17

お似合いな2人

 芥川さんに呼び止められて、紙袋を渡された。
「貸してあげるよ」と言われて、中身を見たら本だった。
「そっちも読み終わったのがあったら貸して」と言われてうなずいた。
「あなたも外国行くんでしょう?」といきなり聞かれて、慌てて手を引っ張って人がいないところまで移動してから、
「ごめん、その話は人前では困る」と言った。
「どうして?」
「内緒にしておきたいの」
「どうしてよ?」と聞かれて、考えていた。
「別にいいんじゃないの? いつか行くんでしょう?」と言われて、
「そのつもりだけれど、現在、色々あってね。また、やっかまれそうで怖いし」
「色々ねえ。あれを気にしていたら向こうじゃ生きてけないよ。私ね。親を探しに行くからね」と言われて、
「親?」とびっくりした。
「フランス人とのハーフなの。でも、両親は日本人」と訳の分からない事を言って、
「まあ、そういう理由。そっちは?」と聞かれて、
「性格を直したいから」と言ったら、
「そんなのこっちでもできるでしょう?」
「それもあるし、色々ね。片親だから将来苦労するだろうから、英語を身につけたほうがいいと言われて」
「へえ、それはあるかもねえ。私も絶対言われるだろうから」
「どうして?」
「お母さんが本当の母親じゃないからね」とあっけらかんと言われて、すごいなあと見てしまった。
「いいよ。内緒の方がいいなら、それでいいさ。でも、情報交換はしよう。その方が楽だしね」
「情報なら、帰国子女の人の方が詳しいと思うけれど」
「帰国子女?」
「半井君」
「ああ、あの顔良し君ね。なんだ、あいつ、帰国子女か。なるほどね、あいつにも聞いてみよう」と軽く言って、すごい人だなあと思って見てしまった。

 芥川さんに連れられて音楽室に行かされてしまった。
「あのね。部活があって」と言っても、
「ちょっとぐらい、いいよ」と言われてしまい、渋々中に入った。彼はいたけれど本を読んでいて、
「なんだ、貴公子。いるじゃない」と芥川さんがあっけらかんと言ったので、相手がこっちを見て、
「ふーん、珍しい取り合わせだな。何か用?」と聞かれた。
「帰国子女だって聞いたから、情報交換。私、夏休みに向こうに行くからさ」
「ふーん。受験は大丈夫なのか?」と半井君が聞いた。
「受験? 私受けないよ」と軽く言っていて、
「親が困るんじゃないの?」と半井君が笑っていた。
「アメリカに住むから意味ないね。サックス吹きながら、向こうで芽が出るまでやるしかないさ」
「サックス?」と聞いたら笑っていた。
「ジャズが好きだからね。向こうでやるつもり。高校なんか行ったって、つまんないしね。意味ないから」と言いきったため、すごいなあと思った。半井君が笑っていて、
「君はいいね」と言ったため、
「でしょー」と笑い合っていて、すごいなあと見てしまった。
「でも、俺も教えてやれることなんてないよ。俺、普通に学校に通ってただけだ。勉強もほどほど、スポーツもほどほど、音楽は環境のせいでやらされていただけ」
「環境?」と聞き返したら、
「親父が音楽関係だからね。君は疎いみたいだな」
「へえ、私も知らない」と芥川さんが笑っていて、
「何か弾いてよ。そうだな、ジャズのスタンダードでいいよ」
「俺、ジャズ苦手だぞ」
「いいじゃん、即興で」と言いあっていて、すっかり仲が良さそうだなと見ていた。

 テニス部では明るくなっていて、男子が相談しあっていた。あちこちで言い合いをしていたあと、すぐに練習をしていて、
「あっちは活気があっていいね。こっちは課題が山積みだよね」と美鈴ちゃんが考えていた。
「美鈴ちゃんと千沙ちゃんは息は合いそう?」と湯島さんが聞いていて、お互いに顔を見合わせていた。まだ、それほどでもなさそうだな
「先生も忙しくなってくるしね。美鈴ちゃんと一度組んでやってみてほしいと言われているの。それから、後は変更はしないそうよ。もう、そこまで悠長にやっている時間もないしね」と言われて、それもその通りだなと思った。最後の試合までそれほど時間はなかった。
「グループは分ける事になったから。二年生も私たちに混ざるからね。前と同じように一人に一人がつく形は一緒。ただし、ちゃんと指導するように言われているから」と小平さんに言われてみんながうなずいた。私についた女の子はちょっと控えめな子だったけれど、とりあえず性格を把握したいなと思い、話を聞いていた。
「なんだか、困るよね。自分達も不安だけれど向こうも不安じゃないかな」と隣にいた湯島さんに言われて、そうだよねと考えていた。

 終わったあとに、
「一年生の指導はどうするの?」と小平さんが聞かれていた。
「指導と言ってもさあ。素振りだけじゃなかった? 後は見よう見まねだったはず」と千沙ちゃんが言いだして、
「そうだよね」と考えていた。先生は指導はしてくれるけれど、指導方針ははっきり決まっていないところがある。毎年、素振りだけは指導してくれるけれど、後は玉拾いだけだった。そこの部分でかなりの子がやめるのが普通だけれど、それをしたら、
「多分、確実に新入部員がいなくなるよ」とみんながため息をついていた。二桁いないのだ。全部で7人。一人が既に来なくなっていて、残り6人。これじゃあ、玉拾いをさせていたら確実にいなくなるだろうなと思った。
「早めにボールに触らせましょう。もう、それしかないよ」と湯島さんが言ったけれど、
「上の学年が納得しないかもしれないわ」と小平さんが困っていた。それはあるなあ。人数が少ないから特別扱いもさすがに面白くないかもねえと考えていた。

 帰る時に拓海君に相談したら、
「そういうのは事情は変わってくるさ。バレー部の女子がバラバラになった理由知ってるか?」と言われてしまった。
「バラバラ?」
「ミコが入る前、というか俺たちが一年の時もバラバラだった。先生が変わったからだ」
「ふーん」
「そういう事情は仕方ないよな。ただ、先生が熱心だった人でも指導はしてくれるが方針が定まらない人だとついてこなくなる。男子と女子を両方指導していた先生は男子に専念したため、男子の方が強いままだった。女子の先生は熱心だったが、指導に慣れていないため、勝てなくなってしまったため、空気が変わってね。ミコは建て直しをやっていたよ」
「ミコちゃんが良く話しかけているあの先生、男子の顧問だったんだね?」
「お前はあいかわらず疎いな」
「他の部の事情なんて知らないし」
「他のクラスの事情も疎かったな。ああ、そう言えば、例の件。今日、先生が呼び出して話していたから、多分、処分が下されるよ。でも、後の人たちは事情は変わっても、処分はそのままだろうと戸狩が言ってたぞ」
「そうなの?」
「途中で逃げようがなんだろうが、最初に加わっていたら同罪だからね」そう言われたらそうだな。最後までいたのは少なかったらしい。一之瀬さんは逃げて、あの2人も逃げて、大串さんと内藤さんは最後までいたらしい。どちらにしても怪我までさせてしまった訳だから、困ったなと思っていた。

 次の日にはもう、噂は流れていた。朝、ミコちゃんからは教えてもらっていたけれど、やはり、2人とも同罪と言う事で出校停止処分する事になったようだ。
「加賀沼と瀬川も呆れるよな。最後まで黙っているなんてね」とみんながひそひそ言いあっていた。
「渡辺さんが気に食わないと言っていたのを聞いたことがあるから、加わったんじゃないの」と三井さんがこれ見よがしに言いだして、
「黙っていろ」と本郷君が怒鳴った。
「まったく、恥さらしもいいところだ。このクラスから処分者が出るなんて」と言ったため、
「昔の事だろう?」
「だとしても恥かしいよ」と本郷君が嫌な顔をしていた。
「あいつって、小さい」とそばの女の子が言っているのが聞こえた。

 昼休みまでに、噂が流れていた。内藤さんと佐分利君の噂が多かった。佐分利君は他校の女の子にちょっかいを出すことが多くて、下の学年の女の子にもちょっかいを出していた。その中でも特にかわいかった渡辺さんが狙われたのは、彼女がちょっと勝気なタイプだったかららしい。脅して逃げ出さず言い返したため、そういうことが起きたんじゃないかともっともらしく言っている子がいて、
「でもさあ、修学旅行の前に片付いてよかったよね」と言いあっていて、そちらの話題の方が多くなっていった。
「碧子さん、旅行はしたことはあるの?」と聞いたら、優雅に微笑んで、
「いえ、そういうことはあまり」と言ったので、同じなんだなと思った。私も旅行なんて行ったことがなかった。休みと言えば部活があったし、太郎達と遊んでいたしね。
「今度のテストでいい点数取らないとさ」と隣の男子が言い合っていた。
「俺、光鈴館≪こうりんかん≫」
「光鈴館の次が嵯峨宮≪さがみや≫、梅山≪うめやま≫、堀北≪ほりきた≫だよな」
「そこまで無理だよ」
「せいぜい海星だ」
「海星の下ってどこだよ?」
「笹賀≪ささが≫に峰明≪ほうめい≫、その次は?」と言い合っていた。
「私立だと限がないよ。工業高校もいっぱいあるよね」と言い合っていて、
「商業だと西川商業が一番だって」良く分からない。
「桃ちゃん、どこ?」と聞かれていて、
「言わなーい」と笑っていた。そのほうが良さそう。
「希望は出しただろう?」と言われて、困ったなと思った。さすがにあの模試は外国には対応してなくて、
「どこぐらいなんだろうな?」と先生と相談して、公立の高校を書いておいた。
「どこ書いた?」と私に聞かれて、あいまいに笑った。
「碧子さんも海星でしょう? みんな、海星なの?」と聞いていた。

「お前はどこを書いたんだ?」と拓海君に休み時間に聞かれた。廊下に出ていたけれど周りに聞かれると嫌だなと思い、
「無難なところ」と答えておいた。
「後で教えろよ。どうせ、一緒に勉強する仲だし」と言われて、
「いいよ、一人でやるから」と言ったら、
「なんだよ。最近、一人で行動することが多いよな」とぼやいていた。
「え、だって、拓海君どうせ、堀北か梅山でしょう?」と小声で聞いたら、
「まったく……」とため息をついていた。当たりらしい。
「だから、迷惑を掛けたくないし」と言ったら、頭を小突かれた。
「そういう心配はしなくていいよ。俺はどこでもできる」確かにそうだった。彼はお爺さんの所でも次々問題をこなしていた。私のほうが集中できなかった。なんだか違いすぎるなあ。
「それより、芥川霧子と知り合いなのか? 良く話しているみたいだな」
「あの人、変わってるね」
「ああ、美人だけど気さくで話しやすいから男がほっとかないらしいぞ。上から下までどれだけラブレターもらったかわからないらしいな。今日は貴公子と仲良く話していたと噂になっていた」
「お似合いかもね」
「お前、何か知ってるな?」
「貴公子ってどういう人なんだろうね? 芥川さんもね」
「確かに似合っているが、くっついたら男も女もやっかみがすごいぞ。多分、噂はそっちに変わるね。いつまでも、出校停止処分の話はしないだろうな。そのほうがいいけれど」あの2人ね。気は合ってたよねと思い出していた。

「ねえ、何か知らない?」と一之瀬さんが周りに半井君の話を聞いていた。
「霧子さん、綺麗だけれど、あの2人がくっついてもいいと思うなあ」と室根さんがのんびり言っていて、
「ねえ、知らない?」と焦って聞いていたため、周りの人がどうしたんだろう? と言う顔をしていた。うーん、やっぱりそうなのかなと見てしまった。
 練習中は後輩に指導している人や普通に話している人、私たちのところは自分の事を優先していた。何も言わなかったけれど、
「何か気づいたところはある?」と後輩に途中で聞いたら、
「え?」と困った顔をしていた。
「黙って見ているだけでも練習だからね。あなたの指導と言っても私は教えられるだけの力量はないから、あなたが自分で考えて自分が出来る事をしていくしかないと思うよ。手取り足取り教えたところでやり方が合わなければ意味がないから、あなたはどういう選手になりたいのかで変えなければいけないしね」と言ったら驚いていた。
「ちゃんと考えておいてね。どういう選手になりたいのか」
「え、そう言われても」
「男子でも女子でもいい。自分が真似してみたい選手を見つけてみて」と言ったら、戸惑いながらもうなずいていた。

 練習中はさすがに一之瀬さんは百井さんと張り合っていて、集中していた。サーブの強さやストロークはさすがに器用にやっていた。もともとの運動神経はいいから、そういう部分ではいいのかも知れないなと見ていた。
 帰る前に拓海君に呼び止められて、一之瀬さんが渋々寄って行っていた。
「なによ」
「お前は、俺の言った事をすぐ忘れるタイプみたいだな。方針変えよう」と言ったため、
「もう、いいわよ。どうせ興味が無いようだから、一人でやってくわよ」
「勝てるのか?」と聞かれて、
「勝てるわよ。絶対にね。あいつも見返してやるんだから」と言ったため、
「あいつ?」と拓海君が聞き返した。
「絶対に見返して振り向かせてやる」といきまいて行ってしまったため、拓海君がそれを見て、
「あれじゃあ、無理だな」とつぶやいたのを一之瀬さんは気づかなかった。

「あいつが誰を見返したいのか、お前、知っているだろう?」と拓海君に聞かれて、笑ってごまかした。
「貴公子だな」と言われてうなずいた。仕方なくやり取りを教えたら、
「なるほどそれでね。いい手かもな。俺はあの手のタイプはどうも苦手で駄目だな。あいつか弘通に頼んだほうが早いな。もう、そうするしかないか。俺が言っても右から左なんだよ」
「なにが?」
「記憶力。一つ教えたら前の事を忘れる。10個を一度に教えたら、最初の9個は忘れてしまう」と言ったため、唖然とした。
「さすがに最初は気づかずに一度に多くを注意しすぎた。でも、あいつに多くを教えても駄目なようだな。困ったもんだ」
「何を言ったの?」
「冷静な判断力を持ってほしかったが、無理だな。方針を変えよう。運動神経がいいなら、そこを伸ばして後は勢いでいった方が却って勝てるかも」
「そういうものなの?」
「おだてたほうが木に上るんだろう」すごい事を言うなあ。
「貴公子も侮れないな。そこまで計算したのか?」
「さあねえ。ただ、嫌そうな顔をするんだよね。だから」
「前途多難だな。あいつの気持ちは通じる事はないな。あの美人で決まり」
「あの2人お似合いだよね。見とれちゃった」
「やっぱり、お前は何か知ってるじゃないか」
「ははは」と笑ってごまかした。
「あちこち侮れないよな。せっかく、弘通が離れたと思ったら、意外なダークホースが現れ、でも、すんなり別の女の子に鞍替えしてね、密会していたと思ったら、別の美人とくっつきそうだし」
「何の話?」
「こっちの事。お前はつくづく鈍そうだ」
「拓海君は鈍くないの?」
「バスケをしていて鈍かったら置いていかれるぞ」そう言われたらそうだった。
「のんびりさんでもできるテニスをしていけよ」
「無理だよ。なんだかもめてるよ。男子は掛布君と結城君がやりあってるし、結城君は一之瀬さんと張り合ってるし、でも、問題はそれぞれのペアに課題が山ほど残っている段階で新たに後輩まで指導しないといけなくて」
「後輩の指導は選手はやらないからな。そっちは先生がやればいい」
「え?」
「当たり前だ。あの先生は熱意はあるんだから、本来なら一から教えたいんじゃないのか? まだ、染まっていないのなら、ちょうどいい、一年生の指導を頼め。今までのように玉拾いさせていたら逃げるだろうな。つまらないと言う理由でやめるヤツはいくらでもいるからね」
「バスケもそうなの?」
「バレーとバスケは顧問による。男子は途中から一緒に練習する。女子は別メニュー。バレーも同じだ。テニスは生徒だけが一年生を教えてると聞いたぞ。それだと、多分、つまらなくなるだろう。熱心に教えてもらったか?」と聞かれて首を振った。付いてくれていたのは最初だけ。しかも素振りの時ぐらいで、そう言われたら、途中からは最初にこれをやれと指導されて、後はほったらかしで一年生だけでやっていたような気がするなと思い出していた。
「先生にやらせろ。そうしたら、変わってくるかもしれないし」
「あの先生、やるかなあ?」
「やるさ。元々熱意はある。空回りするかもしれないが、それでも先生がまったく来なくなるよりマシだ。今はもう、例の事件のせいですっかり意気消沈して、あまり顔を出してないようだな。守屋は反対に部活でチョコをもらったから張り切っているようだしね。柳沢は新人の先生が相談する時だけ張り切っていると言う噂」
「え?」
「新人の真面目な女の先生を守屋ととり合っていると言う噂だぞ」
「嘘ー!」
「バレンタインの時にチョコをもらったそうだ」
「ふーん、良く知っているんだね」
「お前が疎すぎるんだよ。勉強そっちのけで噂話ばかりしている女も多いぞ」
「なるほどね」
「三井も無責任だよな。本郷と本宮、俺。根元と仙道を競わせるような事を言ってくれてね。お陰で目の敵だぞ」
「本宮君って、頭いいんだ?」
「これだから疎いと言うんだよ」と拓海君が呆れていた。

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