問題発言とは

 ミコちゃんと登校しながら、加茂さんの問題の説明をしていた。
「なるほどねえ、それで今日は一緒にはいないんだね」
「さすがに朝もこっちにわざわざ来てもらって登校するのは厳しいでしょう? 一秒でも長く寝ていたいと思うけれど」
「関係ないらしいよ。朝錬がある場合もあるからね」
「バレー部だけじゃないの?」
「あるよ、どこもね。さすがに吹奏楽だけは苦情が来るからやっていないけれど、それ以外はそれほど苦情はないんだって。あのバイクぐらいだね。それもやらないって約束してくれたんでしょう?」
「あのグループ内にも勢力が3つあるんだって。山川さんの所はつるんで遊ぶのが主で、バイク集まりのところもあって、喧嘩好きのところもあるらしいよ。あの一部はそうだったんだって。よく分からないのだけれどね」
「佐分利がそうかも」
「だれそれ?」
「知らないの? 加茂さんと同じクラスの男子。うちの的内とはあまり仲が良くないらしいけれど、加茂さんとはかぶってるんだろうね。よく分からないけれど、佐分利は問題児の中でも飛びぬけて問題ありだからね。隣のクラスの一之瀬さんの友達だった、内藤もひどいらしいけれど、一つ年上の3人も佐分利と一緒だったらしいし」
「よく知ってるね」
「一つ年上は、落合さんがそうだよ。ほら、昔この辺の土地持ちで、今は別の所に住んでいる」
「ああ、名前だけ聞いた事がある。制服が目立つ人でしょう?」
「そういう人だよね」
「高いのかなあ? 大体どこで売ってるんだろう?」
「つてでもあるんでしょう? とにかくさあ、両極端らしいよ」
「なにが?」
「ああいう人は中間が少ない。すごいお金持ちだけれど、親の愛情に飢えてる家庭とか、反対にお父さんかお母さんが飲み歩いたりパチンコしてたり暴力があったり、色々大変な家」
「よくわからない。昨日来た人は、ほとんどが襲ってきた人たちと違ったの。山川さんは話を聞きたかったらしくて、乱暴な人は連れてこなかったの」
「そうでないと難しいって。口より手が早いヤツもいるから、言っても無駄だってお母さんが言ってたなあ」
「なんだか、色々聞いたら、大変そうだな……とは思ったの」
「ふーん、まあいいじゃないの。それで今日も一緒に帰るんでしょう?」と聞かれてうなずいた。
「しばらくそのほうがいいって、勢力が分かれてるようだし、まだ納得していなかったら危ないから」と言われて考えていた。
「あのね、……あの子の親って暴力振るうから有名らしいよ」
「え?」
「あまり大きな声で言えないけれど、近所で知らない人はいないよ。だから、付き合うなって、うちの親に言われてた」
「知らなかった」
「きっと、本人はそういう噂も知ってたんだよ。だからね。とにかく、気をつけたほうがいいよ。一之瀬さんのほうもね」
「そうだけれどね」意外だった。彼女はもっと色々言ってくるかと思ったのに、あのあともロザリーたちと楽しそうにしていて、別に普通の態度だった。
「山ちゃんが人気があるからいけないんだよ。だから、ひがまれちゃうんだろうね。好きな人と一緒にいたいってみんな思う年頃だし」
「ミコちゃんはだれ?」
「え?」と固まっていた。
「あれ? 聞いちゃいけなかった?」
「そういうことはいいの」とちょっと顔が赤かった。
「教えてくれてもいいのに」
「そういうことは自分が告白してから言いなさい」と言われて、昨日のことを思い出してしまった。
「あれ? なにかあったの?」
「なんでもない」とうつむいてしまって、
「なにかあったな……」と意味深に見ていた。

「名誉の負傷だ」
「違う、名誉の傷跡だって。さすが山ちゃん。とっさに鞄でよけるとは」拓海君の鞄を見て、みんなが驚いていた。パイプで殴られたあとがくっきり斜めに入っていたからだ。
「しかし、佐倉を庇って、その鞄。しばらくは言われそうだよな」
「でもいいなあ、私も庇ってよ」と前のほうで拓海君がからかわれていて、私は周りの子に色々聞かれて、ため息をついていた。
「しかし、いよいよ、怪しいよな。山ちゃんもそろそろ、ちゃんと言わないとさあ」
「弘通、水をあけられたな」と言われていて、弘通君が笑っていた。
「恋愛モードが高まってきたよな。おーい、誰かクリスマスになにか、くれ?」とやり合っていて、そう言えば、そういうものもあったなあ……と考えていた。
「山ちゃんって、もう一人いたんでしょう?」と口の軽い子に言われて、みんなが驚いていた。テニス部の誰かが話したな。と思ったけれど黙っていた。
「タクのほうがカッコいいじゃないそう呼ばせてよ」と前のほうで言っていて、
「お前だけは呼ぶな」と拓海君が笑っていた。

 お昼休みに碧子さんと話していた。先輩とそろそろ別れることになりそうだと説明した。
「そうなんだ、先輩と別れるんだね」と言われて、
「だから、碧子さんも」と言ったら、
「それは考えてはいたけれど、でも……」と言ったので、言いにくいのかなと思った。
「でも、言わないと分からないぞと彼に言われたの」
「山崎君に言ったの?」と聞かれてうなずいた。
「そう、良かった」
「でも、いざ言うとなると恥ずかしくて、なんて言っていいか」
「優しい人ですもの。大丈夫でしょう?」と言われてうなずいた。
「先輩も誤解されているの。本当はとても優しい人なのだけれど、なにぶん、女癖の悪さがまことしやかに流れていて」
「そうねえ、色々言う人はいるわねえ」
「あの先輩も否定せずに、余計、変なこと言うから、そんなことになってる気がする。本当はどうなのか良く知らないしね」
「そうね、それは私も思うわ。でも、きっと好きな方がいらっしゃると思うわ」
「そうなのかな?」
「そう思うわ」と碧子さんに言われて、そうなのかなあ……と考えていた。

 放課後、意外にも楢節先輩のほうから教室に来たので、びっくりしたけれど拓海君と2人で焼却炉のそばまで行って話をしていた。
「それで、あいつらは来ないならよさそうだな」と先輩が言った。加茂さんの事件を聞いたらしく聞いてきたので説明した。
「そっちはいいとして、例の件はどうした? 言っていないなら、この場で言え」と言われて、唖然とした。
「ああ、そっちはもうクリアしたので、よろしく」と拓海君がにやっと笑っていて、
「やなやつだよなあ。お前のほうは認めていないぞ。まあ、仕方ないか。幼馴染だそうだから仲良くなってもねえ。とにかく、巻き込まれやすいし、ドジ子だから、ちゃんと守ってやれよ。お前だと、ちと心配だ」
「先輩のそばのほうが危ないですから、大丈夫でしょう」
「俺は巻き込ませてはいないな」
「そう言えば教えてくださいよ。あの発言ってなんですか? 幻滅するようなことでも言ったんですか?」と拓海君が聞いていた。
「なんだよ、教えていないのか? 意外と義理堅いな。まあいいや、教えてやるよ。入学式に道に迷った子羊が一人、バス停から降りた俺の前を行ったり来たりしていたので、拾ってやったんだ」
「なんですか、それ?」と拓海君が驚いていた。
「子羊ちゃん。迷っているのかい。お兄さんがいいところに」
「先輩!」と睨んでしまった。
「もとい、お兄さんが中学校につれて行ってあげようと声をかけ、一緒に歩いていたら、次から次へと美女が現れ、『もう寂しかったわー』と声を掛けられて」
「嘘ばっかり」
「そうして、何とか学校にたどり着いたとさ。チャンチャン」
「何がチャンチャンですか。行く途中にすごい顔をして睨んでいた女の人たちに囲まれて、『どういうことなの、二股、三股なの?』と言われてしまい、遅刻しそうになったのはよーく覚えていますからね」と睨んだら、拓海君が苦笑していた。
「その頃からそうだったんですね。なるほど、それは幻滅する」
「それだけじゃないでしょうが」と睨んだら、
「そうそう忘れていた。『この間はすみませんでした』とお礼を言ってくれた子羊ちゃんが、テニス部にやってきて、『そう言えばどうしてバス停にいたんですか』と聞いてきた」
「そう言えば、そうですよね」と拓海君が聞いていて、
「そうして、僕は教えた。『そう、それはね、お兄さんには別れられない恋人がいてね、その人と朝まで一緒だったからだよ』と答えた」と先輩が言ったため、拓海君が唖然としていた。
「『ああ、駄目よ、行かないで、朝まで一緒にいて』と言われて、こんな時間になりと説明したら、その後から白い目で見るようになり」
「当たり前ですよ。そういうことを言われて、真に受けたんですよ。ところでそろそろ本当のことを言って下さいよ」
「だから、そうだよ。その人とは別れないといけなくなり、逢瀬もその時が最後だったので一晩過ごして、『もう二度と会えないわ、まさる様、どうか今宵またと言って別れましょう』と言われて」
「後朝の歌でも置いてきたとか言わないで下さいよ」
「いいな、それ」と先輩は悪びれもせず答えた。
「ショックで寝込みそうでしたよ。そういうことばかり言うから尊敬できない。どこまで本当で嘘やら」
「全部本当だと言っただろう? お前は本当に俺を信用しないなあ」
「その話のどこのどの部分を信用しろと」と睨んでしまった。
「変態会長って言われる訳だ」と拓海君が苦笑していた。
「うるさいぞ、その変態に点数で負けたくせに」と先輩が応酬していて、2人でにらみ合っていた。
「まあ、いいや。とにかく、これからは2人で仲良くやりなさい。時々からかってあげよう、ほととぎず」
「そのめちゃくちゃな言い回しが時々付いていけない」
「付いて来い、付いて来い。俺についてきたら間違いない」と言いながら先輩が戻って行った。
「付いていかないよー」とアッカンベとやった。
「確かにあれじゃあ、好きにはならないよな」と笑っていた。
「ああいうことばかり言ってるから、変態と言われるんだよね、でも、モテるという不思議キャラ」
「それはしょうがないさ。元会長、成績優秀、背も高くて見た目もそれなりに良ければね」
「性格が少々難ありでも?」と聞いたら、彼が笑っていた。

 一緒に教室に戻るときにじろじろ見られてしまった。
「しかし、それで幻滅したのか?」と言ったので、
「ああ、あれ以外にもいっぱいあるよ。一番幻滅したのは、朝帰りしたと言ったからね」
「なるほど、それは中学生にあるまじきことだよな」
「でしょう?」
「俺もしたことあるけれど」
「へ?」
「お前と」と言ったため、驚いて見てしまった。
「ない」
「あるよ、忘れてるだけだ。遠い昔の記憶を辿れ」
「おーい、幼稚園児の場合は意味が違うでしょうが。お泊り保育という」
「そうとも言う」
「あの先輩の場合とははるかに違う」
「でもなあ、その話が本当だったらすごいな。あの人の親がびっくりしそうだ」
「カウンセラーの母親ってどうなんだろうね?」
「有名だと聞いたよ。まあ、そういう親にああいう人って分からなくもないが」
「ありえないよ」と言ったら、彼が笑っていた。
「お、お戻りだねえ」と一部の生徒が残っていた。
「部活は?」
「吹奏楽はのんびりやる予定」と朋美ちゃんが須貝君の書いている。絵を見ながら言った。
「かわいいね」と言ったら照れていた。
「上手だなあ、こうやって描けると素敵」
「そんなことないよ。親に色々言われる。そろそろ勉強もがんばれって」
「うちも」「俺もだな」と言っていて、弘通君と山崎君は何も言っていなかったので、
「お前らはできるから言われないんだな」と光本君が言った。
「言われはしないけれど、将来のことは考えておけと時々言われるね」と弘通君が言いだして、
「俺もだな。俺は先輩に勉強しろとさっき注意されたけれど」
「先輩?」
「変態会長」
「ああ、あの人ね」とみんなが笑った。すっかりそのあだ名が浸透しているなあ。
「佐倉は?」
「うちは親と会話がない」と言ったら、
「そうか、父一人子一人だとそれはあるなあ」と光本君が言った。
「勉強しないといけないかなあ」
「それはやれよ。お前は手抜きだからな」と拓海君に言われて、
「しかし、山ちゃんって変だと思った。タクに変えれば」とあかりちゃんが寄ってきて言った。
「お前以外だったら考えてもいいけれどなあ」と言ったためみんなが笑っていた。

 部活に行っても、みんなは普通にやっていた。総当たり戦をやりだして、組み換えをどうするかで話し合いをしていた。一年生の中にも有望な人がちらほらいるし、その辺の話し合いを湯島さんと小平さんがしていた。私は眠くてぼーとしていた。昨日のことを思い出してしまい、恥ずかしくなった。あのせいで夜もあまり眠れなかった。拓海君って意外とああいうところがすばやいかも……前もそうだったし……なんだかねえ……と考えていた。
 思い出したいな。彼との思い出、どうして思いだせないんだろうなあ。
「それでよさそうだね」
「おーい、佐倉が寝てるぞ」と叩かれた。
「なに?」と起きたら、
「山ちゃんの夢でも見てたのか?」と言われてしまい、
「アイドルの夢って見たことある?」と聞いたら、今度はそっちで話が盛り上がっていて、
「そろそろさあ、ちゃんと練習しましょうよ」と後輩が怒っていた。
 練習内容を個人的に変えたほうがいいと言って、変えてやることにしていた。百井ペアは決裂してしまい、なぜか私と百井さん、菅原さんと元川さんが組む事になってしまった。最初だから慣れなくてお互いにお見合いばかりしていて、どうしてかなあと考えていた。
「それは簡単だ。あっちがお前に合わせていない」と帰るときに拓海君に指摘されて驚いてしまった。
「そうなのかな?」
「だから、誰とやっても合い辛いぞ。お前の場合は相手に合わすこともできるからそうしてやれ、菅原さんにもそう言ってやれよ」
「了解。すっかりお世話になりきってるなあ。ごめんね」
「いいよ、そういう相性なんだろうな」
「そう言えば、お母さんが教えてくれたよ。テニスのことはお父さんにいっぱい聞いてくれたんだね。てっきり、家族でそういう話をする家なんだと思ってうらやましいなと思ってたのに」
「母さんもよけいなことをばらして」
「クラスの方の困った人たちの事もおじいさんにわざわざ聞いてくれたんだね?」
「しょうがないだろう? 俺のいた学校にああいう事例はあっただろうけれど、俺は良く分からないからそういう類の本をいっぱい持ってるし知っている爺さんに聞くのが手っ取り早いからな。お陰でそういう本を読んだし」
「陰でそんな努力をしててくれたんだ。ごめんね」
「俺って意外とけなげだって、戸狩に言われたけれど。その通りだよな」
「すごくよく知ってるなあと思って感心してたの」
「そこまでは無理だよ。戸狩や、学級委員とか経験済みの弘通と違って、俺はリーダーとかやったことないからな。ジャイがいたときは、その下で苦労してね。よく山ちゃんが庇ってくれて、いなくなってからは色々やったな。遊ぶのが楽しかったよ。そのときはね」
「色々あるんだね。グループの力関係の移り変わりかあ」
「あるよな、それってさあ。有力者に取り入ってのさばってきたヤツは、そいつがいなくなるとバランスが崩れるから一時的に力が弱くなるよな。一之瀬がそうだろう?」
「そうかも」
「あいつも居場所を探しているんだよ。加茂と同じだ」
「そうなの?」
「家庭に居場所がなくて、集まってるんだと思うよ。話を聞いてくれる人を探しているんだ。だから、恋人がほしかったんだろうな」
「恋人かあ」
「加賀沼も同じだったようだよ。ああ見えて、心配ではあるんだろうな。クラスで浮いてるからね。プライドの高さを低くすればいいんだろうけれど、無理だな」
「そうなのかなあ? よくわからないな」
「俺はお前と話しているとほっとするけれど」
「どうして?」
「のんびりしているしな。すぐ真に受けるし、からかうとすぐ顔に出てわかりやすい」
「おもちゃにしないでよ」
「無理、楽しいから」
「そんな人だったとは、クールな山ちゃんだったはず」
「いや、山ちゃんになってから、時々優しいと言われるぞ。特にお前にね」
「感謝しております」
「昨日はよかったな」
「もう、恥ずかしいなあ」
「やっと言ってくれたよ。これからは時々言ってもらおう」
「無理だよ、昨日だって心臓がどきどきしちゃって」
「がんばって慣れろ。お前はそういう部分が駄目だからねえ。鍛え甲斐があるなあ」と拓海君がうれしそうだった。

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