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隠し紙

 面接練習の前は賑やかだった。
「えー、では面接練習の時間を分けて行うから」と、説明をしていた。
「あれ、詩織ちゃんも受けるの?」と聞かれて仕方なくうなずいた。
「へぇ、必要ないかと思った。受けない子もいるんだってさ」一部は受けないらしい。その後、私立受験校別にグループに分かれていた。
「蘭王≪らんおう≫こっち」と男子がふざけて言っていた。でも、蘭王はうちのクラスはいなかった。本宮君達が赤瀬川≪あかせがわ≫で集まっていた。
「いいなぁ」とぼやいている男子もいた。
「鳳≪おおとり≫の子はこちらへ移動して」と前末さんが仕切っていたけれど、人数が2人しかいなかった。桃子ちゃんがそうだった。ミゲールが仙道さんと根元さんだったようで、
「優創≪ゆうそう≫、こっちだよ」と手招きされてしまった。
「えっと」と周りを探していて、
「駒沢≪こまざわ≫」と女の子が聞いていた。碧子さんはそっちだった。かなりの人数がいて、一番多かったようだ。
「桜桃≪おうとう≫、誰かいないの?」と呼ばれて、ああ、そっちなんだと移動した。そばに加賀沼さんがいて、そこを通り過ぎようとしたら、
「あなたと同じなの?」と睨んでいた。
「えっと……」困っていたら、
「あ、いっしょだね」と小宮山さんがいて、
「桜桃はどっち?」ともう一人が聞いていた。
「こっちです」とさっきの子に言われて、そっちに移動したら、
「え?」とそばにいた手越さんが驚いていた。
「境界線が分からない。優創どこ?」とみんなが聞いていて、
「離れた方がいいね。一番多いのが駒沢だったから、優創はあっち。桜桃はそっち」と根元さんが仕切ってくれて移動していた。みんなが分かれたあと、
「よろしく」とそこにいた女の子と挨拶をした。二人ともそんなに目立つ子じゃないため、ほとんど話したことがなかった。
「あれ、そっちなの?」と遼子ちゃんに聞かれて、
「勝手に入ってるだけでしょ」と三井さんが笑っていて、
「分かれたか?」と先生が聞いていた。
「駒沢、一人足りません」と女の子が探していた。
「佐倉さんでしょう?」と聞かれて、
「え、違うけど」と答えたら、
「佐倉は桜桃に入れたはずだよな。成績順ならそうなるから、えっと、後は?」と先生が見回していて、
「あ、すみません」と布池さんが遅れて合流していた。
「なんで、お前と一緒なんだよ」と男子がぼやいていて、女の子も気に入らなさそうな子が多かった。
「でもさぁ、緊張するね」と言い合っていて、私も緊張していた。

「なんでお前が赤瀬川なんだ」と面接用の教室に向かう半井君に向かって、重枡≪しげます≫君が怒った。
「いいじゃない、そんなことは」と、そばにいた女の子が止めていた。
「でも、ちょっと意外」と一緒に行く男子が驚いていて、
「赤瀬川って、公立だとどれぐらいまでだよ?」
「嵯峨宮≪さがみや≫と聞いた」と答えていて、
「行こうぜ」と周りに言われて、半井君が行ってしまい、
「なんであいつが上なんだよ。贔屓≪ひいき≫しすぎだ」とぼやいていて、
「成績順になってるからいいじゃない」と女の子が止めていた。

 拓海君を待っていたら、半井君がやってきた。
「あいつら、まだ掛かるぞ」と言ったので、どういう意味だろうなと思った。
「先生に野暮用ができて待たされていた」と言われてうなずいた。帰る用意をしていたら、
「やっぱりすごいね。赤瀬川ってことは梅山ぐらいかな?」とそばの子が半井君が行ってから聞いていた。
「嵯峨宮も入るしね」
「王子ならコネだろう。どこでも国中フリーパス」
「それ言ったら、後で怖いよ。佐分利君が『あいつに手を出すな』と言ったらしいよ」
「どういう意味だよ?」と言い合っていて、ばれないといいけどなぁと思った。
「半井君と一度でいいから話してみたかったのに」
「せめて同じクラスなら」
「無理。一部、男子女子話してるけどさぁ。それ以外は話さないだろ」と男子が笑いながら、女の子をからからっていた。

 美術室に行ったら半井君が機嫌が悪かった。
「いったい、なんでしょう?」
「あいつら、うるさい。どこを受けようと俺の勝手だというのに、勝手に想像していた」
「言わないほうがいいよ。やっかまれると困る。また、あんなことが起こったら」
「ほっとけばいいさ。佐分利はやらない。そう聞いたからね。ほっとけ。そっちは何か言われたか?」
「桜桃に混ざったらうるさかった」
「ふーん、どれぐらいだ?」
「海星は含まれないみたい」
「なるほどな。曾田≪そた≫か市橋≪いちはし≫だな。いいんじゃないか、それぐらいでね。ほっとけよ。あとわずかだ。あいつらも余裕がないから言ってるだけだ。三井達だって舐めてると危ないぞ」
「どう言う意味よ?」
「☆お前が知る必要はない」
「そう言われても、知らない」
「お前の場合はそのほうが気楽でいいかもな。うっとうしいからな。俺がどこのグループで説明を受けようと勝手だろうに」
「でも、気になるんだろうね。みんなが噂していたの」
「何度聞かれても、答えたくないね」
「じゃあ、突拍子のないことでも言ってみたら。芸能人になるとでも、宇宙飛行士になるとでも」
「俺は変人じゃないぞ」
「楢節さんが言いそうだなと思っただけ」
「また、一緒にするなよ」
「似てるよ。『寄るな、触るな、近づくな』と受験前に言ってたから」
「言うだろうな。霧もそうだけど、なんで親切じゃなさそうな人でも聞こうとするんだろうな」
「え、どうして?」
「自力で調べたらいいじゃないか」
「さぁ、そう言われても。よく分からない」
「女の子で多いんだよ。本とかで調べもしないうちに俺に聞いてくる。調べて分からないところが出てきたなら俺も分かるけどね」
「そう言われても聞いたほうが早いとか思ってるのかも」
「ふーん、じゃあ、他の親切そうなやつに聞かずに俺に聞くのはどうしてだよ」と睨んでいた。
「それは分かりきってるじゃない。話すきっかけがほしいんだろうし」
「そういうのは嫌だね。俺は駄目だ」
「私には教えてくれるじゃない」
「相性の問題とギブアンドテイク。利害が一致している。向こうに行けば俺は園絵さんたちにお世話になるから、その前に返しておくだけ」
「そうかもしれないけれど、でも、結構突き放している割には面倒は見てくれるじゃない」
「☆当然だ。だって、お前に興味があるんだから」
「あのー、そういうことは言わないでと言っているのに」
「別にいいさ。どうせ、バレたってね」
「私が困ります。あなたの場合は注目の的だから、これ以上は揉め事は困るの」
「ほっといても起こるさ。この分だとな」どういう意味だろうとは思ったけれど、それより呆れて物が言えなかった。

 半井君がどこを受けるか何度も聞かれたけれど黙っていた。面接練習の前にみんなで練習していた。
「ここで、やはり、ちゃんとお辞儀しないと」
「質疑応答のほうが困る。志望動機、部活での活動内容、後は?」
「学校生活ではどういう活動してたか聞かれるとか?」
「生徒会とかなら分かるけど、後はないだろうな。勉強時間は聞かれるかな?」
「友達と仲良くやっていますかとか言うのかな?」と言い合っていた。
「そんなに時間はないらしいぞ。後は素行不良な人は面接でばれるらしい」
「え、どうして?」と加賀沼さんが通りかかって聞いていた。気になるようだ。男子が言いにくそうにしていて、
「髪型をおとなしめに変えて髪も染め直して、言葉づかいも変えて、でも、わかったらしいよ。受け答えじゃなくて、全体の雰囲気で分かるって。普通の生徒と違うらしいから。俺の姉貴がそう言ってたんだよ。先生と話す機会があって、面接担当した話をしてくれて、『そういう人は分かりますから』と言われて驚いたんだって」
「何で分かるんだろう?」
「素行調査するとか?」
「見る目があるんじゃないの?」と言い合っていて、加賀沼さんが困った顔をしていた。
「内申に処分とか書かれるの?」と小声で聞いていて、
「知らないけど」とみんなが困った顔をしていた。
「書かないみたいだよ。さすがにね。よほど困った事をしてない限りね。でも、親と三者面談、もしくは校長先生も交えての親の呼び出しがあると、私立の厳しいところだと危ないと聞いた。調べるのかな?」と女の子が言い出したので、みんなが驚いていた。
「俺、ミゲールがそういうことがあったと聞いた」
「鳳は?」
「知らない」と言い合っていて、加賀沼さんが青い顔をしていた。
「タバコとかでの処分、そういうのはかなり響くから無理だって聞いたよ。暴力事件起こした前の学校の先輩がそうだったから」と男子が言いだして、瀬川さんが物を落としていた。みんながさすがにシーンとなってから、2人が離れて行き、
「この話題はやめよう」と一人の男子が言ったため、みんなが小さくうなずいた。

「ねえ、どうしよう」と加賀沼さんがぼやいていて、
「先生がミゲール推薦は無理と言った意味、分かるわ」と宮内さんが笑った。
「うるさいわね」と加賀沼さんが睨んでいて、
「私、日立女子じゃないし」
「私は駒沢南」とにらみ合っていた。
「あそこは大丈夫じゃないの」とそばにいた三井さんが言ったのを睨んでいて、
「でもさ、聞いたけど、気に入らない子に嫌がらせを連続してやってたらさぁ、親が何度も呼び出しがあったらしくて、先生に『そういうことが続くなら推薦できない』と言われたらしいよ」
「え?」とそこにいた全員が驚いていた。
「あれってさ。先生に注意されるだけで終わるから、いい気になって裏では続けてたらしくてさぁ。処分はないだろうと高をくくってたらしいの。ところがいきなり校長が替わって、そういう部分が厳しくなって、それで言われたんだって」
「え、そんな……」と三井さんがうつむいていた。
「あんたのテストを覘き見したのは、大目に見てもらったんだってね」
「いいじゃない、それぐらい」と三井さんが向きになって言ったら、
「親戚の子の学校だと、全教科零点だって」と言われて、三井さんが戸惑っていた。
「あまりやらないほうがいいよ。素行調査はしないかもしれないけど、受かってから言われた人がいたらしいよ」
「なんのこと?」と加賀沼さんが慌てていた。
「ミゲールじゃなくてもさぁ。私立って校則厳しいところがあるから、素行が合わないなら結構厳しい処分を受けるらしいよ。義務教育じゃないから」
「そんな……」と加賀沼さんが困っていた。
「あまりやると危ないってこと?」と三井さんが慌てていて、
「知らない。友達の話と親戚の話とどれがどれか分からないぐらい聞いたから。誰かに聞いてよ」と宮内さんは逃げるようにして行ってしまった。

「ねえ、ちょっと」と呼ばれて驚いた。加賀沼さんがいて、そばに瀬川さんもいたので、警戒してしまった。
「話があるの」有無を言わさない感じで連れて行かれた。廊下の隅に行き、
「話さないでよ、先生に」と瀬川さんににらまれて、
「なにを?」と、聞いた。彼女達が言うなら、きっと佐分利君の時の事だろうなと思った。
「困るのよ。この時期に言われると」と加賀沼さんが珍しくうろたえていた。
「いじめとか、そういうのはなかったんだからね」と睨んでいて、すごく都合がいい人だなぁと思った。
「だから、そういうことは先生に」と言った時、彼女達が私の後ろを見ていた。半井君が立っていて、
「そうか、そういうことね」と笑っていた。
「ちょっと油断してたけど、まさかこんなになってから言ってくると思ったら、そういうことか。取引したろ。安心しろ」
「違うわよ。前のことのほうも含めてよ。あなたが生意気だから、色々あったでしょう?」と加賀沼さんが言って、なにかあったっけ? と考えていた。半井君が私の様子を見ながら苦笑していて、
「石を投げた件か?」と半井君に聞かれて、2人が睨んでいた。
「今更、蒸し返されて困るのよ」
「未だに反省していないようだ」と、半井君が皮肉っぽく言ったけれど、相手が睨んでいた。あの件は謝罪はしてくれたけれど、あまりスッキリしたものではなくて、加賀沼さんのお父さんだけが何度も謝罪していたということを思い出していた。
「だから、言わないでよ、頼むから。言ったら一生うらむわよ」と言ったので、
「自分本位だな」と半井君が笑った。
「あなたもよ」と睨んでいて、
「俺は別にもう関係ない、と言いたいところだけれど、言わないほうがお互いのためと話はついたはずだ。お前らも忘れろ。佐分利にも言っとけよ」
「言わないわよ。佐分利、あなたのことをなんだか気に入っていて、そのことで昭子が怒られてたもの。さすがにあいつに逆らわないわよ。怖いから」
「なら、いいじゃないか」
「前の件も言わないでよ。困るんだから。それで駄目になったら、また、父に怒られるんだから」と、加賀沼さんが睨んでいて、
「お前って、そういうことでしか物事が見られないのか?」と半井君が笑っていて、逃げるようにして行ってしまった。
「来ておいてよかったよ。証人としてついていたほうがいいからな」
「何で知ってるの?」
「クラスの女子がひそひそ言い合っていた。前園さんとか」
「そう」
「それより、あいつらが廊下などで集まって、こそこそ言い合ってるけどなんだよ?」
「何のこと?」
「三井、一之瀬、あいつら、矢井田とか、身に覚えがある連中」
「なにかあったの?」
「お前に聞くんじゃなかった」と笑われてしまって、何かあったのかなと思った。

 帰る時に拓海君に聞いたら、
「結構、慌ててるんだろ。例の件があるから」
「何のこと?」
「隠し紙」
「隠し紙?」
「あれ、知らないのか? 回ったらしいぞ。汚い字で点数が書かれていた。イニシャルと点数。三井たちのものじゃないかと噂が流れている。廊下に落ちてたか何か知らないがそう聞いた。それで、誰だろうかと探ししてたけど」
「点数って?」
「テストの点数。だから、男子も女子も知ってるようだぞ。お前は知らなくてもいいさ。ほっとけ」
「でも、なんだか、加賀沼さんが慌てていて」
「それはほっとけよ。まったく……。俺が知っていたら行ったのに。何で、半井が行くんだよ」
「証人だって」
「ふーん。あいつらも点数のことは知ってるわけだから、少しはおとなしくなると思ったけれどね」
「そうかなぁ」と言ったら拓海君が笑っていた。

 男子の面接練習が終わり、女子が始まって、前のグループが終わるのを、廊下で待っていた。
「緊張する」と言い合っていて、練習した事を口ずさんでいた。前の人たちに何を聞かれたかを軽く聞いたあと、交代して、一人一人入るところからやらされて、着席してから先生に聞かれた。一人一問だけだったのですぐ終わった。
「次の人たちを呼んできてくれ」と言われて、頭を下げて出ようとしたら、
「佐倉」と呼ばれてそっちに行った。
「個別練習は英語でいいんだよな?」と聞かれてうなずいた。
「あまり時間が取れないかもしれない」と言われてうなずいてから、外に出た。例年だと合同練習だけで終えるらしい。桃子ちゃんのお姉さんの時代はそうだったようで、
「PTAに何か言われたんだろうね」と桃子ちゃんが言っていたので、そうかもしれないなと思った。

「俺さぁ、やっぱり変えたくないよ」と男子が言い合っていた。
「でも、この時期まで粘ってるのは2人だけだろ。恵比寿≪えびす≫は勝算ないね。市橋にいけるわけないよ。曾田にすれば」
「曾田だったら海星だと言ってるらしいよ」
「その違いってなんだよ」と男子が言い合っていた。
「でもさぁ。気持ちは分かるなぁ。一発勝負に賭けたい気持ち」
「でも、裏目に出たら結構大変じゃないか」
「大学なら浪人だけど、高校は無理しない方が」
「俺の知り合いで結構いい高校と大学に行ったんだよ。ところが戻ってこないって」
「なんで?」
「知らない。大学行ってから人生ががらっと変わって、遊びまくったか何かで何年も大学に行ってるらしいからな」
「ふーん、そういう場合ってどうなんだろうな」と言い合っていた。最近はデマなのか真実なのか分からない話も出回っている。拓海君に教えてもらったイニシャルと点数が書かれた紙のことも碧子さんは知っていた。
「ただ、それは本当の点数かどうかが分からないそうですから」
「イニシャルだけなら当てはまる人は多いよ」
「いえ、クラスが書いてあったそうです」それだと絞り込まれてしまうかも。
「そういうデマはあるようですわね。困ったものですわ。三井さんは慌ててあちこち聞きまわってますから、逆効果かもしれません」
「何のこと?」
「英語のテストのことです。あれは本来なら零点になることもあるそうですが、そうならなかったようですわね。よく分かりませんが、あちこちに聞いていて、心配していて」と小声で言ったので、困ったなぁと思った。

「どうしよう、どうしよう」と三井さんが言うのを一之瀬さんも頭を抱えていた。
「何で今頃、教えるのよ。もっと早く言ってよ」と睨んでいて、
「謝りに行くか。口止めしたほうが」と言い合っていた。
「だって、時効でしょう」と一之瀬さんが開き直ったら、
「時効も何も、そういう部分って、これから響かない?」と聞いていた。
「出校停止は響くでしょうね」
「先生に聞いたほうがいいかな」とみんなが慌てていて、そばを通りかかった男子が、
「なにしてんだ?」と聞いた。みんながじろっと睨んでいて、
「怖いよなぁ」と逃げて行った。
「あの子と、こっちとそれから」と一之瀬さんが考えていて、
「今更、2人で慌ててどうするのよ」と鈴木洋子さんが笑っていた。
「あんただって同罪じゃない」
「私はないわよ。そういうのはね。口は災いしてないし」と悪びれず言ったため、みんなが冷ややかに見ていて、
「どうしよう、どうしよう」と一之瀬さんと三井さんが慌てていた。

 夜になって、知らない声の女の人から電話があったため、
「何か御用でしょうか」と聞いたら、
「ああ、母親は?」とぶしつけな言い方で聞かれて、
「名乗らない方に聞かれても困りますが」と言ったら、
「ああ、そうだったわね」と言いながら、
「三井の母よ」と言ったので、声が似てるかもと思った。
「母はおりません。父は今日も遅くなると思います」
「何時に帰るの?」と横柄≪おうへい≫に聞いてきて、
「11時には戻ると思いますが」と答えたら、
「遅いわねえ」と言われて、こっちが悪いかのような口調で、ちょっと気分が悪かった。
「まぁ、いいわ。土曜は、それならいるんでしょう」と決め付けた口調がなんだか好きになれなかった。
「土曜でも遅くなることもありますが、日曜も朝はおりますが、出かけることも多いので」と答えたら、
「じゃあ。日曜に電話してよ」と言われて、
「どのようなご用件でしょうか」と聞いた。
「あんたに言ってもねえ」という言い方がちょっとカチンときたので、
「そうですか、では」と言って電話を切ろうとしたら、
「待ってよ」と慌てていた。
「父親に言っておいてよ。変な事を言ったら承知しないから」
「何のことでしょうか?」
「娘のことで変な事を言いふらしたら、ただじゃ」と言いかけて、
「お母さん、やめて」と違う声が聞こえた。三井さんのようで、
「相手を怒らせたら、こっちが不利になる」と言ったので、変な親子だなぁと思った。
「何言ってるんだよ。濡れ衣じゃないか。あんた、答案見てないって言ったろ」
「それはチラッと見ただけでと……言った……というか」としどろもどろだった。
「『見てない』って言ったじゃないか。それで、先生が怒るのはやりすぎなんだろ。しかも、『この子が言わなければ良かったのに』って言ったの、あんただろ」と言い合っていたのでびっくりした。うーん、すごいかも。
「違うんだってば」
「何が違うのさ。この子が悪いんだろ」
「違うよ、答案は見たけど、ただ、ちょっと運が悪かっただけで」すごい親子喧嘩だなぁと聞いていた。延々10分はやっていただろうか、さすがに疲れたようで、
「一度切るよ」と勝手に切ってしまった。お母さんには嘘をついていたらしい……と言うのだけは分かった。

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