体育大会

 体育大会の日は晴れる。というのがうちの学校の定番らしい。しかし、ミコちゃんは忙しそうに動いていて、クラスではもめたりしていた。なにしろ、
「女子、足を引っ張るなよ」と男子の一部が言い出したからだ。私達と弘通君達はそばにいて、色々話をしていた。
「苦手」「私も」「俺もだよ」と私と碧子さんと弘通君が続けて言ったため、
「少しは前向きなことを言ってくれ、緊張するだろう?」と光本君に怒られて、みんなで笑っていた。
「しかしさあ、こういうときは運動部はいいよな。陸上部以外のほうが強そうではある」とそばにいた別のグループの男子が笑っていて、
「山ちゃんと松平でいけそうだぞ」
「あの2人は赤丸急上昇になりそうだから、足でも引っ張るか?」とよからぬ相談をしていて、
「そういうせこいことを言うと、女子にすぐばらされるよ」と夕実ちゃんにつっこまれていた。
「田戸、頼む。橋渡ししてくれ」
「だめだよ。彼女は他に好きな人がいると聞いちゃったの」とやりあっていた。夕実ちゃんは演劇部で上手だと評判だった。今年入った一年生がかわいくて評判らしい。
「ああいうかわいい子と付き合ったら、俺もがんばれる」とまだ言っていた。
「お前もがんばれよ」と弘通君が言われていて、私は欠伸をしていた。
「駄目だよ。こういうときに欠伸をしているぞ」と言われてしまい、みんなを見たら笑っていて、なんだろうな?……と思った。席に座る事になり、移動した。
「やっぱり、弘通君ってそうなんじゃないの?」と聞かれて、困ると思った。
「しょうがないよ。詩織ちゃんは」と朋美ちゃんが言ってくれて、
「もったいないなあ。競争率高いんだよ。あっちは難しそうだね。桃ちゃんと仲良さそうだし」それはあるなあ。あれぐらい積極的だったら、私も言えるだろうな。今の引っ込み思案の私では絶対につりあわないなと思っていた。

 種目別に、どんどん進んでいった。私はいつも真ん中で3位か、4位ばかりだった。それに比べて、
「山ちゃんと松平でいけそうだよな」と戸狩君が順位を紙に書いていた。うーん、彼は全部一位だ。うらやましい。引っ越す前はそれなりにやっていたため、それでもまだ良かった方だけれど、最近はめっきり運動神経が落ちてきた。山と川に囲まれた学校だったから、かなりの割合で運動神経がいい子が多くて、私はできない方だった。前の学校だったら、今頃最下位争いかも。太郎に怒られそうだ。
「弘通、二人三脚の練習しようぜ」と後ろの方でやりだして、そばで見ていた。桃子ちゃんも練習をしていたからだ。
「がんばってるよね。ここまでやったら本望でしょう」とあかりちゃんがすごいことを言っていて、
「がんばって」と声をかけていた。

「あいつも気楽だなあ」と楢節さんが言ったため、山崎君が振り向いた。
「お前も気をつけろよ。あっちもどうせそうだろうから」と言ったため苦笑していた。
「やだね、その余裕。完全にお前が勝ったわけじゃないぞ。まだまだだよな」と言って手帳を見せていた。
「なんですか、それ?」
「タイムだ。100メートルのね。リレーも強いみたいだが、うちも負けないからな」
「学年別でしょう」
「陸上部に頼んでタイムを計ってもらってるんだよ。あちこちつてはある。負けるわけに行かないからな」
「負けず嫌いなんですね、意外と」
「当たり前だ。俺はマルチな人間なんだ。お前ごときに負けるわけにはいかない」
「変な人という噂は本当のようですね」
「お前も俺の事を尊敬していない言い方するなあ。生意気《なまいき》。まあいいや。俺の大事なペットを預けるかどうかは、今後、じっくり判断させてもらうさ」
「先輩って、かなり勉強ができるそうですね」
「『全教科100点男』と呼ばれている。悔しかったら真似してみろ」
「この頃はそれほどでもないと聞いていますよ」
「しっかり、リサーチしているよな。俺も知ってるぞ。お前の大体の成績ならね。とにかく、俺はまだまだ認めていないからな」
「あいつが認めてくれればそれでいいですよ」と山崎君が私の方を見ながら言った。
「俺は二の次かよ」と先輩がぼやいていた。

 二人三脚走になったため、前の方で応援していた。男女別でやっていて、でも、弘通君はブービー、桃子ちゃんは派手に転んでしまって、どべだった。残念だなあ。
「がんばったよ」とみんなに声を掛けられて、
「ムカデ競争勝てよ」
「それより、佐倉。お前足引っ張るな」と蔵前《くらまえ》君に言われてしまった。
「引っ張っていないよ」と須貝君が代わりに言ってくれて、
「ありがとう」とお礼を言った。
「蔵前さあ。碧子さんにいいところを見せようとしていないか」とそばにいた戸狩君に指摘されて、
「そんなことないぞ」とそっぽを向いた顔が「はい、そうです」という顔で、みんなに笑われていた。
「蔵前まで碧子さんか。モテるよなあ」と言われていて、碧子さんが頬を赤く染めていて、
「綺麗だなあ」と後ろでしみじみ言っていた。ここまで綺麗で上品だといいなあ。勉強ができなくても運動ができなくてもいいかも。いいなあ……と見てしまった。
「詩織ちゃんのところも試合なんでしょう?」と聞かれて、そばにいたバスケ部の子が話かけてきた。
「守屋がうるさいの。テニス部にだけは負けるな。テストも負けるなって」呆れる先生たちだなあ。
「困っちゃうね。テストも試合もねえ」
「勉強しないとうるさくなってきたよ」とそばの女の子が言い出した。
「来年、受験だからこのままだと部活やめないといけないかも」
「それより、誰か男子演劇部に助っ人に来て」とあかりちゃんが頼んでいた。
「夕実ちゃんがやるという手も」
「上手なんでしょう?」と聞いたら、
「背が足りないもの。詩織ちゃんやってよ」
「私に人前で台詞が言えると思う」
「その前に覚えられないだろう」とバカにするように的内君が言って、さっさとどこかに行ってしまった。
「的内って、なんで、佐倉を眼の敵にするんだ?」と光本君が驚いていた。
「そう言えば、そうだよね。碧子さんのことは諦めたみたいなのに」
「知らないのか?」とそばにいた戸狩君が言ったため、全員がそっちを見た。
「太刀脇がお前の話ばかりするから拗ねていたらしいぞ」意味分からない……。
「なるほど、彼の不幸な女好きから来るものだね」とあかりちゃんがもっともらしく言ったため、みんながいっせいに睨んで、彼女が逃げていた。
「友達取られたようで寂しかったんじゃないの」と桃子ちゃんに言われて、そう言われても困ると思った。
「そう言えば、太刀脇君も的内君もいないね。教室に寄り付きもしない」
「女王もね」と誰かが小声で言った。別のクラスにでも行っているのか、そういううるさい人たちが誰もいなかった。宮内さんはもう一人の先輩のほうへ入り浸ってるらしい。

 お弁当を食べる時間になったため、みんなで座って食べる事にした。
「碧子さんのお弁当って綺麗」とみんなが言ってて、
「佐倉のお弁当、おいしそうだな」と光本君に言われてしまった。
「お前、ほしいんだろう? いつもうらやましいと言っていてね」と弘通君が言われていて、そうだったのか。
「交換しようか?」と聞いたら、
「え、でも悪いし」と弘通君が困った顔をしていて、
「勉強をいつも教えてもらってるからお互い様だよ。みんなも交換しようね」と夕実ちゃんが言い出して、適当に分け合っていた。そばにいた男子が、
「そこは仲が良くなってるよな」と言ったため、
「そうかも。このグループってのんびりしていてテンポが似てるしねえ」と夕実ちゃんが言い出して、みんなが笑っていた。

「仲が良さげになってきたなあ。完全に弘通ってそうだろうな」と蔵前君が碧子さんのおかずを光本君が食べているのを、
「あー、口に入れた」と言いながらぼやいていた。
「すごいかも、こっちもやろうよ」とあかりちゃんが言い出して、でも誰も聞いてなくて、
「桃、それくれ?」と戸狩君が桃子ちゃんに言った。
「いいよ、交換。山ちゃんのも」と言ったら、
「好きなの持ってけよ」と山崎君が言ったら、
「それ」「こっち」「俺はこっちだ」とあちこちから手が出ていた。
「お前ら勝手に持っていって、少しは返せよ」と怒っていた。
「しかし、ここも色気ないよな。仙道、もっと何かないか? こう、色っぽい話は」と戸狩君が言い出して、
「えー、そういう話って何? 恋愛話。そう言えば戸狩君はどうなったの?」
「振られた。あの先輩以外は考えられないそうだ。ありえない」とぼやいて、
「そう言えば、山ちゃんは?」と聞かれていた。
「昔の女より、今の女って言ったロザリーは?」と聞かれて、仏頂面になっていた。
「ありえないよな。今のところ、別の女しか目に入っていないように見える」と戸狩君が笑っていて、
「そうなの? 誰?」と聞かれて、
「その前にやらないとな。勉強ができるようになりたいよ」と山崎君が答えたため、
「お、どうしたんだ?」とみんなに聞かれていた。
「認めてもらわないといけなくなってね」
「認める?」「誰に?」
「そういう相手って誰にでもいるよな。親もそうだし、片思いの相手にも」
「前の中学校の昔の彼女に他の彼氏ができて振られて、自分の良さを思い出してもらいたいって話は本当だったんだ」とミコちゃんが言ったため、
「なんだよ、その出鱈目《でたらめ》な話は」と山崎君が驚いていた。
「あれ、私もそう聞いたよ」と仙道さんまで言い出して、
「振られていないよ。別にね。そういう感じじゃなかったらしいから、一安心だったけれど。今度は相手から挑戦状叩きつけられたんだよ」
「挑戦状?」
「ま、そう簡単に勝ていないと分かっていてもやらないとな」
「え、山ちゃんでも勝ていない相手なの?」とみんなが聞いていて、
「その前に思い出してくれるといいけれどな」と言ったため、
「なにを?」「そうだよ、そう言えば、何を思い出すの?」
「色々ね。あったんだよ。約束したというのにすっかり忘れてやがる」と山崎君は遠くにいるわたしたちのほうを見つめていて、みんなは不思議そうに彼を見ていた。

 その後の種目でみんなががんばったけれど、私達のクラスは学年別で2位だった。
「女子のせいだぞ」と蔵前君に言われて、あかりちゃんとやりあっていた。うーん機嫌が悪そうだ。
「なんで、あんなに言い合ってるんだ?」と光本君が言ったら、桃子ちゃんがそばにいて、
「碧子さんのおかずを光本君が食べてから機嫌が悪いんだよ、蔵前君はね。あかりちゃんは、山崎君の話を聞いたから」
「話?」とみんなが気になったため、桃子ちゃんの説明を聞いて、
「えー、本当なの? 振られていないんだ」「挑戦状ってなんだろう?」「それより、そう簡単に勝ていない相手って強敵じゃない」とみんなが口々に言っていて、私は頭を抱えた。裏で何を言ったんだ……あの先輩は。
「その彼女って、どういう子なのかなあ?」
「聞いてくる」と言って、誰かが聞きに行っていた。それより、いったい何を言ったんだと気になってしまって、
「教えてくれない」と遠くにいた山崎君のそばで手でバツ印を作っていて、
「あいつに聞いても教えてくれないよな。引っ越してもう一年だろう? 普通諦めないか。ここの学校の女にしておけばよりどりみどり」そうだよね。
「前の学校のヤツに聞けば分かるじゃん。誰か今川中学知らないか?」と言っていて、そこだったんだと思った。
「俺、いとこがいるぞ」と言い出したため、
「聞いておいて」とみんなが笑っていた。
「今川対海星中学だな」と言っていて、違うと思うと思った。

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