賭け

 周りが学年末の勉強をしている人も多くて、弘通君も珍しくやっていた。
「クラス分け、これで決まるのかな?」と夕実ちゃんが心配そうだった。私はと言うと、
「何で、そんなに英語ばかりやってるの?」と聞かれてしまった。
「色々、あってね」とため息をついた。なんだか、決めないといけない事が多いなあと考えていた。テニス部では、あいかわらず、一之瀬さんが機嫌が悪くなり、ロザリーは練習以外は男子と話すばかりで、一之瀬さんとも話していなかった。遠藤君の機嫌がどんどん悪くなり、
「困ったヤツ」と佐々木君が言っていて、弘通君も話し掛けられる状態じゃなくなってしまった。
「ところで、須貝はどうして弥生とくっつかないんだ?」と光本君に聞かれて、須貝君が鉛筆を落としていた。
「動揺している」
「気づかなかったの?」とみんなに聞かれていて、
「え、いや、チョコレートはもらったけれど」と困っていた。
「須貝は鈍い」「もう一人もらったんだろう?」と聞かれていて、彼は答えなかったので、
「誰だよ」と光本君が面白くなさそうだった。
「え、それは」とかなり困っていて、私は英語の問題を解いていて、
「佐倉も少しは参加しろよ」と言われてしまった。

「桃子さんも返事はもらっていないそうですわ」と碧子さんが優雅に言った。
「やっぱり、そうだったんだ。そう思って、参加するのをやめた」
「そうですね。林間学校の時に聞かせていただきましたものねえ」と碧子さんが言って、
「朋美ちゃんも動揺してたよね。あの時」
「そうですわね。知夏さんも同じでしたし、私も困ってしまいましたし」
「先輩はどうするの?」まさか、人妻が相手とはまだ教えていなかった。
「ああ、あれは諦めましたわ。さすがに、とても私とは無理だと言われてしまいましたの」
「そうだよね」
「でも、戸狩君にも蔵前君にも、光本君にもお断りしましたの」
「いつのまに、戸狩君まで」と驚いた。
「バスケ部の方に振られたようですわ」なるほどね。しかし、光本君も裏でしっかりやることやってるなあ。
「でも、さすがに困ってしまって」
「まだ、誰かいるの?」
「チョコレートって男性からもらうと思いませんでしたわ」と言ったので、そういうのが流行っているんだろうかと思った。
「隣のクラスの橋場さんから申し込まれてしまいまして」
「どうするの?」
「『今度の日曜に、ずっと待っています』と書かれた手紙が入っていましたの。困ってしまって」それは困るぞ。
「それで?」
「何度か話しかけようと思いましたけれど、あの方には話しづらくて」
「呼び出してあげようか?」
「いいえ、私の問題ですもの。でも、私もどうしていいか」
「碧子さんならいくらでもそういう経験が」
「いえ、さすがにチョコレートはもらったことはありませんわ」
「そうだろうね」と2人でため息をついた。

 学年末まで、勉強をちゃんとしようと思い、いつもより遅くまで勉強していた。拓海君に誘われて、お爺さんの家でもやっていて、
「おとなしくやっているねえ」とうれしそうに見ていた。
「爺ちゃん、気が散る」と拓海君がぼやいていて、私は、それも黙ってやっていた。
「珍しいよな。かなり真面目だったな」と帰る時に言われてしまい、
「試しにがんばってみようかと」
「なにを?」
「今までの自分を少しでも変えないとね」
「ふーん」
「なんだか、周りが変わってきた気がするの」
「それはそうだろうな。あの先輩の蘭王合格はさすがに話題になってて、あの弘通でさえね」
「ミコちゃんと弘通君って、どっちが上かなあ?」
「どっちも同じかもな。観野もがんばってるらしいしね。弘通だって、これからずっと勉強していかないとな」
「お医者様か。すごいね」
「お前はどうするんだ?」と聞かれて、
「それを今度のテストで決めないとね」
「なんだよそれ?」と拓海君に言われて、
「迷惑掛けないようにがんばらないとね」と言ったら、
「訳が分からないよな」と言われてしまった。

 テストが続々と返ってきて、遠藤君が焦りがあるのか、机を叩いていた。
「俺はそれなり」と隣の男子が言っていて、私は、答え合わせをしながら、ちょっと考えていた。「返事をしないといけないな」とぼんやりしてしまい、
「ということで、出来なかったヤツも出来たヤツも受験があるからがんばるように」と言われていて、確かにそうだよなと思った。あっちって、どういうシステムなのかも聞かないといけないな……とぼんやりしてしまった。

「佐倉どうだった?」とそばの男子に聞かれて、かなり経ってから、
「……え?」と言った。
「聞いていないよ」「ぼけてるよな」「山崎もどうしてお前と付き合ってるんだろうな」としみじみ言われてしまい、
「そう言われても」と考えてしまった。
「どうも様子が変だぞ」と言ったので、
「人生の勝負ってしたことある?」と聞いたら、
「大げさに言うな。たかがテストで」「されどテストだぞ」「いや、俺は毎回真剣勝負だ」と言ったため、やるんじゃなかったかなあ……とため息をついた。
 英語のテストが返されて、
「がんばったな」と先生に言われても、怖くてすぐに点数を隠した。
「なにしているんだ?」と通路の男子に言われて、ため息をつきながら、歩いていたら、
「お前よりは俺のほうががんばったぞ」とそばの男子に言われてしまい、
「43点の男が言うな。その倍はあるぞ」と先生が言ったため、
「え?」とみんなが一斉に私を見ていたけれど、私はため息をついていた。

 部活に行く前に、
「ストップ」と後ろから言われて、
「なに?」と拓海君に言った。
「86点って本当か?」と聞かれて、ためいきをついたら、
「なんだよ、その顔は」
「なんだか、気が抜けただけ」
「よく分からないヤツ」
「拓海君のようにしっかりしたいな」
「何を言ってるんだ?」
「しっかりしないとね」
「お前、この頃、変だぞ」
「ミコちゃんみたいな人が多そうだな」
「言ってる意味が分からないな」
「がんばります」
「お前、会話が合っていないぞ。俺の言葉を聞けよ」
「恋愛上手になりたいね」
「やっぱり、変だ」と言って、おでこの手を当てていた。
「熱があるじゃないか?」
「知恵熱です」
「お前はやっぱり変だぞ」と拓海君がしみじみしていた。

「どうだった?」とあちこちで言い合っていて、ロザリーの周りで男子が点数を教えあっていた。
「詩織ちゃんの点数って、本当?」とまた、緑ちゃんが聞いてきた。
「緑ちゃんはどうだった?」と反対に聞いたら、なぜか逃げていて、
「あいつは赤点確実だからな」とそばの男子が笑っていて、
「どうして、人のばかり聞きたがるんだろうね。できたのなら分かるけれど」と千紗ちゃんが考え込んでいた。そう言われるとそうだよね。
「自分に自信がないからですよ。だから、ああやってね。言葉でフォローしたって、僕は好きじゃありません」と結城君が珍しくはっきり言ったので、びっくりした。
「お前、変わってきていないか?」
「八方美人とか言われると傷つきますよ。僕だって、それなりにちゃんと付き合っていきたいのに、『テニス部であちこち弄んでいる』なんて、あの先輩に言われて、さすがにカチンときましたからね」となぜか一之瀬さんの方を見ていた。なるほど、それで、あの時、ああ言ったんだなと考えていた。
「そうだな。あいつの裏表の性格は聞いてはいたけれど、実際のやり口を聞いたら、さすがに話す気が失せた」
「俺なんか、間近で聞いちゃったよ。クラスで見えない位置に座ってたら、すぐそばの廊下で女の子の陰口話しているのが聞こえてさ。言い方がちょっとあまりにもひどくてね」
「そうだよな。薄々気づいていたけれど、さすがに全部流れると敬遠する」と男子が口々に言い出し、本音は別にあったんだなと聞いていた。
「佐倉も気にするなよ。山崎だって、幼馴染だから庇ってるというよりなあ」
「それもあるし、あいつどこでもやってるぞ。バスケ部でもな。この間なんて、演劇部の女の子を助けてたぞ」
「あいつって、どうして、ああも正義感が強いんだろうな」
「それだけ優しいんですよ」と後輩の子が聞いていて、口を挟んできた。
「お前ら、うっとりして言うな」
「でも、反省しました。佐倉先輩の悪口の話はさすがに目に余ってたし」と言い出したので、裏で何があったんだろうなと思いながら、黙っていた。

 練習の後に、
「来月になったら、練習試合があります。そのメンバーが最終のペアになる予定です」と小平さんが発表した。
「試合のメンバーもですか?」と矢上さんが聞いていた。
「それは試合前に決める予定です。怪我人も出ると困るし、その時に一番調子のいい人を出す予定ですから」と言ったため、ざわめいていた。
「ペアを変えてもらえないかしら」とまた、一之瀬さんが言いだして、ロザリーまでもが、
「私も千沙に変えてください。もしくは佐倉です」と言ったため、ざわめいていた。
「後の人は?」と聞かれて、元川さんが、
「一之瀬さんか、湯島さんがいいです」と言いだして、困ったと見ていた。
「後はないですか?」と聞かれていて、
「他の人を試したいので、お願いできますか?」と矢上さんまで言い出したため、荒れるかもと思いながら、見回していた。
「湯島さんと百井さんは?」
「私は今のままで」「私もそれでいいわ。小平さんとも、また組んではみたいけれど、あとはないわね」と言ったため、小平さんと湯島さんが困っていて、先生が腕組していた。
「そういうことなら、また、組み直して一度対戦してみろ」と先生が言ったため、小平さんがうなずいて、
「じゃあ、そういうことで、明日からやりましょう」と解散になっていた。
「一之瀬さんって、なんだか困るわ」と湯島さんが言ったため、みんなもそう思っていたようで、なんだかあっちもこっちもあるなあと考えていた。

「それぐらいは普通だろうな」
「なにが?」
「勝ちたい意識がはっきりしているからってことだよ」と拓海君に言われて、それもそうかもと思った。
「むしろ、今までより、欲が出てきた証拠だよ。はっきり、自分はどうしたいのか見えてきてるんだよ。意識の違いだな」
「意識改革って大変だね」
「いや、むしろ、そこが一番足りなかったんだよ。テニス部ではね。バスケは逆だけれど」
「え?」
「バスケの女子は精神論ばかり説いて、仲が悪いと駄目だからとすぐに話し合いになる。しかし、シュート練習など基本ができていないから、意味がない」
「はっきり言うね」
「足りない部分を補うしかないんだよ。バレーはその辺が最初からハッキリしている。目指すは優勝、入賞ってね。バスケも同じだ。テニスが中途半端すぎるんだよ。お遊びなのが多くて、それでも負けると悔しいやつもいてね。個人で戦う水泳とは違うからね」
「メドレーとかあるんじゃないの?」
「基本は個人。だから、タイムが重要だから、それほど仲が悪くない。他人の足を引っ張るより、自分のタイムをあげることが重要だからね。吹奏楽も同じだ。あれも個人で練習する時間も多いからね」
「よく分からないなあ」
「演劇部も解散の危機かもな」
「そう言えば、助けてあげたって」
「ああ、あれね。たまたま通りかかっただけ。人数が減ってしまって、大変らしいぞ。二年生だって、やる気をなくしている。本来なら春にも発表すれば違うだろうに」
「そうなんだ。複雑なんだね」
「さあね。俺はそれより、3月の試合のほうが重要」
「こっちは五月だよ。それまで、更にもめそうだなあ」
「そんなのはこれからいくらでもあるぞ。お前は心配だよな。英語のときは何で落ち込んでいたんだ?」
「恋愛の点数って低いかもね」
「お前、少しは人の話を聞けよ」と拓海君が怒っていた。

back | next

home > メモワール

inserted by FC2 system