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 DVDを見ながら、とても恥ずかしかった。母も見たいと言うので、仕方なく二人で見たけれど、
「なんだか、うれしいやら、恥ずかしいやら、心配やらで、落ち着かないわ」見終わった後に、そう言った。途中でセリフが字幕のように下に出ていた。表情だけだと分かりづらいから、そうしてあるようだった。音楽が流れ、独特の間があって、セリフが下に流れていた。演技は大したことはないし、引きで撮っているために、顔がはっきりわからない場面も多かったけれど、意外と見やすかった。
「良かったわ、いいわね。すごいわね。今はここまで作れるのねえ。学生さんなのにね、すごいわね」と母が言ったので、
「そうだね」としか言えなかった。撮ったときは大変だったけれど、映像としてはあっという間だった。使われていない部分もいくつかある。でも、編集は大変だったんだろうなと思った。シオンさんの脚本を見せてもらってないから、だいたいの流れしか分かってなかったけれど、エミリのやった役の昔の彼女のことがちょっと忘れられない男、という設定になっていた。風景も多くて、シーンの切り替えも割と多めで、もめていたようだけれど、私はうまくまとまっていたんじゃないかなと思えた。
「お父さんにも見せないとね」
「え、いや」
「絢香も見たいと言っていたわよ」
「恥ずかしいからいいよ」
「あら、せっかくだから見てもらわないとね」と母はうれしそうだった。

 ノックがあって、
「寝てたの?」と姉が入ってきた。
「寝てない。考え事」
「ねえ、あれが彼氏とか言わないわよね」といきなり言われて、
「あれって?」ベットに横になりながら聞いた。
「一緒に映っていた男よ」するどいなあ。
「彼氏じゃないよ」
「そう? ま、いいけどね。あの男はつめたそうだ。由香に合わないよ」
「言いきらないでよ」訂正したらわかったらしく、
「当たりだ」
「かまを掛けたの?」
「やめておきなさいよ。いくら、顔は良くても、人として未熟なんでしょ。愛想がなさそうだしね、由香に冷たい態度を取るような男なんて、絶対に私は反対よ」
「お姉ちゃんが反対しなくても」
「私の妹に手を出す奴は許さん」うーん、意外な反応。
「いいじゃない。あの人、私のことなんて眼中になかったみたい。どうでもいいのかもしれないね。面倒なことを嫌うの。だから、同級生にも内緒にしてるから」
「ああ、それは仕方ないわよ」
「え、どうして?」
「だって、別れたら、気を使うでしょ。お互いに、それから、周りも。だから、最初からおおっぴらには付き合わないんじゃないの。男は特に」
「どうして?」
「人目を気にするタイプなんじゃないの。そこはいいとして、あの男は反対よ。絶対にね」
「お姉ちゃんが反対しなくても、あの人は私なんて相手にもしてないと思うから」
「ふーん、ま、そういう男なら、これ以上は近づかないでよ。彼氏が欲しいなら、私が紹介してあげるから」
「え、なんで?」
「その方が安心でしょ。穂壁の男だと理屈っぽいのが多いけど、そこは大目に見なさいよ」
「理屈っぽいの?」
「頭で考えてから行動するタイプが多いのよ。分析好きもいるし、勝手に想像して机上の空論を組み立てるのが好きなのよ。議論好きもいるしね」
「あのー、それだと私と会話が合わないよ」
「でも、頭はいいのが多いから、由香にお勧めよ。インテリの方がいいわよ。絶対に。顔がいい男より、そっちがお勧め。だから、あの男はやめておきなさいね、絶対に」と言われてしまい、あぜんとした。姉が部屋を出て行ってから、日ごろ、説教をしている割には私のことを心配はしてくれていたらしい。でも、私に男性を紹介する前に、姉の恋人を紹介してほしいと思った。

 エミリに姉に言われたことを添えてDVDを渡した。
「同感。穂壁の男の方がいいよ。それはいいチャンスじゃない。綸同君がだめでも穂壁なら、あの先輩を見返せるよ」
「どうして、そこにあの先輩を見返すという部分を入れないといけないのよ。そこはいいよ。かかわりたくもない」
「見返してやりたいじゃない。どうしても。その男より学歴が上の男を狙って、見せつけてやったら、勝てる」
「無理。その先輩、今度は学歴以外の部分で何かと文句を言ってくると思う。そういう人なんだよね。認めない人は何があっても認めない」
「器が小さい」
「そうかもしれない。だから、ほっとこう」
「久我山に出向いて言ってやろうよ」
「いや、恒栄だったかもしれない」
「どっちでもいいじゃない。恩湯がだめなら穂壁の男を連れて行き、相手に嫌味を言ってやる。『先輩は彼女はできないんですか?』なんて、言ってやればいいの」
「そんな恥ずかしいことを、彼氏になる人に頼めないよ」
「お兄ちゃんでよければ頼んであげるよ」うーん、確かにあの人なら勝てるだろうな。顔も何もかも。
「そんな下世話な行動をアリエルさんにしてほしくない」
「あれま」
「そういうことはいいよ。アリエルさんは勉強が忙しいでしょ」
「由香、いっそのこと、お兄ちゃんと付き合ったらいいよ」
「だから、いいよ、それは」と言ってDVDを見た。
「あいつはやめておいた方がいい。絶対にね。私、かわいく映ってるかな?」と聞かれて、
「確認したら分かるよ。大丈夫、エミリはかわいく映っていたと思うから」
「そう? よし、家族と見るぞ」と張り切っていた。

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