6

欠点

「お前はつくづく駄目だな」と拓海君に声をかけられて、
「言われたとおり、話し合ったし、言われたとおり様子は見てるわよ。よく分からないわよ。小平さんも湯島さんもはっきりしないし、相良さんもよくわからないわよ。百井さんははっきりしていていいけれどね」と一之瀬さんが睨んでいた。
「ふーん、少しは見てるじゃないか。続けろよ」
「こんな事をして意味があるの?」
「お前、試合結果どうだ?」と聞かれて、
「勝ってるわよ」
「違う、結城とか、他のヤツとの対戦結果」
「そんなもの、勝ってるからいいでしょう」
「何勝何敗だ?」
「え?」
「サーブの入っている率は? レシーブ、その他問題点を言えよ」と言われて黙った。
「お前、つくづく記憶力が悪そうだな。欠点、更に追加。記憶力が悪い。そこは直せそうもないから、こまめにノートでもつけるなり、人に聞くなりしろよ」
「そんなこと、面倒だし」
「お前はテニスが上手になりたいのか、結城に負け続けたいのかどっちか選べ」と言われて、
「もちろん、勝つわ」
「だったら、やれよ。詩織なら、他のヤツの分までスラスラ言うぞ。お前と違って記憶力はいいからな」
「そんなこと、彼女だって同じなんじゃ」
「お前って、つくづく自分本位だな。自分がそうだから相手もそうに違いないと思い込む、短絡思考だ。呆れる」と言いながら、拓海君が離れて行って、一之瀬さんは納得していなかった。

 結城君に勝ていないため、一之瀬さんと結城君はにらみ合っていた。
「意外とお似合いだって」と緑ちゃんが無責任に言っていて、それぐらいなら却って良さそうだなあと思った。超越するぐらい好きになれる相手っているのかなあと見ていたら、
「詩織ちゃんって意外だね」と後ろから言われた。
「なんで?」とみんなが聞いていて、
「だってさ。結局言わなかっただけで実はちゃんと色々考えてたんだなと思った」と言われてしまい、
「みんなだって同じじゃない。意見を言いづらかっただけだよね。こういう雰囲気ってどこの部活もそうなのかなあ」と何の気無しに言ったら、男子が聞いていたらしくて、
「え、俺の小学校の部活は風通し良かったぞ」
「うちもだな」
「えー、弱かったんじゃないの?」と女の子が茶化していて、
「僕の所は違いましたよ。全国区に出るようなところでした」と結城君が加わってきた。
「へえ、どこだっけ?」
「鴫の原です」と言ったため、みんながそんな学校あったっけ?……と言う顔でみんなが見ていた。
「ああ、サッカーで有名なんです。隣の県ですよ」と言ったため、
「それじゃあ、分からないって」とみんなが笑っていて、
「へえ、転校生なんだね?」と聞いていた。
「そう言えば、南平林に転校生として来たんだっけ?」
「違いますよ。僕は中学からですよ。でも、ここまでひどい環境じゃありませんよ。確かに負けず嫌いが揃っていましたが、終わったら、みんなでアイスを食べたり、仲良かったですよ。だから、ここは見ていられなくて」と言ったため、そうだろうなと思った。一之瀬さんがいなければここまでひどくなかったのかもしれないなと思った。

 新学期が始まるころになると、男子の目的意識もはっきりしてきて、やる気にもつながっていた。何しろ、試合の目標まで決めてしまったらしくて、「トーナメント方式で選手を決めてはどうだろう」とまで言いだしていて、負けられない意識がバチバチとしていた。
「男子ってうらやましいぐらい単純だ」と緑ちゃんが笑っていたけれど、むしろ、あのほうが分かりやすくていいなと思った。男子は足を引っ張ったり、気に入らないと仲間はずれにしたりする陰険な部員はいないらしく、その辺もさっぱりしていて、まとまりがなかっただけのようだった。それが、目的が出来て、あちこち冗談で言い合っていて、
「あれぐらいのほうが楽しそうですよね」と後輩に言われてしまい、困ったなあと考えていた。

「一之瀬って、昔、お前と同じ部活だったらしいな?」と拓海君に聞かれて、
「彼女は転校生だけれど、私よりあとだったような気がする。でも、あの性格だからね」
「ああ、分かるよ。急に変わったんだろう? 雰囲気が。それは聞いたよ。その頃はどうだった?」
「だって、グループがはっきり分かれているし、人数も多いし、あそこまで露骨じゃないよ。先生が何かと目をかけていて、彼女は率先して先生に話しかけていて」
「ああ、それも聞いたよ。『かわいがってもらってる』と自慢げに言ってたけれど、あまり周りは快く思っていないヤツもいて複雑だったという話だ。早い話が顧問が女だったからと言う意見があってね。『柳沢は取り入っても、無理だったんじゃないの?』と女子に言われていたぞ。担任だって同じように取り入ってと聞いたよ。『そのせいで雰囲気が良くなかった』と別の子も言いだしてね」
「どうしてそうなるんだろうね?」
「ああ、それね。どこでもあるぞ。取り入る子がいるのはどこでもあるけれど、いじめっ子タイプが混じると雰囲気が悪くなるらしい。気に入らないと仲間はずれにして喜んでいる」
「喜べる、その神経がつくづく分からない」
「ああいうタイプはね。自分と仲間以外の人間に対しての思いやりはないんだよ」
「どうして?」
「さあね。それはそうとしか言いようがないさ」
「意味が分からないよ。なんだかそういうのって、つくづく分からない」
「でも、あいつ自身も分からないんだよ。自分が楽しいから相手もそうだと思いこんでいたり、自分が辛いから誰に当たっても許されると思い込んでいたり、自分が好きになれば相手も好きになってくれるのが当然と思いこんでいたり」
「えー!」とびっくりした。
「俺もあそこまで自分本位だと思わなかったが、でも、ああいう考え方するヤツはたまにいるよな。でも、それで通用するのは狭い範囲だけかもね」
「え?」
「グループでも例えば大きくなれば、ミコのように実力も性格の強さも持ち合わせた、真のリーダー格がいるからね。そういうのにはみんなが集まるから、一之瀬は表立って出てこないよ。今のように、みんなから外れてお弁当を食べていたりする」
「そう言われるとそうだった。前まではロザリーと男子と食べててにぎやかだったよ」
「出る杭は打たれるのはああいうタイプが多いけれど」
「出る杭?」
「ああ、でしゃばりだったり、内容がともなわないのに自信満々にしていて、周りを馬鹿にしたりすると反感を買う。ある程度強い性格なら、最初ぐらいは従っているが、みんなの我慢が限界に達したりする事が起こると締め出される場合があるね。前の団地でそうだったよ。ある日を境に女の子達が一人の女の子と口を聞かなくなった」
「ちょっとひどいね」
「逆だ。自分が気に入らない子をいじめて追い出すことが続いたんだよ。でも、やりすぎて、いつか自分がやられる事が怖くなり、全員逃げた」
「なるほどね」
「それで、その子のそばには誰もいなくなり、仕方なく別のグループに行ったけれど、そこでも駄目で、また戻ってきたらしいが、もう、前のようには仕切れなくなってたって話だ。別のリーダーができて、その子の居場所はなくなっていたんだよ」
「そんなことも起こるんだね」
「今のテニス部がそれだろう?」
「え?」
「言ったろ。ロザリーがどうなるかで決まるって。最近、あまり出ていないようだけれど、あいつと離れたら後は、それほど強い子はいないから、一之瀬の勢いは弱まる。結城まで敵に回したから、掛布たちが言いだして、あいつは居場所がなくなってきているのにもかかわらず、強気の発言をしたために、総すかんを食らった。さすがに言いすぎて、あいつは裏で泣いていたらしいけれど」
「え?」
「バスケ部の子が見かけたらしくて教えてくれて、戸狩と2人で様子を見に行ったら、永峯が説教していた。あいつももっと優しく、話を聞いてやり、肩とか叩いて、諭してやれば少しはあの性格も丸くなるかもしれないというのに、説教だけしていて、反発されていたけれどな。最後は渋々納得していた」
「優しく諭すといいの?」
「説教されるよりは女の子の場合は効目があるぞ……と戸狩と桃の意見」
「あの2人は呆れるなあ」
「それはあるさ。寂しい子は多いからね。『自分の気持ちを分かってくれないと思ってるから、八つ当たりしているのかもな』と戸狩に言われて、俺は半信半疑だけれど、どうもよくわからないよ」
「じゃあ、弘通君に頼むとかは悪いよね。勉強しないといけないし」
「本宮でさえそばに寄らないって話だぞ。無理だよ」
「本宮君なら確かにいけそうだね」
「もっと、インテリタイプの優しいタイプの方がいいのかもな。もしくはスポーツど根性タイプとか」
「永峯君ならぴったりじゃない」
「いや、あいつはその辺がどうもね。女心は心得ていないぞ。あいつは、学級委員をして、人の話を一人一人聞いて、対処してきたんだ。納得しないと前に進めないようだしね。だから、その辺にスマートさが足りなさそうだな」
「拓海君がやるとか?」
「俺は基本的に関わりたくないんだよ」
「じゃあ。どうして教えてあげてるの?」
「お前のためだ」と言われて唖然とした。
「言ったろ。あの手のタイプは木に登るのは早いが、その気になられてこっちに来られると困るぞ。でも、テニスである程度納得できたら、お前に八つ当たりしなくなるだろうことは簡単に予想できる」
「どうして?」
「一番の原因はそれだから。それ以外にもあるのかもしれないが、そこまで関わりたくない。だから、お前に危害が及ばないようになればそれでいいんだよ」
「ごめんなさい」
「お前が謝る必要はないさ。俺は決めてるからね」
「なにを?」
「お前の事を守ろうと思ってるから」
「え?」とびっくりしてしまった。
「あの時から決めてたんだよ。だから、お前は気にするな」
「あの時って?」
「思い出したら教えてやるよ」
「えー、思い出せるかなあ」
「待ってるよ」とうれしそうに笑っていた。

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