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 九条君が飲み終えたジュースを戻しに行き、なぜかお兄さんの恋人が行ってしまい、
「苦労するだろう?」と話しかけられて、
「はは」と笑うしかできなかった。
「あいつね、素直じゃないんだ、昔から。俺から言うと反発するからさ。注意しづらくて。親父は『自由にさせてやれ』って言ってたから、それで、注意する回数を減らした。本当は母親が注意してきたら、少しは違ったんだろうけれど。母親はそこまで気づかない人だったからね。男兄弟ばかりで育ったから、分からないんだよ」と教えてくれて、
「そうですか」
「下の弟はその辺が柔軟性があるけれど、あいつは駄目でね。不器用だし、感情に出さないようにしてるし、成長してない部分があるからね。だから、『あいつのペースでやらせろ』って、父親が言い出して」
「え?」
「年が4つも下だから、見ていられなくて、つい注意してしまう。でも、あいつは俺から注意すると反発するだろうからって、父親が言ってたんだよ。どうも、俺にライバル心があるようで」
「え、知っていたんですか?」お兄さんが笑った。
「そうか、君は知ってるんだね?」と聞かれて、どう答えようか迷った。
「そういうのは、俺は良く分からないからさ。あいつは無愛想で何を考えているのか、聞いても口に出さないやつで」
「そうですね」
「君には話すみたいだね。素直にね」
「どこが?」思わず言ってしまってから、
「すみません」と謝った。
「君のほうがあいつに合わせてやってくれ。あれだと難しいからね。女の方からリードしないと、ケンカが増えるよ」そうだろうな。
「じゃあ、よろしく」とそつなく笑って行ってしまった。女性が戻ってきて、何かを言っていて、相手の女性がちょっと不機嫌だった。入れ替わるように九条君が戻ってきて、
「何か食べたかったら言えよ」と言ってくれて、
「あのね」
「なんだよ?」
「あなたのこと、家族は見てるものだね」
「そうか?」
「お兄さんとお父さん、あなたに合わせて話しかけなかったのかもしれないね」
「え?」
「お兄さんがそう言っていたから。あれこれ口に出したら嫌がられるから。注意すると反発するから様子を見てただけなんじゃないかって思った。お父さんに話しかけられないことを拗ねてたじゃない」
「拗ねてない」
「自分から話しかけたらいいじゃない。お父さんに」
「え?」と言ってから黙ってしまった。
「家族って、言わなくても分かってくれている部分もあるし、言わないと気づいてくれない部分がある気がした。あとね、その人から直接聞くより、違う人から教えてもらったほうが素直に聞けるものだね」
「そういうのもあるかもな」
「お父さんに自分から話しかけたら? なんでもいいから」
「そう言われても。何を話すんだ?」
「別に普通のことを。日常の話。ニュースとか天気とか」
「話さなくてもいいだろ」
「違う。そんな何気ないことを話すだけで違ってくる気がしただけ」
「ふーん」かなり黙ってしまったけれど、
「あなたと知り合えて、私、変われた気がする」
「そうか?」
「映画を一緒にやっている時は、必死だったし、あなたと無理してでも話さないといけなくて、無愛想なのについて行けなくて戸惑うことも多かったけれど、言わないだけで、気づいてくれている部分も多いのかもしれないね」
「そうか?」
「花咲君は素直に聞いてくれる。あなたはそれを表に出せないだけ。だから、誤解されやすい。言い方に気を付けて言ってくれたら、うれしいな」
「ふーん」
「そう思ったの。さっき、お兄さんと弟さんと話して」
「何を聞いたんだよ?」と気に入らなさそうだった。

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