろう?  教会に行って、家族で過ごして、クリスマスカードを送りあって」
「そう聞いたけれど、家族を大事にするんだって。個人主義だけれど、家族は大事って言ってた。友達に相談するのもよくあるし、日本と違うみたいだね。でも、声が大きかった。話題も噂話はしないんだって」
「そのほうがいいよな。あまりやるとな」
「そうだね、それは私も思った。人は人、自分は自分って思ってるみたいだね。感覚が違ってた。でも、楽しい人たちだったよ。よく笑っていてね」
「俺も笑うようになってきたよな。爺ちゃんもさ。詩織のお陰だね」と拓海君が笑っていて、おじいさんがうれしそうだった。
 後片付けを2人でやりながら、
「爺ちゃんが楽しそうだった。良かったのかもね」
「私も久しぶりかも。家族って感じで楽しかったから」
「おばあちゃんは、どうしているんだ? 」
「向こうだと、助け合うのが普通なの。様子を見がてら野菜とか、煮物とか届けるのが普通だから」
「なるほどね、そう言えば俺のところは仲がいい人だけそうしているよ。全部は無理だよな。こっちはね」
「前は?」
「世話を焼いてくれるおばさんもいたしね。声を掛けてくれる人もいたよ。こっちではいない」なるほど、
「新しく建った住宅ばかりだからかもね。向こうは主≪ぬし≫みたいな人もいるから。長く住んでいる人もいたから」
「そういうのも関係があるんだね」
「また、遊びに行きたいよな」
「遠いから無理だよ。それに、太郎とかうるさそう」
「あいつねえ。そう言えば部活って何やってるんだ? 」
「テニスらしいよ」と言ったら、むせていた。
「そういうことをして、確かに似合わないけれどね」と言って、2人で笑っていた。おじいさんが、部屋に戻って休むと言ったので居間でアルバムを見ていた。
「思い出せそうか?」と拓海君が戻ってきて、言った。
「無理だなあ。結構、泣いてるのとかもあるね」
「だから、言ったろ。ビービー泣いてたって」
「はいはい、どうせそうですよ」
「未だに泣き虫だと思わなかったけれど」と言いながら隣に座ってきて、一緒に見ていた。そのうちじっとこっちを見たので、
「ごめん、まだ無理だよ」と言ったら、笑っていて、
「焦らなくていいよ」と言って、肩を抱きしめながら、
「目をつぶれよ」と笑っていて、
「それはちょっと」と困ったら、
「まぶたを閉じろ」と言われてしまい、渋々まぶたを閉じた。

 2人で昔の話を色々していて、
「正月は?」と聞かれて、
「初詣は父と2人で行くけれどね。近所の神社。おばあちゃんも一緒」
「ふーん、一度帰るんだな」
「そのときぐらいしか帰れないからね。そっちは? 」
「俺か?  俺もいつも行く所だよ。人が多くて大変だ」
「へえ、こっちは近所の人がいっぱい来るから、立ち話ばかりだね」
「それもいいんだろうけれど、そうか、じゃあしばらく会えないな」
「実家には行くの?」
「爺ちゃんと向こうの家も行くし両方だよ」そう言えば、そうなんだ。うちは片親だから一つしか行かないけれど、そう言えば、あの人の両親って何やってるんだろうなと考えていた。

 冬休みをそれぞれの実家で過ごして、宿題をおじいさんの所で一緒にやっていた。おとなしくやっていたら、
「詩織ちゃん、おミカン、食べるかい」とおじいさんが話しかけてきて、
「さっきから、うるさい。俺にそんなこと、聞いたこともないくせに。甘いよなあ。昔からそうなんだよ」と拓海君が呆れていた。
「お前には聞いていないぞ」とおじいさんが言って、
「女の子には甘いのか? 呆れるよな。祖母ちゃんも爺ちゃんも詩織ちゃん、詩織ちゃんって、うるさくて」
「お前もそうだったろう? 遊びに来てくれないと寂しそうでね。よく覚えてるぞ」とやりあっていて、それを聞いていて笑っていた。
「そういうことは思い出さなくてもいい」と拓海君が、ちょっと恥ずかしそうにしていた。
「仲が良かったよなあ。一生懸命ピアノを真似していてね。拓海もあの頃が一番素直だった」といったため、
「うるさい」と照れていた。
「どういう感じだったんだろうね? 今と一緒かなあ」
「全然、違うぞ。もっと素直でかわいかったというのに、なんだか生意気になってきて」と言われて、
「いいんだ、うるさい」と言ったので、それを見て笑っていた。

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