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 鹿飲キャンパス。あちこちに、「ディアドリンク」と書いてあって、
「あれなに?」とエミリに聞いた。
「鹿飲の直訳」と言われて、
「なるほど」としか言えなかった。鹿飲キャンパス。『みゅいん祭』と書いてあるところもあった。
「あの『みゅいん』って何?」と聞いたら、
「知らない、なんだろ」とエミリが不思議がったら、
「ああ、鹿の鳴き声から取ったんだよ」とそばにいた男子学生の人に教えてもらって頭を下げた。
「鹿って、ミュイーンって鳴くのかな?」
「知らないよ」としか言えなくて、正式名称は、安修大学鹿飲キャンパス、鹿飲祭と書いてあって、
「そのままだから面白くないからかもね」とエミリが言った。
「恩湯は『ホットスプリング祭り』って書いてあったよ」
「秋なのに?」とエミリに聞かれて、
「そういえばそうだね」と言い合っていたら、
「ホットスプリングは温泉だよ」とさっきの人にまた教えてもらった。
「恩湯だから、温泉」うーん、そうなのか、よく分からない。
「沢登は?」と聞いたら、
「あそこは『高命水祭り』だったはず」と言われて、
「なんですか、それ?」と驚いた。
「あそこのそばにある神社の霊験あらたかな水を使って、コーヒーを飲ませているかららしいよ。先着20名様までだったかな」
「なるほど」
「何に効くんですか?」とエミリが興味があったのか聞いていて、
「恋愛運が良くなるって」
「行く」とエミリがすかさず言ったために、教えてくれた人に笑われてしまった。

 エミリと一通り見た後、沢登に移動した。今日はスクールバスの本数が多くなっている。移動する人もいるからだ。沢登と恩湯と両方行こうとエミリに言われていたけれど、ちょっと心配だった。
「沢登って、いい男いる?」と聞かれて、
「スタッフさんが何人かいたでしょ」
「うーん、そう言われても、好みの男は少なかった」
「エミリ。まだ、探してるの?」
「当たり前でしょ。由香だって、まだまだ危ないよ。あいつが相手だと、喧嘩をし続けそうだからね。破局しないでよ」
「縁起でもないことを言わないでよ」
「でも、うれしいなあ。家族も高校の友達にもバンバン宣伝してあるんだ」
「沢登の方に来るの?」
「だって、恩湯はいつ流すか分からないんでしょ?」と聞かれてうなずいた。鹿飲のイベント会場にもモニターは置いてあって、流してくれるとは聞いているけれど、そこはまだバタバタしていて、映像すら流れていなかった。
「ほめられちゃって、スカウトされたらどうしようね」
「エミリは元気だな。うらやましい」
「主演は由香なのに」
「でも、意外と小さくしか映ってなかったね」
「あれぐらいじゃないと無理じゃないの。私たちはしょせん素人なんだから。演技がぎくしゃくするだろうから、音楽と字幕でごまかすしか」
「ごまかすって、失礼だよ」
「え、でもさ。親と一緒に見たけれど、やはり学生のものだから、見づらいって言われちゃったよ。質から言ったら、まだまだ素人レベルだと思うけどな」
「頼むから、スタッフさんの前では言わないでね。みんなでがんばって」
「分かってるって。でも、ああやって見ると、九条と由香って、カップルに見えるものだね」
「そう?」
「親がそう言ってた」
「そうかな」
「最後のシーンなんて、良かったって。実際にしているように見えるって」と言われて恥ずかしかった。
「でも、いいなあ。ああやって映像に残るのはうれしい。よし、今度は主演女優として希望を出そう」
「あのね」
「今から頼んでおかないとね」と張り切っていた。
「お客さん、来るかな?」
「ああ、宣伝はしてあるから来ると思う。たださあ、反応は期待しないほうがいいかもよ」
「え、どうして?」
「あ、だってね。見たけれど、ラブストーリーとしては、もっと、ほら、楽しめないと」
「楽しむ?」
「ひっぱたいたり、追いかけられたり、いきなりキスして」
「ちょっと、やめてよ」と慌てて止めた。
「そういう盛り上がる部分がいっぱいないと、難しいよ。特に女はうるさいかもね」確かに、そう言われると盛り上がる部分は少なかったかもしれない。
「え、じゃあ」
「シオンさんの好みなのかもしれないけれどさあ、男を取られそうになって、女同士が取り合いになって、けんかして、ひっぱたいて、男を取り返してハッピーエンドよ。勝たないと、やっぱり」
「勝ち負けじゃないと思うけれど」
「恋愛に勝ち負けはつきものだって」そうかな?……と首をかしげていたら、
「絶対にそう。モテる男を独り占めして、恋愛の勝者になるって、楽しいじゃない」うーん、シオンさんのコンセプトとは違っていた。
「恋愛の勝者か」
「そういうのがいいな。今度は」
「じゃあ、今から働きかけておかないとね」
「わかってるって。絶対に主演女優を勝ち取るぞ。そうして、数々の男たちを見返してやる」
「エミリは強いなあ」と言ったら、うれしそうに笑っていた。

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