男子の不満

 卒業式が近づいて、準備をしたり、ミコちゃんが忙しそうだった。
「誰か参加してくれ」と光本君が聞いていて、でも、なぜか素通りしていた。
「参加人数が激減したらしいよ」とそばの女の子が教えてくれて、
「そうなんですか?」と碧子さんが困った顔をしていた。
「佐々木君も遠藤君も参加しないし、朋美ちゃんも辞退したんだって」なるほどね。
「だから、男子しかいないもの。3人で行ってもねえ」
「3人って?」と碧子さんが聞いていて、
「光本君と須貝君、弘通君」それは寂しいかもしれない。
「じゃあ、行かなければいいじゃない」とそばの女の子が言いだして、
「このクラスも離れる訳だから、記念だって」と言っていて、
「そうなんですか?」と碧子さんが優雅に聞いていた。その後、窓のほうに移動してから、
「あの方と、一緒に出かけることにしましたの」と言ったので、唖然とした。
「あ、あの」
「頼まれてしまいまして」
「親とか反対しないの?」
「それはさすがに言われましたわ。でも、姉が『何事も経験よ』と言ってくださいまして」それはすごいかも。
「それに、朋美さんもそうらしいですわよ」
「まさか、木下君と?」
「ええ、そう聞きましたわ。あちこちあるらしいですわよ。バレンタインのこともあって、確か、本宮さんも同じだと伺いましたわ」
「あそこもなんだ。すごいなあ」
「あら、不思議じゃないそうですわ?」
「どうして?」
「だって、もう受験生になったら、そういうことも出来ないかもしれないと言ってましたわ。殿方はそう思ってらっしゃる方が多いですわよ」殿方ってすごい言い方するなあ。
「そういうのもあるね。私も準備しないといけないから」
「準備?」
「ああ、それはちょっとね」夏休みに一度アメリカに来なさいと言われている。そうしたほうがいいなと思っているし。
「まずはテープを聴かないと」
「あら? 音楽の趣味でも?」
「似たようなものだと思う」と言ったら、碧子さんが優雅に笑った。

「でも、あちこちあるよな」と隣でうるさくて、昼休みに碧子さんと一緒に話していて、誰かが寄ってきて顔を見たら、
「永峯君」と驚いた。
「ちょっといいかな?」と聞かれてうなずいた。廊下に移動して道具がおいてある教室の前で話していた。
「一応、一之瀬さんから事情を聞いた。小平さんからも山崎君からもね」
「そうですか」
「君からも聞きたいと思って」
「なにを?」
「いや、嫌がらせの数々は聞いたけれど、真相はどうなのかと思ってね」
「辛いから言いたくない」と言ったら、困った顔をしていた。
「理由はどうあれ、あの時は辛くてさすがに思い出したくないの」
「そうか」と考え込んでいた。
「あの人はどうして、ああ考えるんだろうね? 昨日聞いていて驚いたことばかりだった。こっちが思ってもみないことを言われて、さすがに唖然としたの」
「確かに僕も半信半疑だった。けれど、その通りなのかもしれないと感じ始めているよ。人のせいにする傾向が強いように感じる」
「人のせいにして楽しいのかなあ?」
「いや、そう考えてしまう傾向があるのは、理由は別にあるんだろうとは思う。でも、違和感を覚えているのはほとんどの人がそのようだから、僕としても、彼女の言葉を鵜呑みにできないよ。もし、彼女が間違っているなら、何とか理解してもらいたいと思う」
「理解か。あの人は認めてもらえれば、それでいいのかも知れない」
「え?」
「頭がよくて顔もよくて、周りも自分も認められるような男子に認めてほしいのかも。小学校の時に、先生の褒められていたから、その気分が忘れられないと聞いた。認めてほしい気持ちが強すぎて、自分より弱い者が認められると面白くない。だから弱い物を攻撃するって、いじめっこの典型的なタイプだと聞いたけれど、私には理解できない。そうやって晴らしても何一つ解決しないと山崎君から教えてもらったけれど、確かにその通りだもの。あの人の望んでいることは誰かに認めてもらい、『すごいね』と言ってもらい、素敵な彼氏ができる事、テニスで勝ってテニス部で『一番すごいね』と言ってもらうこと。でも、今のままでは反対方向に向かっているとしか思えない。自分で自分を見失っているだけ。なんだか、そういうのはちょっとね」
「そう、考えるんだね」と永峯君が考え込んでいた。
「永峯君の意見は?」
「え。いや、ぼくは」
「意見を持っているんじゃないの?」
「いや、まだ、判断するには早いからね」と頭を下げて行ってしまった。納得するまで口に出さないのかも……と後姿を見ていた。
「あいつも苦労するな」と拓海君が心配して寄って来た。
「どうして、人のせいにするんだろうね? 昨日、千沙ちゃんと驚いていたの。ああやって考えるのがどうしても理解できない」
「ああいうタイプの女はそこらじゅうにいるぞ。お前に嫌がらせするタイプ、嫌味を言ったり、変な噂流したのは全部そうだ。責任転嫁するほうが楽だからな。加賀沼に宮内、加茂、あの時、お前に石を投げたのはそういう捻じ曲がった考え方するぞ。ひねくれてるよな」と嫌そうに言った。
「そう言えば、結城君が言いたいことを言っていて、木下君が落ち込んでいて」
「当然だ。木下は知らなかったんだからね」
「なにを?」
「テニス部の不満だよ。女子だけの話だと思っていたら、男子もあるらしいな。俺はもっと前から気づいていたが、誰も口に出していなかったからな。男子はそういうのは空気を読んで言わないんだよ。誰もね。社会性があるからかもね。女子と違って、その辺は気を使う。だから、気づかなかったんだろうな。でも、結城が代表して言っただけだよ。後輩の意見だと聞かない。理由はお前も関係あるぞ」
「どうして?」
「自分で考えようね、詩織ちゃん」と言われて、私となんの関係があるのかなあと考えていた。

「あのさ」と千沙ちゃんに思わず聞いた。みんなが校庭の2箇所を注目して見ていて、着替えが終わってコートに来た人が遠巻きに眺めていた。
「聞かないで、私もわからない」と言ったため、みんながうなずいていた。
「ロザリーってすごいね」と言った。風邪で休んでいたらしく、今までの騒動を聞いたのか、一之瀬さんにすごい剣幕で迫っていて、あの一之瀬さんがたじたじになっていた。そして、もう一箇所、
「木下君があれだけ落ち込んでいるのに、男子の一年生ってすごいかも」と緑ちゃんが笑っていた。笑い事じゃないぞ。木下君が男子に囲まれ、主に発言しているのは一年生で、
「それで、なんでああなってるのかな?」と聞いたら、湯島さんが、
「一年生も選手候補にしてくれって話らしいよ。当然だよね」と言ったので、みんなの顔を見たら、
「それは分かるよ。だって、結城君が」と言ったので、
「どうして?」と聞いたら、
「結城君と掛布君と大和田君、そう大差はないよ」と美鈴ちゃんが言ったので、
「へえ」と言ったら、
「先輩って見てるようで見てませんね」と言われてしまい、
「男子に興味がないからかも」とつい言ってしまったら、
「あの先輩はどうなるのよ?」と聞かれて、
「さあ、そういう興味じゃないし」と眺めながらなんの気なし言っていたら、
「何よ、それで、よく付き合って」となぜか後ろから前園さんに言われてしまい、
「こうこはあの先輩の事好きだったものね?」と緑ちゃんがからかっていて、
「え?」と思わず振り向いた。さすがの前園さんが困った顔をしてうつむいていた。
「ごめんなさい」と思わず言ってしまった。
「別に謝ってくれなくても」
「だったら、告白すれば良かったのに」と周りに言われていて、
「言いたいけれど、でも」とぼやいていた。
「あの先輩ね。多分、無理だと思うよ」と言ったら、周りが驚いていた。
「どうして?」
「好みが難しい」
「え、でも、碧子さんを断ったらしいね」とそばの子が言ったため、聞こえたらしく、そばにいた野球部も。「えー」とか「もったいない」とか言っていた。
「それで、先輩を選ぶんですか?」と後輩に言われて、
「別に選んでないよ。お互いに対象外だから」と言ってから、顔をロザリーや男子の方に向けたら、
「なんですか、それ?」と後ろがうるさかった。
「対象外って」と前園さんの声が聞こえたけれど、男子の方が気になって見ていたら、永峯君がロザリーのほうに近づいていき、何か話を聞いていた。
「かっこいいですよね」「素敵です」と後輩がうっとりしながら言っていて、やっぱり、こういうのってすぐ変わっていくなあと見ていた。

「この間まで、山崎君で、その前がバスケの堂島君でしょう? 葛城先輩もそうだったし」とそばでみんなが言い合っていて、
「それより、練習しようよ」と元川さんが不満そうだった。珍しいなと思ったら、
「あー、先輩も永峯先輩なんでしょう?」と後輩に言われていて、
「やだ」とうつむいていた。なるほど、みんな気が多いなあと聞いていた。
「なんだか、そういう話題ってみんな好きだよね」と緑ちゃんが言ったため、
「掛布くーん」と千沙ちゃんがからかっていて、
「えー!」と後輩が驚いていた。あちこちあるなあ。
「でも、なかなかねえ」
「そうそう、詩織ちゃんみたいには上手くいかないって」と言われてしまい、うな垂れた。上手くいってるんだろうか? 
「どこでデートするんですか?」と聞かれて、
「したことないよ」と言ったら、
「あの先輩は?」と聞かれて、
「だから、してません」とうつむいた。
「そう言えば、対象外って?」と緑ちゃんに聞かれて、
「掛布くーん」と呼んだら、聞こえたらしくて掛布君が寄って来てしまった。
「ちょっとー」と慌てて緑ちゃんが逃げていて、
「ボールがそこに」と掛布君に言って指差したら、みんなが笑っていた。掛布君は不思議そうな顔をして見ていた。

 帰る時に、なぜかロザリーと一之瀬さんが話をしていて、やっぱり喧嘩していた。
「何で、もめてるの?」と緑ちゃんが聞いていて、男子が、
「ちゃんと謝るべきだ。その後、どうしたいのか主張すべきだって、言われているらしい」
「ロザリーにあれを言われたら、大概負けるぞ」と男子が言いだして、それはそうだろうなと見ていた。
「男子はどうなった?」と千沙ちゃんが聞いていて、
「無理だよ。今更、一年生と組むなんて」と嫌そうに言っている男子もいた。
「あれ? 組んでいなかったの?」と聞いたら、
「お前は疎いよな。男子はそうだよ。木下の代からそういうのは無しになった。もめるからって理由。もっとも、結城に出られたら俺はどうしたらいいんだ」とその男子がぼやきながら部室に入って行った。
「金久君は後衛だもの」と千沙ちゃんが言って、
「木下君と大和田君、掛布君と坂迫君、金久君と泊君がペア、稲津君と福尾君が補欠、もう一つ、結城君と十和田君のペアのほうが本当は」と言ったため、驚いた。よく知っているなあ。
「あちこちいますよ。佐藤兄弟がいますから」と言ったので、
「兄弟って?」と聞いたら、
「双子の兄弟ですよ」ああ、そう言えば、ちょっとかっこよさげな双子がいたなと思い出した。
「あの兄弟、この一年で背が伸びたそうですから、前衛に転向したらって話ですよ。そうなったら、今の2年生よりは有望かも」と言われていて、みんなよく見てるなあと聞いていた。
「でもさあ、所詮実力のほうが」
「女子だって、でも2年生ばかりだよ」
「一年生は矢上さんだけだよね」と言ったので、
「え、だって、杉浦さんとか、色々」と言ったら、みんなが困った顔をしていた。
「差が激しいんですよ」と後輩が言いだして、
「どうして?」と聞いたら、どうも矢上さん杉浦さんとあと2人以外はかなり下手らしい。
「うちらよりひどいらしいよ」と緑ちゃんが小声で笑って、
「あなたに言われたくないって」と前園さんとやりあっていて、
「とにかく、問題は山積みですよ。何とかしてくださいよ」と矢上さんが聞いていて、千沙ちゃんを見ていた。
「でも」と困っていて、
「一年生で提案があるなら、意見まとめてきたら」と言ってみたら驚いていた。
「最近、話し合っていないし、でも、練習時間は貴重だから、その辺は下校時間を利用して話し合ってみて、それからでも遅くないよ。意見もまとまっていないのにやりあったら男子みたいになるよ。お互いの言い分はあるだろうけれど、その段階じゃない気がするな」と言ったら、
「佐倉、お前、言っていいことと悪い事があるぞ」と木下君がぼやいていた。すっかり元気がなくなっている。
「だって、そんなに不満があるのにほっといたほうがいけなかったんじゃないの?」と美鈴ちゃんが呆れていた。
「先輩が引退直後から話し合ってきた女子と違って、男子ってあまり言っていなかったし」
「ペアだって、変更無しでそのままだったね」
「そう言えば練習の仕方もこっちはふがいないとか言ってたのに」と女子にいっぱい言われだして、逃げ出していた。
「やっぱり、隣の芝生はなんとやらだね」と言われて、微妙に違うと思うなあと聞いていた。

「その時期なのかもな?」と拓海君に言われて、
「なにが?」と聞いてみた。
「最終学年になって、試合があるからね。その時期だってことだよ。もめたってしょうがないさ。どこでもやってるぞ。むしろテニス部男子はその部分をないがしろにしていた。下の学年の意見を聞かなくても強ければ納得するさ。でもな」
「そういうものなの?」
「勝てば官軍だよ」意味が分からないぞ。
「最終目的が女子より男子は負けず嫌いが多いってことだ。勝てば文句を言うヤツはいない。負けたら、責任を擦り付け合ったりする。よく試合の後に見かける光景だ」
「へえ、すごいね」
「喧嘩も目撃した事あるぞ。もちろん、その場じゃなくて裏でね」
「そういうものなんだね?」
「負けて機嫌が悪い時に文句言われてみろよ。部外者だったらなおさらだし、年下だったら、生意気だろうってことになるしね」
「なんだか、怖いのだけれど」
「そういうのは男子ならある。女の子はその点、裏でネチネチと」
「怖いなあ」
「不満はあるさ。どんな場所でもね。クラスだろうと部活だろうとね。理解できないなら攻撃するヤツがいるんだよ。納得するまで話し合いできる冷静なヤツばかりじゃないんだって」
「そういうものなんだね?」
「理解できなくて排除しようとしたんだよ。一之瀬はね。加茂は気に入らなかったから、加賀沼は面白くなくて、宮内はどこかで下に見ていて、そういうことだ。でも、実際はそんなものに優劣なんかないさ」
「そうかなあ?」
「テストの点数が良かろうが、部活で活躍しようが、自分が納得できるかどうかが全て、納得できないから他で当たっただけ、八つ当たりだよ。逆恨みなんだ」
「恐ろしいなあ」
「妬み、嫉妬、そういうのは俺は嫌いだ。人が持ってるなら自分も努力して掴みたいからね。人を陥れる卑怯者は駄目だ」
「それは分かるけれど、中々はっきりは言いづらいよ」
「それはそうだよ。中途半端なヤツには言われたくないだろう」
「じゃあ、どうしてそう言うの?」
「決めたんだよ。昔ね」
「なにを?」
「すっかり忘れているようだから、思い出すのを待ってるよ」
「なにを?」と慌てて聞いたけれど笑っているだけだった。

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