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そのうち、九条君が戻ってきて、じっと見ていたら、
「何を吹き込まれた」と言いながら隣に座っていて、食べ始めて、
「お前も食べるか?」と聞いてきた。こういうところが駄目なんだろうな。
「一緒のお皿じゃないほうがいいんじゃないの? 女性とは別のほうが」
「知らない」とそっけなかった。
「好きな女性に対しての態度じゃないね。そういう時は、まず、女性にお皿を渡して、自分の分は後から持ってくるものじゃないの?」
「一緒に食べたらいいだろ、そのほうが手っ取り早い」
「あのー、宴会なら、それでもいいけれど。こういう気取ったパーティーなんだから、そこは別々でもいいんじゃないの」
「うるさい」
「美弥さんに怒られるわけだ」
「うるさいなあ」
「つくづく素直じゃないんだね。『ごめん、次からそうするよ』と、どうして言えないの?」と聞いたら黙ってしまった。
「ごめん」かなり経ってからそう言ってきた。
「お母さんに怒られても、同じような反応だったんだね?」
「あの母親がそこまで気づくと思うか? 怒るのは兄だけだ。父親は俺には何も言わない」
「え?」
「期待されてないからだろ。声を掛けられるのは、兄か弟ばかりだったからな」と言った顔をじっと見てしまった。

 演奏会が始まって、婚約の挨拶をしていた。美弥さんのお父さんが親族に挨拶をし、そのあと、美弥さんの婚約者を紹介していたけれど、緊張からか汗を拭き拭きしていて、見ていて、
「あれで大丈夫か」一番後ろの方にいたために、九条君が小声でかろうじて私だけが聞き取れる程度の声で言った。
「もう」こっちも小声で返事をした。でも、美弥さんの婚約者、菅原さんは、美弥さんと違って、落ち着かない様子で、汗を何度も拭いていて、美弥さんが気づいて、優しく声をかけていた。身長はそれほど高くない。背が低い美弥さんと並んでも、それほど差がなかった。体形もちょっとふくよかで、顔だちも人のよさそうな人懐っこそうな感じではあったけれど、かわいらしくて誰もが振り返るぐらいの美弥さんとつり合いは取れていなかった。うーん。
「ほらな」九条君が私を見て、そう言った。

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