数争い

 次の日から、一之瀬さんが何度もこっちの教室に来て、うれしそうに拓海君に話しかけていた。周りも唖然とするほどで、拓海君はクールな態度で接していたけれど、気にせずドンドン話しかけていた。積極的かも。
「ほっといていいのか?」とそばの男子に聞かれて、
「さあ、彼の問題だし」と言ったら、弘通君達が心配そうに私を見ていた。
「なんだか、盛り上がってるよなあ。おーい、女子のチョコはこっちにくれ」と蔵前君が言い出して、その後、勝手な予想をやっていて、
「弘通がいたなあ。数で言うと」というのが聞こえた。
「数か」とため息をついた。拓海君はいっぱいもらいそうだなと考えていた。
「上の学年でいちばん人気が、本宮3兄弟の上だろう。この学年だと、やっぱり本宮か?」とやっていて、
「さっきから、平林ばかりじゃん、海星と中野も入れろ」という声が聞こえた。
「そう言えば、積極的なのが南平林出身が多いよね。海星はいまいちだし、中野は田舎にあるからのんびりしている」と夕実ちゃんに言われて、朋美ちゃんたちがはずかしそうだった。そう言えば、今のメンバーはほとんどが中野出身者だった。碧子さんと、朋美ちゃんと弘通君と須貝君、知夏ちゃんがそうで、遠藤君と夕実ちゃんが平林、私と光本君が海星出身だ。
「佐々木君はどこだっけ?」
「俺は途中から、平林だよ」と答えていた。
「そうか、そういうヤツも多いよな」と光本君が絵を描いていて、
「だめだ、須貝に負けた」と並べて比べていた。
「人物と風景どっちが得意?」と聞いたら、
「人物かなあ」と須貝君が答えて、
「俺はどっちかと言うと風景」と光本君が言った。
「よーし、それで行くぞ」と前の方の拓海君達が集まっている辺りが騒がしくなった。
「お前らも協力しろよ。本宮たちに負けられない」と言っていて、何をやってるんだろう? と見てしまった。

「その戦いは面白いね」と夕実ちゃんが人ごとのように言った。面白くない、なんだか困るなあと思った。前で何を盛り上がってるかと思えば、チョコレートの数を競うそうで、そんなことしてどうするんだろうなと考えてしまった。
「うちのクラスだと、戸狩君が有利だね」
「山崎君だって」と言い合っていた。
 お弁当を食べ終わって、碧子さんと話をしていた。
「盛り上がってますね」と言ったので、
「でも、無駄だと思うよ」と言ったら、碧子さんが驚いていた。
「あら、どうして?」と聞かれて、
「なんとなくね」とため息をついた。

 部活の方でもその話題を知っていて、
「どうなるかなあ」と緑ちゃんが勝手に予想していた。練習試合が終わったため、少しは空気が緩んできていて、一之瀬さんも機嫌よく入ってきた。
「その話ね。もっと、働きかけないと」とうれしそうだった。当然、彼に贈りそうだなと考えていた。
「詩織ちゃんは決まってるとして、この中で決まってる人」と千沙ちゃんが聞いていて、勝手なことを言ってるなあと見ていた。
 その後もうるさかった。何しろ、上機嫌で柳沢がやってきて、
「試合、思わしくなかったのに、変だよ」とみんなが気づいて見ていた。その理由が帰るときに分かった。
「守屋のほうが勝つよ」「柳沢とどっちも選ばないかも」とバスケの人が言っているのが聞こえて、
「知ってる、職員室で柳沢と守屋が」と教えてくれた。職員室でもチョコの話題となって、うちのクラスが張り合っているのを聞いて、先生同士もどうかという話題になったらしい。例のごとく、守屋先生と張り合って、若い女の先生が、柳沢先生を押したため、上機嫌だったようだ。
「呆れる。その程度で、あの機嫌の良さなんだ」とテニス部がみんな笑っていた。
「テニス部は顧問も男子ももてないよねえ」と緑ちゃんが大声で言ったため、気に入らなさそうに一人の男子が叩いていた。
「お前らもどうなんだ?」とバスケの男子もやってきて、
「タクが一番有利だな。それ以外だと」と顔を見合わせていた。
「先輩でモテてた人がいたけれどなあ、この学年だとなあ」と考えていて、
「それって、本宮兄だろう? 本宮兄と弟どっちがモテるんだよ?」と男子が聞いていた。
「兄だろう」
「弟は八方美人だぞ。確かに成績はいいけれどなあ」と言い合っていて、
「やっぱり、水泳部の高橋君が一番だよ」とバスケの子が言い出した。みんながうなずいていて、誰も知らないなあと聞いていた。
「結城は?」とバスケの男子に聞かれて、結城君の方をみんなが見た。
「彼女と別れたばかりですからね。募集中ですよ」と言ったため、
「そうなの?」と何人かの女の子がうれしそうだった。その間、一之瀬さんが拓海君にずっと話しかけていて、拓海君はクールに対応していて、なんだか、色々あるなあと見ていた。

「当然、心のこもった手作りをくれるんだろうな?」と拓海君に帰るときに聞かれて、
「あちこち上げないといけないなあ」と言ったら、
「誰にやるんだ?」と面白くなさそうに聞いてきた。
「義理チョコがあるもの。まず、先輩とそれから弘通君ね、おじいちゃんとお父さんとそれから」
「まだいるのか?」と言われて、
「チョコ数争いの大本命がいるよ」
「俺かよ」違うけれど。
「なんだよ、俺じゃあないのか?」
「義理チョコじゃないからね。そっちはね」と言ったら、
「そう言えば、そうだよな。あれ、大本命って誰か男子いたか? そんな人気のある男子っていたかなあ?」と拓海君は考えていた。

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