人妻の真相

 次の日から、部活もペアを変えてやっていた。そして、出した結論は、
「このままでいいわ」と言う人がほとんどだった。千沙ちゃんだけが浮かない顔をしていた。結局、菅原さんだと合わなかったらしく、矢上さんと組むようで、後から、やってきたロザリーと一之瀬さんが、
「変えてほしいわ」とまた言ったため、小平さんが湯島さんと顔を見合わせていた。
「時間がないよ」と美鈴ちゃんが言いだして、確かにその通りだなと思った。
「何か意見がある人は?」と言われて、矢上さんが意外にも、
「佐倉さんと組ませてください。その上で、再度、百井さんと試合をさせてください」と言ったため、びっくりした。元川さんが思いっきり気に入らなさそうにしていた。千沙ちゃんが困った顔をしていたけれど、口を開いた。
「私も百井さんでお願いします」と言い出したので唖然とした。
「そう」と小平さんが言って、先生が寄ってきたので相談していた。
「なら、そうしてみろ。一之瀬のところはどうする?」と聞いていて、湯島さんと小平さんが、
「わたしたちはこのままで」と言ったため、一之瀬さんが、
「どうしてよ」とすごい剣幕で怒り出した。
「馬鹿にするにも程があるわ。私は一番よ」と言ったため、小平さんがじっと見返していた。
「馬鹿にしていないわ」
「いいえ、どうして私と組みたくないなんていうのよ。変だわ」
「変じゃないわ」とお互いににらみ合っていた。困ったぞ。
「百井、矢上、それぞれペアを交代して、試合をしろ」と言ったため、渋々コートに向かった。
「お前らも、ここで喧嘩するな。後輩の前だぞ」と先生がたしなめていて、後輩が困った顔で見ていた。

「どうしてかな?」と緑ちゃんが言って、
「そう言われてもね」と室根さんも困っていた。
「ロザリーもやりたいです」と先生に迫っていて、先生がたじたじになっていて、
「しっかり見てくださいよ」と湯島さんに怒られていた。
「やっぱり。さっきから様子が変だよ」
「力から行くと五分五分のはずなのに」
「前衛と後衛と入れ替えただけで、ここまで変わるんだ」と言い合っていた。
「百井の出来は良さそうだけれど、それより矢上が本気だな。いつのまに練習したんだろう」と言い合っていて、それより私は、
「今度は右ね」と矢上さんに言ったら、うなずいていた。
「何、話しているんだろう?」
「いらいらしているな。百井が珍しい」
「千沙ちゃんががんばっている大丈夫だよ」と言ったのにも関わらず、試合展開は逆になっていった。

「どういうことなのよ?」とロザリーに言われて、
「勝ったものはしょうがないさ」と言って、男子が戻っていき、女子の空気が悪くなっていた。
「接戦だったわね。それで、どうしたいの?」と小平さんが聞いて、
「私はペアを変えてください」と矢上さんが言って、
「わたしはこのままでいいわ」と百井さんが言ったため、千沙ちゃんが困った顔をしていた。
「前衛との相性かもしれないな」と先生が言いだして、
「どうしますか?」と小平さんが聞いていた。
「百井と矢上でいくなら、百井だな」と先生が結論を出していて、
「それでいいかしら」と聞かれて、百井さんがうなずいていて、私もうなずいたため、矢上さんが悔しそうだった。しこりを残しそうだなあと思った。

「待ってください」と後ろから声を掛けられて、困ってしまった。バスケ部のほうが早く終わったようで、待たせているだろうなと思ったからだ。振り向いたら矢上さんだった。
「さっきの理由を聞かせてください。私との感触は良かったはずです」と言われて、
「それはそうだけれどね」と言ったら、
「だったら」とかなり不満そうだった。
「しいていえば、相性の問題かな」
「学年の問題じゃないんですか?」と聞かれて、
「それもある」と言ったら、嫌そうな顔をしていた。
「でも、千沙ちゃんとも相性は悪くないと思うよ。意見をもっと言ったほうがいいね。お互いに遠慮があるし」と言ったら、びっくりしていた。
「私には言いたいことを言えたから、あなたも動きやすかっただけ、その差だと思うよ。今はまだ、百井さんのほうが安定感があるし、力もあるからね」と言って、そこから離れた。あれで納得するかなとは思ったけれど、ほっておいた。みんな意外と気が強いなあと考えていた。

「それで、お前は百井を選んだんだな」
「だって、やり慣れてるし、学年が一緒の方が楽だしね。同じ条件なら、そっちを選ぶ」
「微妙に違いそうだぞ」
「だって、矢上さんはやはり遠慮があるよ」
「あっちはなさそうだぞ」
「そう言われてもねえ。一方通行だと、一之瀬さんのところみたいになるよ。私が一番発言は唖然とした」
「いや、あいつはそれに尽きるぞ」
「どうして?」
「相性より、プライドだろうな。言ったろ。弱いものは認めない。組む相手も同じだよ。自分が納得できない相手だと意味はないんだよ」
「相性の問題なのに?」
「いや、今のあいつに合っている人は誰もいない。あの性格のままじゃ、誰とも合わない。当然だよ。このままだと孤立するぞ」
「孤立?」
「ああ、弱いものいじめばかりしているから、ああいう捻じ曲がった考え方になるのかもな。あいつだけ、直りそうもないな」
「あいつだけって?」
「宮内は彼氏に怒られて、徐々に言わなくなってきてるらしいぞ。反対に加賀沼はああいう性格だから、クラスメイトは下に見て、相手もしていない感じだしね。でも、一之瀬だけ、前よりひどくなってきてる。だから、男子が敬遠しだした。ロザリーとだってね」
「そう言われれば、室根さんとまた話しているね」
「お前って、つくづく疎いよ」と言われてしまい、よく分からないなあと考えていた。

 クラスメイトが噂話をしているのを聞いていて疲れてしまった。一之瀬さんの話題だったからだ。ロザリーは知らなかったらしくて、今まで一之瀬さんがやってきたことを男子に教えてもらって、本人に「どういうことですか?」と問い詰めて、一之瀬さんが逃げているらしい。
「ロザリーだと負けるだろう? あいつ納得するまで聞くらしいぞ」とそばで聞いていた男子が言いだして、分かる気もするなあと思った。
「ロザリーと付き合ってる先輩って誰?」
「川島先輩だと聞いたけれど。料理が上手らしいぞ。これからはそういう時代なのか」と言い合っていて、そう言えば、碧子さんはどうするのかなと考えていた。あれから、その話はしてくれなかった。
「ということで、あの変態会長もいなくなることだし、俺達もがんばらないとな」とそばで男子が言い合っていた。結局、先輩は誤解されたまま卒業しそうだなと思った。その前に、あの謎を聞かないとね。

「人妻狙いのほーほけきょ」と言ったら、
「けきょけきょ。なんだよ、その呼びかけは」と楢節先輩が怒りながらも応酬していた。渡り廊下で前から歩いてきたので、そう呼んでみた。見事に反応するなあ。
「恋愛の達人にお聞きしたい」
「おー、何でも聞いてくれ」
「外人と付き合う方法」
「なんじゃ、それ?」と思いっきり驚いていた。

「なるほどなあ、お前、思いきったなあ」
「母が帰っちゃうんですよ。向こうにね。仕方ないですけれど、後は夏休み前に来て、また長くいられるとは言っていましたがね」
「ふーん。それで、あいつには?」拓海君のことだろうね。
「言える訳ありませんよ。まだ、誰にもね」
「だったらなんで俺に相談するんだ?」
「もうすぐ会えなくなりますからね」
「なるほど、寂しくなるからな」
「いえ、後腐れないからです」
「お前、言いづらいことをはっきりと」
「冗談ですよ」
「お前は俺だけは強気だなあ」
「それより、人妻の正体教えてくださいよ」
「人妻ね」
「元恋人ですか? やっぱり、先生だった。ああ、家庭教師とかピアノの先生もありますね」と言ったら、黙った。
「当たりですか」
「お前は時々勘がいいな」
「ピアノの先生って美人が多そうですね」
「ああ、絶世の美人だった。何しろ、この俺が忘れられないぐらいで」
「でも、人妻になっちゃったと」
「俺に内緒でね」
「中学生にことわらないといけないんですか?」
「待っててくれても良いものを」
「何年待たないといけないんですか?」
「そうだな、あと10年ぐらい」
「長い。長すぎる」
「ああ、そう言われたよ、向こうにもね。だとしても22で結婚するなといいたいね」
「いいじゃないですか。それぐらい。でも、早いけれど」
「ピアノの先生が同じだったんだ。綺麗で優しくて俺にも丁寧に教えてくれて、『小学生だとなぜいけないんだ』と聞いたら、『中学生になってからね』と言われて、中学生になったら、相手をしてくれると思ったのに」
「呆れるのだけれど」
「しかし、あの日はつれなかった。部屋は別々で」と言ったので唖然とした。
「泊まったんですか?」
「だから、言ったろ。『これでお別れよ』と言って別れたって」
「なんだ、全部冗談だと思った」
「信じていないな。本気だったというのに、あれ以上の美人に出会うまで、俺は本当の恋はしない」と真面目くさって言ったので、呆れて見てしまった。
「なんだ、その目は。絶世の美女だったんだ。綺麗で優しくて、あれこそ、天使だ、女神だ」
「はいはい、どこまで本気やら」
「お前はちっとも俺を信じないな」
「先輩の発言が問題なんですよ」
「お前も少しは苦労しろ。恋愛でもなんでもね」
「してますよ」
「テニス部ではあるようだが、一之瀬はほっとけ。こっぴどく負けたら、少しは変わるさ」
「負けますかねえ?」
「確実にね」
「どうして知ってるんですか?」
「俺は帰るとき、チラッと見るのが日課だ、元恋人よ」
「恋人って誰?」
「お前はつくづく呆れるぞ。今の恋人にももう少ししっかりしろと言えよ」
「拓海君には心配掛けてばかりで」
「お前の性格を考えたら、中々な。でも、よく決心したよ。少しは見直したな」と頭をくしゃくしゃされてしまい、
「やめてくださいよ。犬じゃないんですから」
「いや、猫だ」と言ったので、思いっきり睨んだ。

 部活での態度はひどくなる一方で、練習試合まで大丈夫かなあと思いながらも、百井さんとできることをやっていた。

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