卒業式

 卒業式の間、泣いている人もいて、私は来年確実に泣いちゃいそうだなと思った。誰もいないところへ行くってやっぱり心細いかもと考えていた。先生があちこちで歩き回っていたけれど、先輩達の途中ですすり泣く声が聞こえて、中学ってどこか中途半端だなあと思いながら、聞いていた。
「警察が来る学校もあるんだってよ」と後ろから小声で聞こえて、
「うちもあるんじゃないのか? あの先輩はバイクでさあ」と言ったので、そう言えば、あれから、見かけなくなったなと思っていた。
 式が終わり、あちこちで固まって泣いている人がいた。私もがんばらないといけないなと思いながら見ていて、そのうち、あちこちで、女の子が頼んでいる姿が見えた。当然先輩も、
「全部受け付け終了」と言っているのが聞こえて、
「本宮兄と弟どっちもモテるよな」と言っていたので、そっちを見たら、本宮先輩が囲まれていて、なんだかさわやかに応対しているけれど、明らかに、
「かっこつけてるよな」とそばの男子がぼやいていて、確かに女の子の目線を意識しながら話しているなあと思いながら見ていた。

 式が終わって、教室に一度戻ってから解散になり、碧子さんに言われて、一緒に先輩の教室に向かった。
「連れてきました」と楢節先輩に声をかけていて、
「ああ、こっちこっち。誰か撮ってくれ」と先輩が私たちを脇にはべらせて写真を撮ってもらっていた。
「先輩、変わらずにがんばってくださいね」
「俺はいつでもマイペースだな」
「恋愛の達人になってるんでしょうねえ」
「それより、お前も少しは成長しろよ」
「無理ですって」
「向こうの女を見習え」
「がんばります」と言ったら笑っていて、帰ろうとしたら、
「待て、来てもらった用事が済んでいないぞ」と言ったので、なんだったっけ? と首を傾げたら、
「誰かハサミ」と聞いていて、こともあろうに、
「あれ、まだ残ってたんだ」と第二ボタンに手をかけていた。
「だから、予約って言っただろう?」と言われて、呆気に取られた。そして、切り取ってから、私に渡してきて、
「あれ? 碧子さんじゃないの?」と聞いたら、
「俺の中学最後の恋人はお前だろう」と言われて、
「誰が恋人なんですか?」と聞いたら、そばにいた男子が一斉に崩れていた。
「お前は呆れるぞ。世間が認めているのはお前だと言っていると言うのに」と先輩が小声で言ってきて、
「だったら、本命に渡せば」と小声で返したら、
「いくらでもいるが、あえてお前にやろう」と言ったので、呆れてしまったら、
「と言うのは冗談だよ。俺は誰とも本気じゃなかったからな。お前ぐらいなもんだよ。長く続いたのは」
「へえ、付き合っていなかったけれど、いいんですか?」と言ったら、
「さっさと受け取れ、元恋人。今の恋人に言っておけよ。全教科100点取ったら、俺のところに来いってね。そのときは認めてやるからなって」
「ハードルが高いなあ」
「それぐらい努力しろってことだ」と笑って戻って行った。
「いいのかなあ?」と言いながら、ボタンを眺めていて、
「でも、ご利益ありそうだから、もらっておこう」と言ったら、そばの先輩達がずっこけていた。

「お前は何で、ああいう子がいいんだ?」と先輩は囲まれていて、
「なかなかいいだろう? あいつもあと5年もすれば一皮向けていい女になるかもな」
「お前って趣味が分からない」
「いや、後7年だったな」と先輩が言っているのを周りの人が不思議そうに見ていた。
 碧子さんと一緒に戻りながら、ボタンをポケットにしまって、
「でも、良かったです」
「お守りでくれるって。多分、お礼だと思う」
「お礼って?」
「隠れ蓑のお礼」
「隠れ蓑ってなんですの?」
「碧子さんのようなお嬢様は知っちゃ駄目だって」
「私、来年から冒険しようと思いますの」
「え?」
「そう、姉から言われました。結婚前に色々な殿方とお付き合いするようにって」
「殿方ってすごいね」
「でも、詩織さんを見ていて思いました。大切にしてくださる方は大事です。山崎さんもあの先輩も」
「えー、拓海君は分かるけれど、あの先輩は」
「でも、そうでなければボタンはわざわざくれませんわ。私はそう思いますの」そうかなあ? …と考えていた。

メモワール2に続く

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