Top Page About My Shop Catalog Buy Now Contact Us

Catalog
リストマーク  前へ 次へ

「君は本当に、ま、そういう部分があるから、そのまま来たんだね」
「もう、分かりにくいわね。回りくどいわ。友達だと言うのに」最後はにんまり笑っていて、
「言っておくけれど、さっき言ってきたこと、もしも、守れないようなら、いつでも友達をやめるつもりだから、そのつもりでね」
「え?」千花ちゃんが悲しそうな顔になった。
「そんな顔をしてもダメだ。ごまかされないよ。僕が言ってきたこと、覚えているだろう?」
「お、覚えているわよ」
「じゃあ、並べてみて」
「並べてって、えっとね、確か、そう九条君のことは言わないってことでしょ」花咲君がうなずいた。
「それから、グループ内のことで個人的な範囲を言わない、だったっけ?」と聞かれて花咲君がうなずいて、
「えっと、あとはねえ」と考えていて、
「そうだ、牛美の話もあったわね、確か」
「牛美と二度と呼ばない」
「え、だって、あの子と話すとつい出るの」
「愚痴を話したい時に、牛木さんとは言い合わないように。付け足しておくよ」
「え、どういうこと?」
「その子とその類の話をしても、気分は良くはならない。悪口だったりすると回りまわって、言われた本人の耳に届く恐れもある」
「え、あ、でも」
「牛木さんのことは良く知らないが、君のことを快く思ってないために、君を悪くするために、わざと誰かに教えてしまうかもしれないので気を付けて」
「え、あ」思い当たったのか、千花ちゃんが顔に手を当てていて、
「そういうこと」
「あの子ったら、もう、そんなことも気づかないくらい、ダメな子だと」と言いかけて、
「ああ、言ったらいけないんだったわね。でも、難しいわよ」
「そのうち、慣れるよ」
「でもねえ」
「まだ残っているだろう?」
「あったっけ? ああ」と気づいてから不満そうな顔になり、
「大橋さんのことでしょう」
「露骨な態度は出さない。そういう態度のことを言う」と注意されて、
「分かっているわよ」と言い返したけれど、
「分かってます」と言いなおした。
「あとは?」
「あら、あとはないわよ」
「学祭のときに、教えた話」
「なんだったけ?」
「わがままの限度」
「限度って?」
「僕をいきなり呼び出して愚痴を言い続けた。愚痴を言いたいだけなら、別の人とどうぞ」
「もう、冷たいなあ。それは今ならわかっているわよ」
「本当に?」
「あの時は悪かったわ。大橋さんにも謝っておいて」
「直接言わないと」
「言いにくいのよ、彼女にだけは」
「それは彼女とは関係ない問題だ。君が面白くない相手と思っているだけで、彼女にはまったくもって罪はないよ」
「それも分かっているけれど、彼女に謝るのは気が引けるのよ」
「違うだろう? 謝ることによって、自分が下になってしまう気がするだけだ」はっきり言われて戸惑っていた。
「いきなり呼び出したら、友達だとしても嫌がるのは当然だ。ましてや、あの段階で君は友達ではなかったと思う」
「もう、それはわかっているわよ。冷たいんだから」
「君なら、どう? 牛木さんにいきなり呼び出されたら、行くの?」と聞かれ、
「行かないわよ。面倒だから」
「それでも、何度も頼まれて、泣きわめいていたら、さすがに心配にならないの?」
「それはなるけれど……」と声が小さかった。
「君は結局、行く方を選ぶだろう。あの時、僕がそうしたように」
「あなたと牛美とは違うわ」
「その呼び方はしない」
「ああ、直すわ。敦美とは違うじゃない。あの子はしぶしぶ付き合って」
「あの時の僕と君との関係も、そこまで深くないよ。下手をしたら、君と牛木さんよりつながりが弱かった」
「え?」かなり悲しそうな顔をしたあと、
「今は友達だから、違うでしょう?」とすがるように聞いた。花咲君が笑った。
「それは君の反省の度合いによって、違ってくるかもね」
「もう、つくづく冷たいわ。もう、そんなことは言わないで。友達よね?」確認するように聞いたけれど、それには答えなくて、
「大橋に謝ってくれたら、考えてみるよ。そのあとの君の態度も重要だからね」念を押すように言われて、
「くどいわ。わかっているわよ」
「違う。君はここまで強くしつこく言わないと聞いてくれないし、直そうともしないからね。そのために言い聞かせている」
「やだ。子供みたいじゃない」花咲君が黙ってしまい、
「否定してよ」
「それも、これからの君の態度による」
「もう」とすねていたけれど、
「他は、思い出せた?」
「直せばいいんでしょ。八つ当たりしないってこと」
「違う。考え方のくせ。自分の間違いを正当化しない。注意してくれたことを受け入れる気持ちを持たないと、いつまでたっても反省しないし、前に進まない。ま、それならそれで、君に合わせていくだけだから、僕は困らない。困るのは君だ」
「分かってるわよ」
「プライドを少しだけ低くしていくんだね。徐々にね」
「そんなことできないわよ」
「やる前から文句を言われても困るけれどね」
「分かっているわよ」
「この間、注意したことは?」
「ああ、あれね。言い合いになった時のことでしょう。映画のことであれこれ言うなと」
「違う。人が一生懸命したこと、作ったもの、やっていることを、馬鹿にしてはいけない。そうしたら、相川と同じ扱いになるって」
「分かってるわよ。今の私には彼らの映画のことをとやかくは言えないことはね。ただ、大橋さんの演技は大したことはなかったと思うけれど」
「人格否定を批評には加えない。けなすことはしない。と、教えておいたはずだけれど」
「してないわ。ただ、面白くないのよ。どうしても、彼女は気になるわ。あなたと仲良くしておいて、九条君ともなんてね」
「僕とは友達だ。それを面白くないのは君個人の感情で、君が僕に曲りなりも好意を持っているために、そういう表情になるだけで、彼女に罪はないよ」
「曲がってないわ。本心よ」
「それは今の時点だと怪しいね。注意してもらいたい相手と恋愛相手は別。彼女に八つ当たりしないでほしい」
「分かっているわよ。八つ当たりしているのかもしれないってこと」
「かもじゃなくて、そうなんだ。いい加減、その『かもしれない』という言葉でごまかすのはやめたほうがいいね」
「分かっているけれど、納得できないのよね」花咲君が笑っていた。
「彼女は苦手だわ」
「他の人は君にそう思っているよ」
「もう、冷たいんだから」と千花ちゃんが拗ねていて、花咲君はそれを見て笑っていた。

 前へ 次へ

ライン

inserted by FC2 system