裏表

 テストを何とかこなして、部活に行くことになり、机で伏せていた。
「なんだか、疲れた」
「ねえ、この成績で来年のクラス分けって決まるの?」と夕実ちゃんが心配そうにしていた。
「松平と同じになりたいのか? でも、難しくないか。成績順なのか?」
「知らないよ。どうなんだろうね。大体どうやって決めるものなの?」とみんなが聞いていた。そう言えば、そういうことも考えたこともなかった。拓海君と同じだといいけれどなあ。
「カップルは引き剥がされるって噂があるぞ」と言い出して、
「そんなの嫌」と夕実ちゃんが慌てて言い出して、
「よく知らないけれど」と続けたので、みんなが笑い出した。
「よほど、離れたくないらしいぞ。いいよな」と松平くんが言われていて、彼は少し恥ずかしそうにしていた。
「中野ばかりが増えていく」とまた光本君が言い出した。松平君も中野だからだ。
「積極的な平林、のんびり中野と言われてるからね」と弘通君が笑って、
「言えてる。海星ってどっちつかずで特徴ないよ」と佐々木君に言われてしまった。
「海星高校ってかなりの割合で受けるらしいぞ。この中では須貝と俺と佐倉か?」と聞かれて、困ってしまった。どうしようかな、返事をしないといけないな。
「なんだよ、まさか山崎と弘通と同じって無理だぞ。弘通は男子校」と言ったので、みんなが驚いていて、
「男子って、剛邦《ごうほう》か後はどこだっけ?」と聞かれていて、
「違うよ、弘通は」と光本君が言おうとしたら、
「そういうことは、本人が言うならまだしも」と須貝君が止めていた。
「良く分からない」と言ったら、みんなが笑い出して、
「佐倉はのんびりしているよ」と言われてしまった。困ったなあ、返事しないと。

「のんびりさんが、あくびしているな」と後ろから言われて、慌てて欠伸を止めた。
「なんだよ、浮かない顔をしていて」と楢節先輩が笑っていた。
「先輩、どこの高校受けるの?」
「俺か? 蘭王《らんおう》と堀北《ほりきた》」と答えたので唖然《あぜん》とした。蘭王はこの学校だと入れても1人か2人だと言われている。うーん、成績いいからな。
「ということは、公立より私立の方が第一希望なの?」
「そうだよ。蘭王なら大学に行くのに有利だからね」確かに。
「そうなんだ。将来は学者か医者か弁護士、それとも議員さん」
「末は博士か大臣かって? 当然大臣だ」と普通に答えたので、どこまで本当なんだ……と思いながら見つめてしまった。
「お前もまだまだだなあ」と言いながら通り過ぎていった。ここまで変だと、きっと相手が愛想をつかしたのかもしれないなとその後姿を見て思った。相手は人妻かあ。どんな人かなあ……とぼんやりしていたら、
「その見かたはやめろ。元恋人」と言われて、振り返った。拓海君が睨んでいて、
「違う。呆れていたの。本命はいったい誰なのかって考えて……」
「考えて?」
「きっと、あれじゃあねえ」
「何を言ってたんだ?」と聞かれて説明したら、
「大臣はさすがになあ。代議士になるのは大変そうだ」
「さあねえ。どこまで本気やら」
「でも、どうしてそんな話になったんだ?」
「ああ、高校のこと。どこに受けるのかって話をしてた」
「蘭王狙いだろう」
「知ってたの?」
「有名だろう。あの人の場合は特に」確かにね。
「それに、そばにもいるだろう」
「そばって?」
「弘通、あいつも狙っていそうだぞ」嘘ー。
「なんだよ、知らなかったのか。医者になると聞いてるよ。それだとそこの方が有利だからだろうな。あそこは有名大学への進学率がいいからね」うーん、確かに。弘通君なら狙えそうだけれど。
「お前はどうするんだ?」と聞かれて、困ってしまった。
「ま、ボチボチ考えないとな」
「拓海君もそうなの?」
「ああ、それはね」そうか、やっぱり考えているんだ。そうなると私も考えないといけないなあ。あの人に言われて、色々悩んでしまった。確かにこのままだと色々不利かもねえ。片親だけって大変だってことにあまり気づいていなかった。かといって、アメリカの学校ってすごすぎるけれど。

 部活の方でも、うるさかった。クラス分けの話と誰がどこの高校を受けるとかそういう話で持ちきりだった。中でも、
「本宮さんが一番よね」と言っていた。
「会計士の息子だろう? いい暮らししているぞ。親が土地持ちだって。だから、モテるんだろうけれど」と男子が言っていた。
「中野って、田舎の人が多いよね」
「平林ばかりなぜモテる」とぼやいていた。結城君も平林だからだ。
「この中で一番カッコいいヤツを選べよ」と男子に言われていて、ロザリーが色々言っていた。
「でも、やっぱり拓海が一番ですが、この間から変わりました。拓海は昭子にさしあげます」と訳の分からない事を言い出した。
「差し上げますって……」と千紗ちゃんが呆気に取られていた。
「あら、いいじゃない。私ははっきり決めてるの。誰かさんと違って、裏で抜け駆けしないわ。正々堂々と」と一之瀬さんが言いだして、「よく言うよ」と小声ですぐ後ろの男子の後輩達が言ったため、なるほど、そっちでも思ってたんだなと聞いていた。
「正々堂々と、テニスの方もしてもらえるとありがたいわね」と小平さんがやってきて言った。
「え?」とみんなが驚いていた。
「後輩の一部から聞いたのよ。また、佐倉さんの悪口を裏で言ったそうね」と小平さんが言って、一部の後輩が慌てて下を向いていた。小平さんがそっちを見て、
「前の話をすっかり忘れている人がいるようだから、この際、ちゃんと言っておくわ。悪口、陰口、一切禁止。持ち物を隠したり、嫌がらせ、嫌味、そういうのはしないでもらいたいの」
「そうだね。さすがに目に余るよ」と湯島さんが言ったため、みんながその子たちと一之瀬さんを見ていた。
「な、なによ」と一之瀬さんが面白くなさそうにそっぽを向いていた。
「おー、いけません。本当ですか?」とロザリーが聞いていた。まっすぐ目を見て聞いていて、一之瀬さんは目を見ずに、
「言いがかりよ」と言ったため、
「本当ですか? 昭子、嘘、いけません。私、その話知りません。教えてください。本当ですか?」と聞かれて、
「先輩が後輩に悪口を言っていたのは聞いていました」と意外にも結城君が言い出したため、びっくりした。女の子たちが動揺していて、
「僕はそういうのは好きじゃないんですよね。だから、この部活の子は全部断っています。そういうのは見苦しくて」と結城君に言われて、かなり動揺している子が多かった。
「それはあるよな。女子って陰湿だ」「うちの部活は特にそれが多いよな」「目に余るのはある。相手を選ぶのもそういうのは気になる」と男子が口々に言いだして、
「そうみたいね。とにかく、やめてね」と小平さんに言われて、一之瀬さんが拳を握り締めていて、
「また、あなたなの? いつも、そうやって助けてもらって、幼馴染だからって」といきなり、一之瀬さんが言いがかりをつけてきた。
「え?」と驚いていたら、
「まただよ」と男子がポツリと言った。
「だよな、だから、女ってね」
「ひがみっぽいよな」と言い出したため、どういう事だろうと見ていたら、小平さんが何か言いかけて、その前に、千紗ちゃんが、
「詩織ちゃんは言っていないと思うよ」と言って、周りの同意を得るように見回していた。
「どういうこと?」と一之瀬さんは睨んでいた。
「いつもそうやって、詩織ちゃんのせいにするよね。でも、詩織ちゃんと話すようになってから思ったの。そういう性格じゃないなって」
「それはありますね」「どこか抜けてるし」「作為的なことはおよそ考えそうもないかも」と後輩の子まで言い出したため、一之瀬さんがそっちを睨んでいて、
「おお、こわ」とそばの野球部の男子がいつのまにか寄ってきて、みんなが一斉に見ていた。さすがに一之瀬さんが顔を取り繕っていて、
「もう、遅いよ」とまた、小声で後ろの男子が言っていて、
「なんなのよ」と一之瀬さんが睨んでいた。
「お前のほうがおかしいと言ってるんだよ」といつのまにか体育館からも大勢出てきていた。拓海君がそばまでやってきて、
「いつも詩織のせいにすれば、それで自分は悪くなくなると思っていないか?」と言ったため、思いっきり睨んでいた。
「いつも、そうやって庇って」
「俺が庇うのが面白くないのと、みんなの言い分を聞けないのとは分けて考えろよ。お前のそのすぐにカチンと来る態度と回りのせいにする考え方、みんながそのまま鵜呑みにしてくれる状態はもうないかもしれないぞ」と拓海君が言って、中に入って行ってしまった。バスケ部は一部がひそひそ言っていて、係わり合いになりたくないのか中に入る人も多かった。
「そうやって、幼馴染だからって味方につけて卑怯よ」と言ったため、さすがに唖然となった。
「お前のその性格のほうが問題だよな」と男子が言って、
「さ、練習始めようぜ」と男子は練習し始めた。
 後の空気が悪くなり、
「とにかく、よく考えて。一年生もね」と小平さんが言って、練習をするため、コートに行ってしまった。

 練習後もわだかまりがあり、でも、誰にも聞けなかったので拓海君に聞いてみた。
「だから、仕方ないさ」と帰る時に拓海君に言われて、
「でも、一之瀬さんが、しかも男子まで」
「お前、知らなかったようだから、一応注意しておくと、ロザリーは先輩の一人にチョコレートをもらって付き合い始めた」
「逆じゃないの?」
「それはそうだけれどね。でも、意外にもロザリーは『料理上手な男性はいいです』と言って、そっちと付き合い始めたため、男子ががっかりしていたんだよ。結城にテニス部の女子からかなりの数のチョコが届き、全部断った。理由は言っていないらしいが、さっき聞いたよ。女子が盗み聞きしていて、中まで報告に来たから、俺は様子を見に行ったんだ。とにかく、男子も女子の一部も、もう分かってきてるんだよ」
「どういうこと?」
「男子が言ってたらしいぞ。女子が強くなれない理由、仲が悪い理由、全部、一之瀬のせいみたいだってね。男子の好きだった子がC組にいて、一之瀬と内藤が嫌がらせしていたのが発覚したため、噂が流れた。お前の方も、今までのことも全部ね。それで、男子には後輩も2年生も一之瀬の性格は知れ渡ってしまってね。今更、しおらしくしたところで、ちょっとな……。ちなみに、バスケ部女子情報によると、テニス部男子は眼中にないが、野球部の男子に、一人、気になるヤツがいるため、急に態度が変わったと言ってたみたいだけれど」そう言われると、そうだったかも。
「つまり、一之瀬が今更猫かぶろうが、取り繕うが、無理かもしれないという話だ。海星出身の女の子ならほとんど知ってるけれど、あいつの報復を恐れて、口に出さない人が多いから、男子はあいつの性格をそこまでは知らなかったようだ」
「え、そうだったの?」
「あの女はそうだったらしいぞ。昔からね。気に入った男子や先生の前だと態度が変わるって噂だったよ。先輩の前でもそうだっただろう?」言われて見れば。
「とにかく、あいつのやり口は通用しなくなるだろうな」
「やり口って?」
「全部お前のせいにしてきて、誰も止めないから、そうやって逃れてきたんだよ。でも、その手はもう使えない。俺を味方につけて卑怯だと前に言ってきたけれど、あいつのやり方の方がよほどひどいというのに」
「そう言われると変だよね」
「自覚がないんだよ。性格がきついから、お前はどうしてもあいつに負けるけれど、それを利用しているんだよ。自分が悪くない方に持っていくのに都合がいいんだろう。人のせいにすれば楽だからな」
「なんだか、よく分からないね」
「自分が悪者になりたくないから、別の人を悪者にでっち上げるタイプ。周りを巻き込んでお前を悪者にして攻撃する。俺がもっとも嫌いなタイプだけれど」
「そうなんだね」
「ほとんどの男子はそう思ってるから、あの場はああ言ったんだよ。また、変わってきそうだな。春の試合までに何とかできるといいな」
「春の試合か」
「出られそうか?」
「私たちはそういうのは、余裕がないけれどね」
「そうか? 俺には一番余裕がないのか一之瀬に感じるよ」
「余裕がある人は誰もいないよ」
「小平さん一人じゃ弱いよな。一之瀬があれじゃあね」
「ロザリーと千沙ちゃん、美鈴ちゃんが鍵だって、楢節先輩が言ってたよ」
「そういうだろうな。俺もそう思うからね」よく分からないなあ。

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