拗ねる父

 卒業式も近くなり、先輩に会えなくなるため、会いに行く人も多かった。先輩達は受験でそれどころじゃなさそうだった。
「発表もあるだろう? 困るよな」と誰かが言っていて、私も調べないといけないなと考えていた。
「詩織ちゃんはどうするの?」と聞かれて、そっちを見た。夕実ちゃんが、松平君と話すようになってから、あまり光本君達と話していなかった。朋美ちゃんに遠慮もあったし、桃子ちゃんとの絡みで、つい、須貝君と話すのにためらいがあった。朋美ちゃんに聞かれて、碧子さんの方を見た。
「他の人は断ってきたけれど、参加する?」と聞かれて、聞いたら、動物園にこのメンバーで行かないかと聞かれて、断った。
「あれ、どうして?」と言われてしまい、このメンバーでいくのは困るなあと考えていた。
「一緒に行こうぜ」と光本君に言われて、でも、そばにいた遠藤君が機嫌が悪そうだった。
「お前もテストはさっぱり忘れて、行こうぜ」と佐々木君が誘っていたけれど、睨んでいて、
「何で、お前より下の点数になるんだよ」と遠藤君に大声で言われてしまい、びっくりして後ろに下がってしまった。
「そういう言い方はないだろう?」と須貝君がたしなめてくれて、
「お前も同じだろ。俺はあれほどやったのに」と言ったため、
「さすがに今回はやったから」と言ったら、みんなが驚いていた。
「今まで、そこまでやる時間がなかったし、疲れもあってね。でも、事情が変わったから」
「事情?」と須貝君が驚いていて、
「とにかく、遠藤君には悪いけれど、八つ当たりされても困るよ」と言って、その場を離れた。
「言いすぎだよ。彼女になんの関係があるんだ? かわいそうだろう」と須貝君が言ったので、遠藤君が腐っていて、佐々木君が、
「焦るとよくないぞ」と言ったけれど、遠藤君はそっぽを向いていた。

 しかし、疲れるなあと思いながら、プリントを運んでいて、
「恋愛の達人、登場」とまた先輩に会ってしまった。
「その達人も男子校じゃ駄目ですね」と笑ったら、
「いつでも相談しろ。電話でもいいぞ。かわいい子紹介つきなら、即応答」
「呆れるのだけれど」と笑ってしまった。
「例の件も少しは相談に乗るよ。お前はちと心配」
「意外と面倒見がいいとか?」
「いや、他の女の隠れ蓑に使わせてもらう必要が出てくるから、とりあえずキープ」
「抜け目ないなあ」と言ったら、
「そういうことは堂々と職員室の前で言うな」と後ろから先生が来て怒られてしまった。

 ロザリーとまったく話さなくなった一之瀬さんは室根さんと一緒にいたけれど、なんだか様子が変だった。反対にロザリーはいつも話しの中心人物になっていた。ハッキリした性格で、明るくて男子といつも笑いあっていて、そばで後輩も集まるようになり、さすがの一之瀬さんも面白くなさそうなのに、なぜか近寄っていなかった。
「説明してくださいって、何度も言われたから近寄れないんだって」と緑ちゃんが言ったけれど、それだけかなあと考えていた。
「ねえ、決めた? 進路の問題」と後ろで言い合っていて、
「詩織ちゃんは? やっぱり、笹賀?」と聞かれて、
「よく分からない。前に先輩に聞いたら、その順位なら、海星か」
「えー!」言い終わらないうちに緑ちゃんが驚いていた。
「あれ? 変だった?」
「だって、海星ってさあ。真ん中より上だよ」と驚いていて、
「へえ、そうなんだ」と言ったら、
「やっぱり、そう言うと思った」と千沙ちゃんが笑っていた。
「海星は無理だ」と緑ちゃんが言って、
「笹賀はどれくらいなの?」と聞いたら、黙ってしまった。聞いてはいけなかったらしい。
「海星か、もう一つは?」と前園さんに聞かれて、
「それも無駄になったかも」と言ったら、
「どう言う意味よ」と聞かれて、
「ちょっとね」とごまかしておいた。どう言ったらいいのかなあと考えていた。
「この中で、海星、受ける人?」と男子が寄ってきて聞いてきて、
「詩織ちゃんぐらい、らしいよ」
「お前と同じかよ」と笑っていたので、
「よく分からない」と答えておいた。
「前園は?」
「私は、光鈴館が」と言ったので、
「すごい」と言われていた。
「それが一番上だろうな。山崎は?」と私に聞かれて、
「教えてもらっていないよ」
「それぐらい聞いておけよ」と言われて、そう言われてもなあと考えていた。

「機嫌が悪すぎる」と着替えたあと、緑ちゃんがボソッと言った。
「緑ちゃんが、あんなこと言うからよ」とみんなが怒っていて、
「だってー」と言い訳するような声を出していた。
「詩織ちゃんにまたやられたら、緑ちゃんの責任だよ」と千沙ちゃんが怒っていて、
「何、言ったの?」と聞いたら、
「何でもないの」と逃げてしまった。
「一之瀬さんに言っちゃったの。『詩織ちゃんでも海星だと言うんだよ』と言ってしまって」と教えてくれて、そういうことは言わないでほしいなと呆れてしまった。
「前にああやって言ったことで何度も問題に発展したからやめるように注意したというのに」と小平さんまで怒っていて、困ったなあと考えていた。

「海星はかなりの数が受けるけれどな。テニス部じゃ少ないのかもな。確か、前園と近藤さんぐらいだろう? お前より上なのは」
「へえ、知らない」と拓海君に聞かれても良く分からなかった。
「あいかわらず、疎いよな。来年から大丈夫か?」
「知らない。とりあえず、勉強あるのみ」
「あれ、珍しいな」
「やらないと怒られちゃったの。お母さんと約束してね」
「ふーん。その方がいいかもな」
「海星より上を狙っているのか?」と聞かれて、
「まあ、そんなとこ」とごまかした。
「それより、そっちは?」
「ああ、それね」
「嵯峨宮、梅山、堀北、って良く分からない」
「掘北が一番上だよ。俺もそこがいいよな」
「そうなんだ、すごいね」
「かなりがんばらないとな。少なくとも戸狩と同じぐらいはやらないと」
「そう、私もがんばらないとね」
「お互いにね」と笑っていて、とても本当のことは言い出せそうもなかった。

 ミコちゃんに相談したら、
「男子も女子もうるさくなってきてるよ。先輩の合否がはっきり分かると余計だね。海星を受けるんでしょう?」
「それはともかく、もっとがんばらないとね。ミコちゃんももちろん、堀北なんだね」
「そうだね、弘通君以外は確か全員そうだよ。桃が嵯峨宮辺りなのかな」
「そうなんだ」
「なんだか、元気ないね」と言われて、
「英語で100点取らないといけないの」
「ああ、それね。本当は何点?」と聞かれて、
「93」と答えたら、
「なるほどね。がんばったんだ。前はどうだった?」
「それでも80ぐらいかな」
「10点以上はあげたんだね」
「約束したの。100点取るってね」
「誰と?」
「お母さん」
「へえ、そういうのは大事だよ。がんばってね」
「数学は苦手だなあ。国語のほうがまだマシだ」
「詩織はがんばらないと」
「なんだか、それ以上にやらないといけないことが増えちゃったな」
「どうして?」と聞かれて、
「タンスの整理からしないと」と言ったら、
「受験と何の関係があるのよ」と笑っていた。

 父が帰ってきてから、今日、母が来ることを告げたら、嫌な顔をしていた。
「週末はあちこち、行かないといけないんだって、仕方なく、今日になったの。ごめん、急で」と私が言ったら、
「何でお前が謝るんだ」と機嫌が悪そうだった。母が来てから、一通りの説明を母がしたら、父がいきなり、
「お前は勝手に押し付けて」と怒り出した。
「何よ、あいかわらず説明もちゃんと聞いてなくて」とやりだしたので、
「座ってください」と父に言った。
「お前も、感化されるなよ。言ってやれよ。勝手に外国に行き、俺達を捨てて」
「捨てていないわよ。いきなり離婚届突きつけられて、戻ってくると言ってるのに、何度言っても聞いてもくれなくて」と言い出したので、
「座って、両方とも」と言ったら、さすがに座ってくれた。
「私が決めたの」
「何を言ってるんだ?」
「お母さんの話も聞いて、色々考えた事があるの。だから、そうしたいと思った」
「お前は騙されているんだ」
「騙していないわよ」と喧嘩しだしたので、
「違うの。お母さんは薦めてくれただけ、私がそれを判断して決めた。それだけのこと」
「俺から、詩織を取り上げる気なんだろう」と言い出したので、
「何を言ってるのよ」と喧嘩しだして、つくづく相性が悪いのかもねえと見てしまった。
 とめても無駄かもと思い、一通り喧嘩しているのを見ていたら、
「俺をおいていくのか、お前まで俺を捨てて」とまで言い出したので、
「何を言ってるのよ。この子の人生の大事なキーポイントよ。親なんて関係ないわ」
「俺を捨てて」と父が言ったので、
「そういうことじゃないの」と言って、説明した。
「そんなこと理解できるか」とすごい剣幕で部屋を出て行ってしまい、
「ほっときましょう。前もああだったのよ。まともに話も聞いてくれなかった。私だって詩織をいつか引き取りたかったのに、あの人は『勝手にしろ、出て行け』と言ってね。困った人よね。でも、今は事情が違う。やっと引き取れて」
「違うの、お母さん」
「あの人のそばに居たらおかしくなるわ。良かったのよ、これで」
「違うの。どっちのそばがいいとかの問題じゃないの」
「それはそうだけれど」
「お父さんには悪いけれど、この間、お母さんが言ったことにショックを受けたの。今の私は未熟で回りに迷惑掛けてる気がする。強くなりたいの。お母さんの言うとおりだもの」
「でも、よく決心してくれたわ。不自由はさせないからね」
「そんなことはどうでもいいの。家事とかお金とかそういうことじゃないの。私の弱さの問題だからね。それに、そっちのほうが将来的に色々と都合がいいのかもと思ったからね」
「なにが?」と母に聞かれても、父のほうが心配でドアのほうを見ていた。

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